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「上場廃止基準とは具体的にどのようなものか、自社や投資先は大丈夫なのか」と気になっていませんか。上場廃止は企業や投資家にとって大きな影響を及ぼす可能性があります。
この記事では、東京証券取引所が定める6つの主要な上場廃止基準の内容、上場廃止決定から実行までのプロセス、企業や株主にとってのメリット・デメリット、そして経営者や投資家が留意すべき点まで、網羅的にわかりやすく解説します。
この記事を読むことで、上場廃止リスクを正しく理解し、適切な判断を下すための知識が身につきます。

上場廃止は、企業や投資家にとって重要な意味を持っています。ここでは、その基本的な定義と制度の目的について、以下の2点をわかりやすく解説いたします。
それぞれ解説していきます。
上場廃止とは、証券取引所での企業の株式売買が停止されることです。これは、企業が取引所の定める基準に抵触したり、あるいは自ら上場廃止を申請したりした場合に発生します。
上場廃止が決定されると、多くの場合、その株式は「整理銘柄」として指定され、一定の売買猶予期間を経た後、最終的に取引所での取引が不可能になります。つまり、公開市場での自由な株式取引ができなくなる事態を指し、投資家は該当企業の株式を市場で売買する機会を失うことになるのです。
この措置は、企業の状況変化や市場のルールに基づき行われるものです。
上場廃止基準は、主に投資家を保護し、株式市場全体の信頼性を維持するために不可欠なルールです。証券取引所は、公正かつ健全な市場環境を提供する責務を負っており、上場企業には一定の財務状態や情報開示の質が求められます。
基準を満たさない企業が上場し続けると、投資家が不利益を被るリスクが高まり、市場全体への不信感にも繋がりかねません。そのため、上場廃止基準は、市場の質を一定水準に保ち、投資家が安心して取引できる環境を守るための重要な役割を担っています。
この制度があることで、市場の透明性と公正性が担保されるのです。
東京証券取引所(東証)では、市場の健全性を保つため、複数の観点から上場廃止基準を定めています。 主要な6つのカテゴリーは以下のとおりです。
それぞれ解説していきます。
上場維持基準への不適合とは、企業が各市場区分(プライム、スタンダード、グロース)で定められた形式的な要件を満たせなくなる状態を指します。 これらの基準には、株主数、流通株式の数や時価総額、売買代金、純資産額などが含まれます。
プライム市場では流通株式時価総額100億円以上などが求められます。 基準に抵触すると改善期間が与えられ、期間内に回復できなければ上場廃止の手続きが進められます。 市場の質を保つための最低ラインであり、企業は常にこの基準を意識する必要があります。
東京証券取引所の上場維持基準は、市場区分ごとに異なり、各市場の特性に応じて設定されています。 以下に具体的な基準値を示します。
| 項目 | プライム市場 | スタンダード市場 | グロース市場 |
|---|---|---|---|
| 株主数 | 800人以上 | 400人以上 | 150人以上 |
| 流通株式数 | 2万単位以上 | 2,000単位以上 | 1,000単位以上 |
| 流通株式時価総額 | 100億円以上 | 10億円以上 | 5億円以上 |
| 流通株式比率 | 35%以上 | 25%以上 | 25%以上 |
| 売買代金/売買高 | 1日平均売買代金 0.2億円以上 | 月平均売買高 10単位以上 | 月平均売買高 10単位以上 |
| 純資産の額 | 正であること | 正であること | 正であること |
| 時価総額(※) | – | – | 40億円以上(上場10年経過後) |
※ グロース市場の時価総額基準は、上場後10年を経過した企業に適用されます。
これらの基準は定期的に審査され、適合しない場合は改善期間が与えられます。 改善が見られない場合は上場廃止となるため、企業は自社が属する市場の基準を常に意識する必要があります。
上場維持基準に適合しなくなった場合、企業には原則として1年間の改善期間(猶予期間)が与えられます。 一部基準については6か月となります。
この期間中に企業は「改善計画書」を開示し、具体的な取り組みを進めることが求められます。 例えば、流通株式比率を高めるための施策や、時価総額向上のためのIR活動などが考えられます。
