-->

スクイーズアウトとは?目的・手法・メリットから実施手続きまで完全解説

《この記事でわかること》
  • スクイーズアウトの基本概念と4つの実施手法(特別支配株主の株式等売渡請求、株式併合、全部取得条項付種類株式、株式交換)の特徴と選び方
  • 少数株主排除による経営意思決定の迅速化や長期的視点での経営実現などの5つの戦略的メリット
  • 対価支払いの資金負担や裁判リスクなど実施時に注意すべき4つのデメリット
  • 株価算定方法や情報開示義務など、スクイーズアウト実施の具体的な手続きと流れ
  • セコム・パスコや雪国まいたけなど、実際のスクイーズアウト事例から学ぶ成功のポイント

スクイーズアウトとは、企業が少数株主を排除し、完全な支配権を確立するための法的手法です。株主構成の整理や経営の迅速化を目指す企業にとって重要な手段ですが、手続きやリスクに不安を感じる方も多いでしょう。

本記事では、スクイーズアウトの基本から実施手続き、メリット・デメリットまでをわかりやすく解説します。この記事を読むことで、スクイーズアウトの仕組みや活用方法が理解でき、企業価値向上に役立つ知識を得られます。スクイーズアウトに関心のある経営者や投資家の方はぜひご一読ください。

スクイーズアウトの基本概念と定義

スクイーズアウトは、企業が少数株主を排除し、完全な支配権を確立するための重要な法的手法です。 この手続きにより、経営意思決定の迅速化や長期的戦略の実行が容易になり、企業競争力の強化に繋がります。

本章では、スクイーズアウトについて以下の項目を解説します。

  1. 少数株主排除の法的手法
  2. TOBの関係性と違い
  3. 日本制度の変遷と法的根拠
  4. 2014年会社法改正による変更点
  5. 2019年改正後の最新動向

それぞれ詳しく見ていきましょう。

1. スクイーズアウトとは何か―少数株主排除の法的手法

スクイーズアウト(Squeeze Out)とは、大株主が少数株主から強制的に株式を取得し、株主から排除する法的手法です。 企業が少数株主を排除し、持株比率を100%にして完全支配権を確立するM&A手法として活用されています。

少数株主との意見対立によって重要な意思決定が阻害されないよう、会社法ではこの手続きが認められています。 スクイーズアウトは「締め出し」や「キャッシュ・アウト」とも呼ばれ、企業の戦略的な経営判断を支える重要な制度となっています。

2. スクイーズアウトとTOBの関係性と違い

スクイーズアウトはTOB(株式公開買付)と密接に関連しており、多くの場合、まずTOBによって株式を買い集め、残りの株式をスクイーズアウトで取得するという流れが一般的です。 TOBは公開市場外で株式を買い付ける方法で、株主に買付価格や買付期間などを提示し、同意した株主から株式を取得します。

一方、スクイーズアウトは株主の同意なく強制的に株式を取得する点が大きく異なります。 上場会社の完全子会社化を目指す場合、TOBに応募しなかった残存株主からも株式を取得するためにスクイーズアウトが必要となります。

3. 日本におけるスクイーズアウト制度の変遷と法的根拠

日本のスクイーズアウト制度は、会社法の改正とともに発展してきました。 過去に行われていたスクイーズアウトは、会社法設立以前の法律と商法(1999年)に基づいていました。

当初は株式交換を前提としており、現金での株式買取は認められていませんでした。 しかし、2005年の会社法施行により全部取得条項付種類株式の発行が認められ、M&Aの実務でスクイーズアウトに活用されるようになりました。

4. 2014年会社法改正による制度変更のポイント

2014年(平成26年)の会社法改正では、スクイーズアウトの手法が大きく拡充されました。 特別支配株主の株式等売渡請求制度と株式併合によるスクイーズアウト手法が新たに導入されたのです。

特に特別支配株主の株式等売渡請求制度は、対象会社の総株主の議決権の90%以上を有する株主が、株主総会決議なしに取締役会決議のみで少数株主の株式を取得できるようになりました。 これにより、従来の全部取得条項付種類株式スキームと比べて手続き期間が大幅に短縮されました。

5. 2019年改正後の最新動向

2019年(平成31年/令和元年)以降の改正では、税制面での整備が進みました。 現金対価株式交換も組織再編税制の適用を受けるようになり、スクイーズアウトの4つの手法すべてで同様の税負担となったのです。

これにより、連結納税採用企業によるスクイーズアウトが簡素化されました。 対象会社の繰越欠損金を連結納税に持ち込めるようになるなど、税務上のメリットが拡大しています。

