コンプライアンス違反とは?事例と3つの要素をわかりやすく解説
昨今、ニュースや新聞で見ない日はない「コンプライアンス違反」という言葉。ひとたび不祥事が発生すれば、企業の規模を問わず、長年築き上げてきた信頼が一瞬で失われる時代です。
しかし、言葉の意味は知っていても「具体的に何が違反になるのか」「なぜ健全な企業でも違反が起きてしまうのか」を正確に把握できている方は少ないのではないでしょうか。
本記事では、コンプライアンス違反の定義といった基礎知識から、不祥事を引き起こす心理的・環境的要因、そして実際に起きた身近な事例まで詳しく解説します。この記事を読むことで、自社のリスクを再確認し、実効性のある防衛策を講じることができるようになります。
コンプライアンス違反とは?意味と重要性を簡単に解説
コンプライアンス(Compliance)は、日本語で一般的に「法令遵守」と訳されます。しかし、現代のビジネスシーンにおけるコンプライアンスは、単に法律を守るだけでは不十分です。
まずは、その正しい意味と、なぜ今これほどまでに重要視されているのか、その背景を整理しましょう。
専門用語なしでわかる「コンプライアンス」の基礎知識
コンプライアンスとは、企業が法律を守ることはもちろん、「社会的な規範」や「企業倫理(モラル)」、さらには「社内規定」を守って公正・適切に業務を行うことを指します。
以前は「法律に触れなければ良い」という考え方が主流でしたが、現代では以下の3つの層をすべて守ることが求められています。
- 法令: 国が定めた法律や自治体の条例
- 社内規定: 就業規則、業務マニュアル、企業理念
- 社会倫理・道徳: 時代の要請に応じた常識やマナー、SNS上のエチケット
例えば、法律で禁止されていなくても、消費者を騙すような不誠実な広告を出したり、環境に配慮しない活動を行ったりすることは、現代では重大なコンプライアンス違反とみなされます。
現代企業が直面する3つの主な違反リスク
現代の企業が特に注意すべきコンプライアンス違反には、大きく分けて3つのリスクが存在します。
| リスク分類 | 具体的な内容 |
| 法的リスク | 贈収賄、談合、インサイダー取引、著作権侵害、脱税など |
| 労務・人権リスク | パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、長時間労働、不当解雇など |
| 情報・誠実性リスク | 個人情報の漏洩、SNSでの不適切投稿、産地偽装、粉飾決算など |
これらのリスクは、インターネットやSNSの普及により、瞬時に拡散されるという特徴があります。かつては隠し通せた不祥事も、今では従業員や顧客の投稿から白日の下にさらされるケースが急増しているのです。
なぜ起こる?コンプライアンス違反を構成する「3つの要素」

どれほど誠実に見える企業でも、条件が揃えばコンプライアンス違反は発生してしまいます。なぜ、一線を超えてしまう人が現れるのでしょうか。
そのメカニズムを解明する上で欠かせないのが「不正のトライアングル」という理論です。
不正のトライアングル:動機・機会・正当化とは
アメリカの犯罪学者ドナルド・R・クレッシーは、不正行為は「動機」「機会」「正当化」の3つの要素がすべて揃ったときに発生すると提唱しました。
- 動機(プレッシャー):
「ノルマが達成できないとクビになる」「借金がある」「高い評価を得たい」といった、不正に手を染めざるを得ないと感じる心理的な追い込みです。 - 機会(チャンス):
「チェック体制がザルである」「自分一人で承認から実行まで完結できる」「監視カメラがない」といった、不正を行ってもバレない、あるいは行いやすい環境のことです。 - 正当化(自分への言い訳):
「みんなやっている」「会社のためになる」「一時的に借りるだけだ」「これだけ苦労しているのだから当然の権利だ」といった、自分の行為を悪いことではないと思い込む心の動きです。
これら3つのうち、1つでも欠ければ不正は起きにくいとされています。逆に言えば、どんなに真面目な社員でも、過度なノルマ(動機)があり、管理が杜撰(機会)で、組織全体が「仕方ない」という空気(正当化)であれば、違反を犯す可能性が高まります。
違反を引き起こす「企業風土」と「教育不足」の背景
不正のトライアングルが形成されやすい土壌として、不健全な「企業風土」と「教育不足」が挙げられます。