改善期間内に基準を再び満たすことができれば上場は維持されます。 達成できなければ上場廃止となるため、基準抵触後の迅速な対応が不可欠です。
継続的な赤字自体が直接の上場廃止理由ではありませんが、財務状況の悪化を通じて間接的にリスクを高める要因となります。 特に重要なのが「純資産の額が正であること」という基準です。
赤字が続くと純資産が減少し、マイナス(債務超過)に陥る可能性があります。 債務超過の状態が解消されない場合、上場廃止基準に該当します。
また、純資産の減少は時価総額など他の基準にも影響を与えかねません。 企業は継続的な赤字を避け、財務健全性を保つことが重要です。
2022年4月の東証市場区分再編の際、新しい上場維持基準を満たしていなかった企業に対し、基準適合のための「経過措置」が設けられました。 これは新基準への円滑な移行を目的とした時限的な措置です。
経過措置の適用を受けている企業は、本来の基準よりも緩和された基準が適用されていました。 しかし、この経過措置は2025年3月以降段階的に終了し、すべての企業が本来の基準を満たす必要が生じます。
対象企業は計画に基づき改善を進め、期限までに基準適合を達成しなければ上場廃止となります。 この措置は、企業にとって新基準へ対応するための準備期間と位置づけられています。
有価証券報告書や四半期報告書などの提出遅延は、投資家保護の観点から重大な問題とされ、上場廃止につながる可能性があります。 投資家はこれらの開示情報に基づいて投資判断を行うため、情報のタイムリーな提供は市場の公正性を保つ上で不可欠です。
例えば、決算作業の遅れや監査手続きの難航など、様々な理由で提出が遅れるケースが考えられます。 しかし、どのような理由であれ、定められた期限を守ることは上場企業としての基本的な責務です。
法令等で定められた書類を期限内に正確に提出することは、上場を維持するための絶対的な条件の一つといえます。
上場企業には、金融商品取引法などに基づき、投資家保護のために様々な書類の提出が義務付けられています。 代表的なものとして以下があります。
これらの書類は、投資家が企業の財政状態や経営成績、その他重要な情報を把握するための根幹となります。 提出期限を守ることは、適時適切な情報開示という上場企業の責務を果たす上で非常に重要です。
提出遅延がただちに上場廃止を意味するわけではなく、一定の猶予や条件が設けられています。 具体的な上場廃止リスクが高まる条件は以下のとおりです。
提出遅延が改善されず、投資家保護や市場の信頼性確保の観点から問題が大きいと判断された場合、監理銘柄指定を経て上場廃止に至る可能性があります。 企業は、提出遅延が重大な結果を招くことを認識すべきです。
提出書類における虚偽記載や、監査法人による不適正意見・意見不表明は、開示情報の信頼性を著しく損なう行為であり、上場廃止基準に該当します。 投資家は企業が開示する情報を信頼して投資活動を行っており、その情報が真実でない場合、資本市場の前提が崩れてしまいます。
例えば、意図的な粉飾決算や重大な事実の隠蔽などが発覚した場合、投資家は多大な損害を被る可能性があります。 企業の開示情報に対する信頼性は資本市場の基盤であり、これを裏切る行為は市場からの退出という厳しい結果を招きます。
重大な虚偽記載とは、投資家の投資判断に著しい影響を与えるような、意図的または重大な過失による不正確な情報開示を指します。 具体例としては以下のようなものがあります。
単なる記載ミスではなく、企業の財政状態や経営成績の根幹に関わる事項について、投資家を欺くような情報開示が重大な虚偽記載と判断されます。 このような行為は、市場の公正性を根本から揺るがします。
監査法人が企業の財務諸表に対して「不適正意見」または「意見不表明」を表明することは、上場廃止に直結しうる非常に深刻な事態です。 それぞれの意味は以下のとおりです。
どちらも企業の財務情報の信頼性が確保されていないことを示すため、投資家保護の観点から極めて問題視されます。 監査法人からこれらの意見が付された有価証券報告書等が提出された場合、原則として即時に監理銘柄(審査中)に指定され、上場廃止の手続きが進められます。