現在では、特別支配株主の株式等売渡請求制度が比較的短期間で完結でき、株主総会決議が不要なことから、多くの場面で活用されています。

スクイーズアウト実施の5つの目的と戦略的意義

スクイーズアウトは企業経営において重要な戦略的手法であり、少数株主を排除し経営の自由度を高めることで、企業価値の向上を目指します。 この手法には5つの主要な目的と意義があります。

以下の項目について解説していきます。

  1. 持株比率100%化による完全支配の確立
  2. 経営意思決定の迅速化と経営戦略の柔軟な実行
  3. 長期的視点での経営実現と短期的株価変動からの解放
  4. 上場廃止を実現するための手段として
  5. 事業再編・組織再編の円滑な実施

それぞれ詳しく見ていきましょう。

1. 持株比率100%化による完全支配の確立

スクイーズアウトにより持株比率を100%にすることで、企業は完全な支配権を確立できます。 これにより、資産運用や組織再編、事業戦略の策定などをより円滑に行うことが可能になります。

完全支配権を持つことで、企業は株主間の利害対立を解消し、一元的な経営判断が可能となります。 持株比率100%化は、企業グループ全体の経営効率を高め、競争力強化につながる重要な戦略です。

2. 経営意思決定の迅速化と経営戦略の柔軟な実行

スクイーズアウトの重要な目的の一つは、意思決定プロセスの迅速化です。 少数株主の排除により、重要な経営判断が迅速かつ効率的に行えるようになります。

新規事業への参入や大型投資など、重要な経営判断を迅速に実行できるようになります。 市場環境の変化に素早く対応できるため、ビジネスチャンスを逃したり経営リスクが増大したりする恐れが解消されます。

3. 長期的視点での経営実現と短期的株価変動からの解放

スクイーズアウトにより、企業は短期的な株価変動に左右されることなく、長期的な視点で経営戦略を立案・実行できるようになります。 四半期業績開示への対応義務から解放されます。

研究開発投資や人材育成など、短期的には利益を圧迫するが長期的には企業価値向上につながる施策を実行しやすくなります。 5年、10年先を見据えた一貫した経営方針の維持が可能になるでしょう。

4. 上場廃止を実現するための手段として

特定の株主が企業を完全に支配し、非公開企業として運営するためにスクイーズアウトを実施するケースが増えています。 以下の2つのパターンが主要な手法です。

手法概要
MBOとの組み合わせ経営陣が自社株式を取得し、非公開化を実現
親会社による子会社の非公開化グループ経営の効率化と意思決定の迅速化

MBOとスクイーズアウトの組み合わせでは、通常まずTOBを実施し、その後スクイーズアウトにより残りの株式を取得します。 親会社による非公開化では、利益相反問題の解消や上場維持コストの削減が実現できます。

5. 事業再編・組織再編の円滑な実施

スクイーズアウトは事業再編や組織再編を円滑に進めるための手段としても重要です。 以下のような状況で特に有効性を発揮します。

  • 合併、会社分割、事業譲渡などの事業再編時
  • グループ内の事業再配置や不採算事業の整理時
  • 抜本的な組織改革の実行時

少数株主の存在による事業再編計画の遅延リスクを解消できます。 企業グループ全体の競争力強化につながる、スムーズな組織改革が可能になるでしょう。

スクイーズアウトの6つの具体的なメリット

スクイーズアウトには経営効率化や税制上のメリットなど、6つの主要なメリットがあります。 以下に詳しく解説します。

  1. 株主総会運営の効率化と事務コスト削減
  2. 少数株主からの株主代表訴訟リスクの軽減
  3. 税制上のメリットと連結納税の最適化
  4. グループ経営戦略の一元化と実行力強化
  5. 情報開示負担の軽減
  6. 長期的投資判断の自由度向上

それぞれ解説していきます。

1. 株主総会運営の効率化と事務コスト削減

スクイーズアウトにより株主数が減少することで、株主総会の運営が大幅に効率化されます。 株式をすべて経営者1人が所有すれば、書面で議案の同意を得ることができ、株主総会の実施を省略可能です。

通常の株主総会では多数の株主への通知送付、出席促進、議決権行使など多くの事務作業が発生しますが、これらが簡略化されます。 また、株主名簿管理や配当金支払いなどの株主関連業務も大幅に簡素化され、企業は本業に集中するための時間とリソースを確保できます。

2. 少数株主からの株主代表訴訟リスクの軽減

スクイーズアウトの重要なメリットとして、株主代表訴訟リスクの軽減があります。 少数株主が多数存在すると、経営に批判的な株主による訴訟リスクが高まります。

株主代表訴訟とは、株主が企業の取締役や経営陣の不正行為や義務違反を理由に、企業に代わって訴訟を起こすことです。 スクイーズアウトにより少数株主を排除することで、こうした訴訟リスクを大幅に軽減できます。