特に以下の特徴を持つ職場は危険です。
- 過度な成果主義: プロセスを問わず、数字のみを評価する体制
- 閉鎖的なコミュニケーション: 上司に異論を言えない、不祥事を報告すると「裏切り者」とされる空気
- 不十分な研修: 「何が違反になるか」の具体的な基準が社員に周知されていない
例えば、長年「慣習」として行われてきた不適切な処理が、実は重大な法令違反であることに新入社員が気づいても、先輩や上司が「これがうちのやり方だ」と正当化していれば、負の連鎖は止まりません。
【ケース別】身近に潜むコンプライアンス違反の具体的な事例

コンプライアンス違反は、決して大企業や特殊な業界だけの話ではありません。私たちの身近な場所でも、知識不足や一瞬の油断から発生しています。
ここでは、近年特に注目されている3つのカテゴリーにおける具体的な事例を見ていきましょう。
SNS・情報漏洩:アルバイトの不適切投稿や顧客データ流出
デジタル化が進んだ現代において、最も頻発しているのが情報に関するトラブルです。
- 不適切投稿(バイトテロ):
飲食店の従業員が厨房で不衛生な行為をし、その動画をSNSに投稿。ブランドイメージが失墜し、株価暴落や店舗閉鎖に追い込まれるケース。 - 機密情報の漏洩:
退職した社員が、競合他社へ転職する際に顧客リストや技術情報を持ち出す事例。 - 誤送信・紛失:
顧客の個人情報が入ったUSBメモリを紛失したり、メールの宛先を間違えて一斉送信したりするミス。
これらは悪意があるケースだけでなく、「これくらい大丈夫だろう」という軽い気持ちが発端となることが少なくありません。
労働問題:サービス残業の強要やパワーハラスメント
労働環境に関する問題は、企業の「ブラック化」を象徴する深刻な違反です。
- サービス残業・賃金未払い:
タイムカードを先に打刻させ、その後に業務を継続させる行為。これは労働基準法違反であり、遡及して多額の未払い残業代を請求されるリスクがあります。 - 各種ハラスメント:
上司が立場を利用して人格否定をする「パワハラ」、性的な言動で不快感を与える「セクハラ」、育休取得を妨害する「マタハラ」など。 - 過労死ラインを超える労働:
36協定の上限を超えた長時間労働を強いることは、安全配慮義務違反に問われます。
業務不正:売上改ざん・助成金の不正受給・産地偽装
利益を追求するあまり、ビジネスの根幹を揺るがす不正に手を染めるケースです。
- 産地偽装・賞味期限の改ざん:
安価な外国産を国産と偽ったり、売れ残った商品の期限ラベルを貼り替えたりする行為。消費者の健康被害に直結しやすく、刑事罰の対象にもなります。 - 助成金の不正受給:
休業していないのに休業手当を支払ったように見せかけ、雇用調整助成金を国から騙し取る事例。 - 会計不正(粉飾決算):
赤字を隠すために架空の売上を計上したり、経費を翌期に回したりして決算書を偽る行為。投資家への重大な背信行為です。
【引用元】
厚生労働省「労働基準関連法令に違反した公表事案」
https://www.mhlw.go.jp/content/001527991.pdf
違反が企業に与える3つの甚大なダメージ
一度コンプライアンス違反が発覚すると、その代償は計り知れません。「バレなければいい」という考えは、企業の存続そのものを危うくします。
具体的な被害は、以下の3つの側面に現れます。
社会的信用の失墜とブランドイメージの低下
最も回復が難しいのが「信用」です。
不祥事が報道されると、消費者は「この会社の製品は危ない」「裏で何をしているかわからない」というネガティブな印象を持ちます。一度ついた「不誠実な会社」というレッテルを剥がすには、数年から十数年の歳月を要することも珍しくありません。
また、既存の取引先から契約を打ち切られたり、銀行からの融資が受けられなくなったりと、営業活動に深刻な支障をきたします。
巨額の損害賠償と法的責任(倒産リスクの増大)
金銭的な損害も無視できません。
不祥事の内容によっては、以下のようなコストが発生します。
- 損害賠償金: 被害者(顧客や従業員)への支払い
- 制裁金・罰金: 行政からの課徴金や刑事罰としての罰金
- 回収・是正コスト: 商品のリコール費用や調査委員会の設置費用
特に中小企業の場合、これらの支払いがキャッシュフローを圧迫し、そのまま倒産に追い込まれるケースも多々あります。