特設注意市場銘柄(以下、特注銘柄)への指定は、企業の内部管理体制やコーポレート・ガバナンスに重大な不備があり、このままでは投資家に損害を与えるリスクが高いと証券取引所が判断した場合に行われる措置です。 これは過去の不祥事や不適切な情報開示などを受け、その再発防止策が不十分であると見なされた場合などが該当します。
特注銘柄への指定は、市場に対してその企業のリスクを周知し、企業自身に抜本的な改善を強く促すことを目的としています。 この指定は上場廃止の一歩手前の最終警告であり、企業は全社を挙げて内部管理体制の再構築に取り組む必要があります。
特設注意市場銘柄への指定は、主に企業の内部管理体制等に重大な問題が発覚し、改善が必要と判断された場合に行われます。 指定される主なケースは以下のとおりです。
これらのケースはいずれも企業の信頼性や持続可能性に疑問符が付く状況であり、投資家保護の観点から市場への注意喚起が必要とされます。
特設注意市場銘柄に指定された企業は、原則として1年ごとに内部管理体制等の改善状況に関する報告書の提出が義務付けられます。 取引所はこの報告書を審査し、改善が認められないと判断した場合には、上場廃止の手続きを進めます。
改善が見られないということは、問題の再発リスクが高いままであり、投資家保護の観点から市場に留めておくことが不適切と判断されるためです。 指定から原則として1年6か月(状況により延長も可能)以内に改善が確認できなければ、監理銘柄(審査中)を経て上場廃止となる可能性が非常に高くなります。
上場契約違反等は、企業が上場時に証券取引所と締結した契約や宣誓事項に違反した場合に適用される上場廃止基準です。 これは企業が上場企業として守るべき基本的なルールを破る行為であり、取引所との信頼関係を損なうため問題視されます。
例えば、適時開示に関する規定や、法令遵守に関する事項などが契約には含まれます。 これらの約束を軽視する姿勢は、市場全体の秩序を乱す可能性もあるため、取引所との契約内容を誠実に履行することは、上場を維持するための大前提といえます。
上場契約や宣誓事項には、投資家保護と市場の公正性・信頼性を確保するための重要なルールが盛り込まれています。 主な内容は以下のとおりです。
これらの項目は、企業が社会的な責任を果たし、透明性の高い経営を行うことを約束するものです。 企業が市場の一員として活動するための基盤となる重要な要素です。
上場契約や宣誓事項への違反が疑われる場合、証券取引所はまず事実関係の調査を行います。 違反が確認された場合のプロセスは以下のとおりです。
違反行為に対する処分は、その重大性や改善状況などを考慮して段階的に判断されます。 取引所は市場の秩序維持のため厳正に対処しています。
これまで見てきた基準以外にも、企業の存続そのものや、企業経営の健全性が著しく損なわれるような事態が発生した場合も、上場廃止の対象となります。 これらの事由は、企業がもはや事業を継続できない状態になったり、社会的な信用を失ったりするなど、上場企業としての適格性を根本から失った場合に適用されます。
投資家保護や市場の信頼性維持の観点から、そのような企業を市場に留めておくことは適切ではありません。 具体的には、経営破綻、事業活動の停止、反社会的勢力との関与などがこれに該当します。
企業が破産手続、民事再生手続、または会社更生手続の開始申立てを行った、あるいはこれらの手続きが開始された場合、原則として上場廃止となります。 これは企業が自力での再建や事業継続が困難な状態、すなわち経営破綻に陥ったことを意味します。
通常、これらの法的手続きが開始されると、当該企業の株式は速やかに監理銘柄・整理銘柄に指定されます。 その後、市場での売買期間を経て上場廃止に至るのが一般的です。 経営破綻は、上場企業としての活動継続が不可能になったことを示すものです。
企業の主たる事業活動が停止した場合や、手形の不渡りなどにより銀行取引停止処分を受けた場合も、上場廃止の基準に該当します。 それぞれの意味は以下のとおりです。
経営破綻には至らなくても、実質的に事業が続けられなくなった場合は、上場企業としての適格性を失うことになります。
合併、株式交換、株式公開買付け(TOB)などの手法により、ある上場企業が他の会社の完全子会社(100%子会社)になる場合、当該上場企業は自主的に上場廃止となります。 これは完全子会社になると一般の株主が存在しなくなり、株式を公開市場で流通させる必要がなくなるためです。