3. 税制上のメリットと連結納税の最適化

スクイーズアウトには税制上の重要なメリットがあります。 2017年度の税制改正により、スクイーズアウトの税制が整備され、すべてのスクイーズアウト手法が同じ課税方法となりました。

特に連結納税を採用している企業グループにとっては、対象会社の税務上の繰越欠損金を連結納税に持ち込めるようになり、グループ全体での税負担の最適化が可能になります。 これにより、手法選択の自由度が高まったのです。

4. グループ経営戦略の一元化と実行力強化

スクイーズアウトにより、企業グループ全体の経営戦略を一元化し、その実行力を強化できます。 少数株主の利益を考慮する必要がなくなるため、グループ全体の最適化を優先した意思決定が可能になります。

グループ内での経営資源の再配分や、事業ポートフォリオの見直しなどを少数株主の反対を気にせず実行できます。 企業グループ全体としての競争力強化と企業価値向上が期待できるでしょう。

5. 情報開示負担の軽減

上場企業は投資家向けの情報開示義務を負っていますが、スクイーズアウトにより非公開化することで、こうした情報開示負担が大幅に軽減されます。 四半期報告書や有価証券報告書の作成、適時開示など多くの情報開示業務が発生します。

開示業務非公開化後のメリット
四半期報告書作成義務が消滅
適時開示開示規則から解放
IRコスト大幅削減

開示業務に割いていたリソースを本業に振り向けることができ、競合他社への経営情報漏洩リスクも軽減されます。

6. 長期的投資判断の自由度向上

スクイーズアウトにより、企業は長期的な投資判断の自由度が向上します。 上場企業は四半期ごとの業績を重視する株主からのプレッシャーがあり、短期的な利益を優先せざるを得ないことがあります。

スクイーズアウト後は短期的なプレッシャーから解放され、5年、10年先を見据えた投資判断が可能になります。 例えば、短期的には利益を圧迫するが長期的には大きなリターンが期待できる研究開発投資や設備投資などを積極的に行えるようになり、企業の持続的な成長と競争力強化につながります。

スクイーズアウト実施の4大デメリットとリスク

スクイーズアウトには経営上のメリットがある一方で、実施に伴う重要なデメリットが存在します。 主に以下の4つのデメリットがあります。

  1. 少数株主への対価支払いによる資金負担
  2. 株価算定の難しさと適正価格の決定
  3. 裁判リスクと株式買取請求への対応
  4. 時間的制約と実施スケジュールの管理

それぞれ解説していきます。

1. 少数株主への対価支払いによる資金負担

スクイーズアウトを実施する際、少数株主への適正な対価支払いが必要となります。 高い企業価値を持つ企業であれば、高額な資金が必要になる可能性が生じます。

企業規模が大きくなるほど少数株主の数も増加するため、買取資金の準備が重要な課題となります。 事前に資金調達計画を立案し、キャッシュフローを適切に管理することが重要です。

十分な資金準備がないまま手続きを開始すると、資金不足により計画が頓挫するリスクがあります。

2. 株価算定の難しさと適正価格の決定

スクイーズアウトにおける株価算定は、少数株主との紛争を避けるために極めて重要です。 実行するに足る「合理的な理由」と「適正価格による株式の買い取り」が必要となります。

株価算定には主にDCF法、収益還元法、配当還元法などのインカム・アプローチが用いられます。 株式併合を利用した場合は、裁判所への売却許可申し立ての際に公認会計士等による株価の鑑定評価書の提出が必要です。

適正価格の決定には専門家の関与が不可欠であり、事前に公認会計士等に相談して株式のおよその評価額を確認しておくことが重要です。

3. 裁判リスクと株式買取請求への対応

スクイーズアウトは少数株主の権利を強制的に奪う手続きであるため、裁判に発展するリスクがあります。 少数株主が対価や手続きの公正性に異議を唱えた場合、法的紛争に発展する可能性が高まります。

想定される主な裁判リスク

リスク対処方法
価格決定申立て客観的な株価算定書の取得
株主総会決議取消適切な手続きの実施

近年の裁判例では、株主総会手続きの不備により決議が取り消される事例が見られます。 株価算定の根拠を明確にし、第三者機関による客観的な株価算定書を取得しておくことで、価格の公正性を担保することができます。

4. 時間的制約と実施スケジュールの管理

スクイーズアウトの実施には一定の時間が必要であり、スケジュール管理が重要です。 その過程で開示書面を作成したり、取締役会や株主総会を開催したりするため、一定の時間が必要となります。