採用難と既存社員の離職加速
「人」に関するダメージも深刻です。
コンプライアンス違反を犯した企業には、当然ながら優秀な人材は集まりません。採用市場での競争力は著しく低下し、内定辞退が相次ぐことになります。
さらに深刻なのは、今働いている誠実な社員たちのモチベーション低下です。「こんな会社で働いていると言いたくない」と、優秀な社員から順に会社を去っていき、組織の形骸化が進みます。
| ダメージの種類 | 影響の例 |
| 信用的損害 | SNSでの炎上、不買運動、取引停止、メディアの追及 |
| 金銭的損害 | 賠償金、罰金、株価暴落、融資停止 |
| 組織的損害 | 離職率の上昇、求人応募の激減、社内士気の低下 |
【引用元】
帝国データバンク コンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2024年)
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20250124-compliance2024/
自社を守る!コンプライアンス違反を防ぐための5つの対策
コンプライアンス違反を「個人の問題」で終わらせてはいけません。組織として仕組みを整えることが、最大かつ唯一の防御策となります。
ここでは、今日から取り組むべき5つの対策を提案します。
経営層から現場まで浸透させるコンプライアンス教育
まずは「何が正しいのか」を全員が共通認識として持つ必要があります。
入社時研修だけでなく、管理職向け、役員向けと階層別の研修を定期的に実施しましょう。単なる法律の講義ではなく、自社で起こり得る具体的なケーススタディを用いたワークショップ形式にすることで、自分事として捉えやすくなります。
違反を早期発見する「内部通報制度」の構築
不正は、現場の人間が最も早く気づきます。
しかし、「報告すると自分が不利益を被る」という不安があると、情報は上がってきません。匿名性を担保し、通報者を保護する仕組み(内部通報窓口)を、社内だけでなく弁護士事務所などの社外にも設置することが効果的です。
誰もが相談しやすい職場環境と風通しの改善
「不正のトライアングル」の「正当化」を防ぐには、コミュニケーションの質が重要です。
「おかしい」と思ったことをすぐに口に出せる「心理的安全性が高い職場」では、不正が芽のうちに摘み取られます。日頃から1on1ミーティングを実施するなど、上意下達ではない双方向の対話を増やしましょう。
定期的な内部監査とガバナンスの強化
「機会」を奪うために、チェック機能を強化します。
業務プロセスにおいて、一人で完結する作業をなくし、必ずダブルチェックが行われる体制(職務分掌)を構築します。また、内部監査部門による定期的なチェックや、外部の専門家による監査を導入し、「誰かが見ている」という適度な緊張感を保つことが重要です。
「不祥事予備軍」にならないための自社チェックリスト
最後に、自社のコンプライアンス体制を簡易診断してみましょう。以下の項目に1つでもチェックが入る場合は注意が必要です。
- [ ] 現場に無理な数値目標(ノルマ)が課されている
- [ ] 勤怠管理が自己申告制で、実態と乖離がある
- [ ] 「昔からの慣習だから」という理由で続けられている業務がある
- [ ] 社内にコンプライアンスに関するマニュアルがない、または古い
- [ ] 役員や上司に対して、部下が意見を言える雰囲気がない
【引用元】
消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/
まとめ:コンプライアンス遵守は企業の持続的な成長に不可欠
コンプライアンス違反は、一度の過ちで企業の未来を奪う恐ろしいものです。しかし、その原因の多くは「不正のトライアングル(動機・機会・正当化)」が揃ってしまう環境にあります。
「うちは大丈夫」と過信せず、教育・仕組み・風土の3要素から対策を講じることが、結果として従業員を守り、企業の持続的な成長に繋がります。本記事で紹介した事例や対策を参考に、まずは自社の現状を客観的に見直すことから始めてみてください。
信頼を築くには何年もかかりますが、崩れるのは一瞬です。誠実な経営こそが、最強のリスクマネジメントであることを忘れないようにしましょう。