手法所要期間
特別支配株主の株式売渡請求最速で20日
その他の手法3週間〜2ヶ月程度

選択する手法によって手続き完了までの余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。 時間的制約を考慮せずに計画を進めると、予定通りに完了せず、経営戦略全体に影響を及ぼす可能性があります。

スクイーズアウトの4大手法と選択基準

スクイーズアウトを実施するには複数の手法があり、企業の状況や目的に応じて最適な方法を選択することが重要です。 主要な4つの手法と選択基準について解説します。

以下の項目について詳しく解説していきます。

  1. 特別支配株主の株式等売渡請求制度
  2. 株式併合によるスクイーズアウト
  3. 全部取得条項付種類株式を用いた方法
  4. 株式交換によるスクイーズアウト

それぞれ詳しく解説します。

1. 特別支配株主の株式等売渡請求制度

特別支配株主の株式等売渡請求制度は、2014年の会社法改正で導入された比較的新しいスクイーズアウト手法です。 大株主が会社の承認を得たうえで少数株主の買取請求を行う方法です。

対象会社の総株主の議決権の90%以上を保有していることが必要であり、特別支配株主は1人または1社と規定されています。 株主総会決議が不要で手続きが比較的短期間で完結するため、迅速なスクイーズアウトを実現できます。

2. 株式併合によるスクイーズアウト

株式併合は、複数の株式を1株にまとめる手法です。 少数株主の保有株式を端数株式(1株未満の株式)にすることで、スクイーズアウトを実現します。

手続き内容
併合比率の決定少数株主の株式が1株未満となるように設定
株主総会での承認特別決議による可決が必要
端数処理裁判所の許可を得て売却し、代金を分配

端数株式の買取価格は裁判所が決定しますが、公認会計士等の鑑定評価書の提出が必要です。

3. 全部取得条項付種類株式を用いた方法

全部取得条項付種類株式は、会社法が定める強制取得可能な種類株式の制度を応用したスクイーズアウト手法です。 かつては最もスタンダードな手法でしたが、現在は手続きが複雑なため利用頻度が減少しています。

主な手続きは以下の3つのステップです。

  • 定款変更による種類株式制度の導入
  • 全部取得条項付種類株式の内容を定款に記載
  • 株主総会の特別決議による株式取得

株主総会の特別決議が必要で、手続き期間が長期化する傾向があります。 現在では、より簡便な他の手法が主流となっています。

4. 株式交換によるスクイーズアウト

株式交換は、親会社が子会社を完全子会社化する際に用いられるスクイーズアウト手法です。 子会社の株式を親会社の株式や現金と交換することで、少数株主を排除します。

親会社と子会社の間で「株式交換契約」を締結し、効力発生日に株式の譲渡と対価の交付が行われます。 2017年度の税制改正により、現金対価株式交換も組織再編税制の適用を受けるようになりました。

各手法の比較と最適な選択方法

スクイーズアウトの手法選択は、企業の状況や目的に応じて慎重に行う必要があります。 議決権保有比率が最も重要な選択要素となります。

議決権保有比率推奨手法
90%以上特別支配株主の株式等売渡請求制度
2/3以上90%未満株式併合、株式交換
2/3未満TOB後のスクイーズアウト

上場会社では適正な買取価格設定が重要で、非上場会社では株価算定が難しいため、事前に専門家への相談が必要です。 手続きの簡便さ、所要期間、コスト、税務上の取り扱いなどを総合的に考慮して選択することが重要です。

スクイーズアウト実施の3ステップ実務的手続き

スクイーズアウトを実施するには、株価算定から情報開示、スケジュール管理まで、実務的な準備と手続きが必要です。以下では、スクイーズアウトを成功させるための3つの重要なステップについて解説します。

  1. 株価算定方法と適正価格の決定
  2. 開示義務と情報提供の重要性
  3. 実施タイムラインと全体スケジュール

それぞれ詳しく見ていきましょう。

1. 株価算定方法と適正価格の決定

スクイーズアウトを実施する際、適正な株価の算定は最も重要なポイントの一つです。 スクイーズアウトを行う場合は、実行するに足る「合理的な理由」と「適正価格による株式の買い取り」が必要となります。

適正価格の決定には複数の算定方法を組み合わせることが一般的で、専門家による客観的な評価が求められます。 株価が不当に低いと判断された場合、裁判所によって売渡請求の差止めを受ける可能性があるため、慎重な対応が必要です。

DCF法、類似会社比較法、市場株価法の活用

株価算定には主に3つの方法があります。 DCF法(Discounted Cash Flow法)は、企業の将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて算出する方法です。 企業の収益性や成長性など将来の不確定要素を比較的シンプルな計算式で求められるメリットがあります。

類似会社比較法は、同業他社の株価指標を参考に株価を算定する方法で、業界内での相対的な価値を把握できます。 市場株価法は、上場企業の場合、過去の一定期間の株価平均を基準とする方法です。

これらの方法を組み合わせることで、より公正で客観的な株価算定が可能になります。

プレミアム設定の考え方と相場

スクイーズアウトでは、通常の市場価格にプレミアムを上乗せした価格で買取りを行うことが一般的です。 TOB価格は通常、市場価格や企業価値などから株価算定したうえで、一定のプレミア価格を乗せて募集するのが常です。

プレミアム率は業界や企業規模、市場環境によって異なりますが、一般的には20%~30%程度とされています。 プレミアム率が低すぎると少数株主の反発を招き、高すぎると買収側の資金負担が大きくなるため、バランスの取れた設定が重要です。

2. 開示義務と情報提供の重要性

スクイーズアウトを実施する際は、適切な情報開示が法的に求められます。 透明性の高い情報提供は、少数株主の理解を得るとともに、法的リスクを軽減する重要な要素です。

上場会社における適時開示のポイント

上場会社がスクイーズアウトを実施する場合、金融商品取引法や取引所規則に基づく開示義務があります。 公開買付けの対象者は、金融商品取引法上の開示規制に基づき、意見表明報告書を提出する義務等を負います。 また、取引所の適時開示規制に基づき、公開買付けに関する意見表明等について適時開示する必要があります。

特に二段階買収(TOB後のスクイーズアウト)を予定している場合は、二段階目の買収手法(株式等売渡請求等)、その対価および実施予定時期等について、公開買付け開始決定に係るプレスリリースに記載する必要があります。 上場会社は、TDnet(Timely Disclosure network)を利用して情報開示を行います。

適時開示には適時性や速報性が求められるため、法定開示よりも先に行うことが一般的です。

非上場会社での情報開示の留意点

非上場会社の場合も、会社法に基づく株主への通知義務があります。 特に株式併合を利用したスクイーズアウトでは、株主総会の招集通知に加え、株式の併合に関する資料を本店に備え置く必要があります。

また、特別支配株主の株式等売渡請求制度を利用する場合は、少数株主に対して株式取得日の20日前までに売渡請求の旨を通知する必要があります。

3. 実施タイムラインと全体スケジュール

スクイーズアウトの実施には一定の時間が必要であり、手法によって所要期間が異なります。 その過程で開示書面を作成したり、取締役会や株主総会を開催したりするため、どうしてもある程度の時間が必要となります。

手法別の所要期間比較

スクイーズアウトの手法によって所要期間は大きく異なります。 最も簡易な方法でも3週間程度、長い場合は2ヶ月程度の期間が必要となることもあります。

特別支配株主の株式等売渡請求制度は、株主総会決議が不要で比較的短期間で完了します。 株式取得日の20日前までに少数株主への通知が必要なため、最短でも20日程度の期間が必要です。

一方、株式併合によるスクイーズアウトは、株主総会の招集、開催、端数処理のための裁判所への許可申立てなど、複数のステップが必要となるため、より長い期間を要します。

クリティカルパスの管理方法

スクイーズアウトを円滑に進めるためには、クリティカルパス(全体の所要期間を左右する重要なプロセス)を特定し、適切に管理することが重要です。 特に裁判所の許可が必要な手続きや、法定の通知期間が設けられているプロセスは、全体スケジュールに大きな影響を与えます。

具体的な手続きの流れとしては、「株主総会→株主への通知→裁判所に許可申し立て→会社による買い取り」という順序で進めることが一般的です。 各ステップの所要期間を正確に把握し、余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。

少数株主の視点から見た5つの対応ポイント

スクイーズアウトは少数株主にとって強制的な株式売却を意味するため、自身の権利と取り得る対応を理解しておくことが極めて重要です。 主要な5つのポイントについて解説します。

  1. 少数株主の権利保護制度
  2. スクイーズアウトを拒否できるケースと限界
  3. 株式買取請求権の行使方法
  4. スクイーズアウト時の株価動向
  5. 確定申告における税務処理のポイント

それぞれ詳しく見ていきましょう。

1. 少数株主の権利保護制度

少数株主は会社法によって様々な権利が保障されています。 保有する株式に応じて株主総会招集請求権や株主総会招集権、株主提案権、会計帳簿閲覧権、取締役等の解任請求権などが認められており、これらを少数株主権といいます。

これらの権利は、多数派株主による濫用的な権利行使から少数株主を保護するために設けられています。 少数株主権を行使するためには、株式総数の一定以上の保有が必要です。例えば、株主総会招集請求権には議決権の3%以上の保有が必要とされています。

2. スクイーズアウトを拒否できるケースと限界

基本的に、スクイーズアウトは多数株主の意向によって進められるため、少数株主が単独で拒否することは困難です。 少数株主がスクイーズアウトに反対したとしても、会社としては少数株主に適正な対価を支払うことで、強制的に手続きを進められます。

ただし、以下のケースでは裁判所に対して差止めの申立てが可能です:

  • スクイーズアウトの手続きに法的な瑕疵がある場合
  • 買取価格が著しく不当である場合

特に上場廃止を伴うスクイーズアウトや支配株主によるスクイーズアウトの場合には、第三者委員会の設置など公正性を担保する措置が求められます。

3. 株式買取請求権の行使方法

株式買取請求権は、会社の重要な決議に反対する株主が、自己の保有する株式を公正な価格で買い取るよう会社に請求できる権利です。 スクイーズアウトに反対する株主は、この権利を行使することができます。

手続きステップ内容
1会社が買取請求権の通知・公告
2株主は反対を通知
3株主総会で反対票を投票
4株式買取請求権を行使
5価格協議・決定(協議が整わない場合は裁判所に申立て)

株主は株主総会で実際に反対票を投じる必要があります。 会社は組織再編行為の効力発生日の20日前までに、株主に公告または通知をしなければなりません。

4. スクイーズアウト時の株価動向

スクイーズアウトは株価に大きな影響を与えます。 特にTOBと組み合わせたスクイーズアウトでは、TOB価格の発表によって株価が大きく変動することがあります。

スクイーズアウトが発表されると、一般的にはTOB価格に向けて株価が収斂する傾向があります。 市場はTOBの成功確率も織り込むため、TOB価格と株価の間にはある程度の乖離が生じることもあります。

プレミアム率については、一般的には20%~30%程度とされていますが、業界や企業規模、市場環境によって異なります。 プレミアム率が低い場合は少数株主からの反発を招き、高すぎると買収側の資金負担が大きくなるため、バランスの取れた設定が重要です。

5. 確定申告における税務処理のポイント

スクイーズアウトにより株式を売却した場合、確定申告における税務処理が必要になります。 特に、みなし配当と譲渡所得の区分は重要なポイントです。

税務処理項目内容
みなし配当利益積立金に対応する部分(配当所得の税率が適用)
譲渡所得資本金等の額に対応する部分(株式等譲渡所得の税率が適用)

2017年度の税制改正により、スクイーズアウトの4つの手法すべてで同様の税負担となりました。 特定口座で保有している株式の場合、みなし配当部分については特定口座での源泉徴収の対象外となる場合があるため、確定申告が必要になることがあります。

スクイーズアウトの7つの代表的事例分析

スクイーズアウトは近年、多くの日本企業で実施されており、その目的や手法、結果は多岐にわたります。 以下では、代表的な事例を分析し、それぞれの目的や手法、結果について解説します。

  1. セコムによるパスコの完全子会社化
  2. 住友精密工業の完全子会社化プロセス
  3. 永谷園ホールディングスの非公開化
  4. ガンホー・オンライン・エンターテイメントの事例
  5. 雪国まいたけの非公開化
  6. パイオニアの完全子会社化
  7. 海外企業のスクイーズアウト事例との比較

それぞれ詳しく見ていきましょう。

1. セコムによるパスコの完全子会社化

セコム株式会社は、2024年11月に株式会社パスコの完全子会社化を実施しました。 グループ内の経営効率化と事業シナジーの最大化が主な目的でした。

セコムはまずTOB(株式公開買付け)を実施し、その後株式併合を行うことでパスコの少数株主を排除しました。 この二段階方式により、パスコはセコムの完全子会社となり、上場廃止となりました。

2. 住友精密工業の完全子会社化プロセス

2023年1月、住友商事株式会社は住友精密工業株式会社の完全子会社化を実施しました。 グループ内での事業統合と経営資源の最適化が目的でした。

住友商事は公開買付けで議決権所有割合83.80%を取得後、2023年2月16日の臨時株主総会においてスクイーズアウト手続きを決議しました。 完全子会社化により、両社の技術やノウハウを融合させ、グループとしての競争力強化を実現しています。

3. 永谷園ホールディングスの非公開化

2024年6月、永谷園ホールディングスは非公開化を決定し、スクイーズアウトを実施しました。 長期的な経営方針の推進と迅速な意思決定の実現が主な目的でした。

エムキャップ十二号株式会社がTOBを通じて大半の株式を取得後、株式併合によって少数株主の株式を整理しました。 これにより、短期的な株価変動に左右されない経営が可能になりました。

4. ガンホー・オンライン・エンターテイメントの事例

ガンホー・オンライン・エンターテイメントは、特別支配株主の株式等売渡請求制度を活用したスクイーズアウトの代表的事例です。 ゲームアーツの株式を90%以上保有していたため、この手法を採用しました。

特徴内容
適用条件90%以上の議決権保有
手続き株主総会決議が不要
目的オンラインゲーム業界での競争力強化

この手法により、ゲームアーツを完全子会社化し、経営資源の効率的な活用を実現しました。

5. 雪国まいたけの非公開化

雪国まいたけは、全部取得条項付種類株式を利用したスクイーズアウトの事例として知られています。 2015年に外資系投資ファンドのベインキャピタルがTOBで買収後、スクイーズアウトを実施しました。

ベインキャピタルはTOBを実施後、全部取得条項付種類株式の手法で残りの株式を強制的に取得しました。 非公開化により、短期的な業績向上圧力から解放され、長期的な視点での経営戦略の実行が可能になりました。

6. パイオニアの完全子会社化

パイオニアの完全子会社化は、経営再建を目的としたスクイーズアウトの事例です。 経営難に陥っていたパイオニアは、投資ファンドによる資本注入と完全子会社化によって再建が図られました。

二段階方式でまずTOBによって大半の株式を取得し、その後残りの株式を強制的に取得しました。 この事例は、経営危機にある企業の再建手段としてのスクイーズアウトの有効性を示しています。

7. 海外企業のスクイーズアウト事例との比較

日本と海外ではスクイーズアウトの法的枠組みや実施方法に違いがあります。 米国や欧州では、少数株主保護の観点からより厳格な規制が設けられている一方、手続きの柔軟性も確保されています。

国・地域主な特徴
米国(デラウェア州)「合併スクイーズアウト」が一般的
日本2014年改正で特別支配株主制度を導入

日本では特別支配株主の株式等売渡請求制度が導入されたものの、依然として手続きの複雑さや時間的制約が課題となっています。

スクイーズアウト実施時の4つの法的リスク対策

スクイーズアウトの実施には少数株主保護、取締役の責任、情報開示、専門家活用の観点からの配慮が不可欠です。 主要な4つの留意点について解説します。

  1. 少数株主保護の観点からの留意点
  2. 取締役の善管注意義務と経営判断
  3. 情報開示の適切性確保
  4. 専門家の活用と第三者委員会の設置

それぞれ詳しく見ていきましょう。

1. 少数株主保護の観点からの留意点

スクイーズアウトでは少数株主の権利を強制的に奪うため、少数株主保護の観点からの配慮が重要です。 少数株主は以下の権利を行使できます。

権利の種類内容
差止請求不正な手続きの差止め
株式買取請求適正価格での買取要求
価格決定申立て裁判所による価格決定
決議取消し訴訟株主総会決議の無効化

買取価格が低すぎる場合、訴訟リスクが高まります。 適正な買取価格の設定と、少数株主に対する丁寧な説明が重要です。

2. 取締役の善管注意義務と経営判断

スクイーズアウトを実施する際、取締役には善管注意義務が課せられます。 会社法第330条により企業と委任関係にあるとされ、会社法第355条により忠実義務も課せられています。

スクイーズアウトの意思決定においては、その判断が会社や株主全体の利益に合致しているかを慎重に検討する必要があります。 特にMBOなど経営陣自身が買収者となる場合は、利益相反の問題が生じます。

善管注意義務違反が発覚した場合は、以下の対応が必要です:

  • 他の取締役や顧問弁護士との協議
  • 株主への説明
  • 該当取締役への罰則
  • 再発防止策の検討

3. 情報開示の適切性確保

スクイーズアウトを実施する際は、適切な情報開示が法的に求められます。 上場会社は金融商品取引法や取引所規則に基づく開示義務があり、非上場会社でも会社法に基づく通知義務があります。

二段階買収(TOB後のスクイーズアウト)を予定している場合は、以下の情報をプレスリリースに記載する必要があります:

  • 二段階目の買収手法
  • その対価
  • 実施予定時期

情報開示の不備は訴訟リスクを高めるため、開示内容の正確性と適時性が重要です。

4. 専門家の活用と第三者委員会の設置

スクイーズアウトの公正性を担保するためには、外部の専門家の活用と第三者委員会の設置が有効です。 社外取締役が構成員として最も適切であるとされています。

第三者委員会の役割は以下の通りです:

  • スクイーズアウト条件(特に価格)の公正性を検証
  • 少数株主の利益が適切に保護されているかを判断
  • 取締役会の意思決定や株主への情報提供でのサポート

また、株価算定や法的手続きについては、外部の専門家(財務アドバイザーや法律事務所)の助言を得ることで、手続きの適正性を確保できます。

スクイーズアウトに関する5つのよくある質問

スクイーズアウトを検討する企業や投資家からは、手続きや影響に関して多くの疑問が寄せられます。 以下では、これらのよくある質問について解説します。

  1. スクイーズアウトに必要な議決権比率は何パーセント?
  2. スクイーズアウト後の株主はどうなる?
  3. スクイーズアウトされた株式の税務処理はどうする?
  4. スクイーズアウトを拒否することは可能?
  5. スクイーズアウト時の適正な買取価格はどう決まる?

それぞれ詳しく見ていきましょう。

1. スクイーズアウトに必要な議決権比率は何パーセント?

スクイーズアウトに必要な議決権比率は、選択する手法によって異なります。 特別支配株主の株式等売渡請求は90%以上の議決権が必要となります。

手法必要な議決権比率特徴
特別支配株主の株式等売渡請求90%以上株主総会決議不要
株式併合2/3以上株主総会特別決議が必要
全部取得条項付種類株式2/3以上株主総会特別決議が必要
株式交換2/3以上株主総会特別決議が必要

議決権比率の要件は会社法で定められており、スクイーズアウトを実施する前に自社の株主構成を確認することが重要です。 必要な議決権比率を確保できない場合は、まずTOBなどで株式を買い集める必要があります。

2. スクイーズアウト後の株主はどうなる?

スクイーズアウト後、少数株主は株主としての地位を失い、代わりに金銭などの対価を受け取ります。 株主構成が整理されることで、経営の安定性が向上します。

  • 親会社による子会社の完全子会社化:子会社の株主は親会社のみとなる
  • MBO(経営陣による買収):経営陣とその支援者のみが株主となる

スクイーズアウト後の株主構成がシンプルになることで、意思決定の迅速化や長期的視点での経営が可能になります。 少数株主にとっては強制的に株主の地位を失うことになりますが、適正な対価が支払われることで経済的な補償を受けられます。

3. スクイーズアウトされた株式の税務処理はどうする?

スクイーズアウトされた株式の税務処理は、2017年度の税制改正により統一されました。 改正後は現金対価株式交換も組織再編税制の適用を受けるようになり、スクイーズアウトの4つの手法すべてで同様の税負担となりました。

税務処理の種類内容
みなし配当利益積立金に対応する部分(配当所得として課税)
譲渡所得資本金等に対応する部分(株式譲渡損益として課税)

株式の対価として受け取った金額は、みなし配当と譲渡所得に区分されます。 特定口座で保有していた株式の場合、証券会社による源泉徴収が行われますが、みなし配当部分については確定申告が必要になることがあります。

4. スクイーズアウトを拒否することは可能?

基本的に、スクイーズアウトを少数株主が単独で拒否することは困難です。 会社としては少数株主に適正な対価を支払うことで、強制的に手続きを進められます。

ただし、以下の場合には裁判所に対して差止めの申立てが可能です:

  • スクイーズアウトの手続きに法的な瑕疵がある場合
  • 買取価格が著しく不当である場合

また、少数株主は「差止請求」「反対株主の株式買取請求」「価格決定の申立て」「株主総会決議取消しの訴え」などの権利を行使できます。 企業側は適正な価格設定と丁寧な説明を心がけるべきです。

5. スクイーズアウト時の適正な買取価格はどう決まる?

スクイーズアウト時の適正な買取価格は、複数の株価算定方法を用いて決定されます。 実行するに足る「合理的な理由」と「適正価格による株式の買い取り」が必要です。

算定方法概要特徴
DCF法将来キャッシュフローの現在価値将来性を考慮
類似会社比較法同業他社の指標を参考業界内の相対評価
市場株価法市場価格を基準上場企業で一般的

上場企業の場合は市場価格にプレミアムを上乗せするのが一般的で、プレミアム率は通常20%~30%程度とされています。 裁判所は株式公開買付が行われている場合、原則として公開買付価格と同額を株式買取価格とするべきだと判断する傾向にあります。

まとめ:企業価値向上につながるスクイーズアウト活用のポイント

スクイーズアウトは経営効率化と企業価値向上に繋がる重要な手法です。 意思決定の迅速化やコスト削減等、長期的な経営戦略を可能にします。

成功の鍵は、状況に応じた最適な手法選択と、少数株主への適正価格提示や丁寧な情報開示です。法的リスクを抑えるため専門家の活用も重要となります。短期的な負担はあっても、経営の自由度向上といった長期的メリットは大きく、戦略的選択肢として検討に値するでしょう。

CYBER   VALUEに関して
ご不明な点がございましたら
お気軽にお問い合わせ下さい

メールでのお問い合わせはこちら

お問い合わせはこちら

お問い合わせ
資料請求はこちら

資料請求はこちら

資料請求