具体例としては以下のようなケースがあります。
このような自主的な上場廃止は経営戦略上の判断であり、必ずしもネガティブな理由ばかりではありません。
企業やその役員などが、暴力団をはじめとする反社会的勢力と何らかの関与(資金提供、取引、役員としての受け入れ等)を行っていることが判明した場合、上場廃止の対象となります。 これは以下の理由によるものです。
証券取引所は反社会的勢力との関係排除を非常に重視しており、関与が認められた企業は市場から厳しく排除されます。
企業が、株主総会における議決権の行使や、株主提案権、帳簿閲覧権など、株主が法律や定款で認められている基本的な権利を不当に制限したり、侵害したりする行為を行った場合、上場廃止基準に該当する可能性があります。 これは株式会社制度の根幹である株主の権利を保護し、公正な市場運営を確保するためです。
企業による株主権利の不当な侵害は、コーポレート・ガバナンス上の重大な問題とみなされます。 株式会社の所有者である株主の権利が企業によって不当に扱われた場合は、その企業の市場における信頼性が問われます。
合併、会社分割、株式交換といった組織再編行為が、実質的に上場基準を満たさない非上場企業を存続させるための手段(いわゆる「裏口上場」)として利用されるなど、取引所が不適当と認める方法で行われた場合、上場廃止となることがあります。 これは本来の上場審査プロセスを回避し、市場の質を低下させるような行為を防ぐためです。
取引所は、形式だけでなく実質的な内容を審査し、制度の趣旨に反する組織再編に対しては上場廃止を含む厳しい措置をとります。 企業の組織再編が制度の趣旨に反する形で行われた場合も問題視されるのです。

上場廃止が決定されてから実際に市場での取引が停止されるまでには、いくつかの段階があります。投資家や企業関係者にとって、このプロセスを理解しておくことは非常に重要です。
ここでは、以下の流れを順に解説します。
監理銘柄への指定は、上場企業が上場廃止基準に該当する可能性がある場合に、証券取引所が投資家に対して注意を促すために行う措置です。これは、例えば、有価証券報告書の提出遅延や、上場維持基準への抵触懸念、あるいは不祥事の発覚など、上場廃止につながる可能性のある事実が発生した際に指定されます。
指定されることで、市場参加者はその銘柄にリスクがあることを認識できます。企業側には、多くの場合、問題解決のための改善期間が与えられますが、その間に状況が改善されなければ、次の段階へ進むことになります。
監理銘柄への指定は、いわば上場廃止に向けた「黄信号」であり、投資家にとっては警戒が必要なサインです。
整理銘柄への指定は、上場廃止が確定した銘柄について、投資家が保有株式を売却する機会を設けるために行われます。上場廃止が決定すると、証券取引所での売買が完全に停止される前に、通常1か月程度の期間、整理銘柄として取引が継続されることになります。
この期間は、株主が市場で株式を売却するための最後のチャンスとなりますが、株価は大きく下落する傾向にあります。投資家は、この期間内に売却するか、非公開株式として保有し続けるかの判断を迫られるでしょう。
整理銘柄の期間は、上場廃止という最終的な措置の前に設けられた、投資家のための整理売買期間といえます。
上場廃止後の株式は、証券取引所での売買ができなくなり、一般的に「非公開株式」となります。これは、株式の流動性が著しく低下することを意味し、株主にとっては保有株式を売却したくても買い手を見つけることが非常に困難になります。
価格も市場で形成されなくなるため、その価値を客観的に評価することも難しくなるでしょう。また、企業側も市場からの資金調達ができなくなるなど、経営上の制約が生じます。
上場廃止による非公開化は、株主にとっては換金の機会を失い、企業にとっては資金調達や信用力に大きな影響を与える可能性があります。
自主的な上場廃止は、経営戦略上の判断から、企業が自ら上場を廃止することを選択する場合に行われます。代表的な例としては、親会社による完全子会社化(M&Aの一環)や、経営陣が自社の株式を買い集めるMBO(マネジメント・バイアウト)などが挙げられます。
これらのケースでは、株式の公開性を維持する必要性がなくなる、あるいは経営の自由度を高めたいといった理由から、上場廃止が選択されるのです。手続きとしては、株主総会での承認や株式公開買付け(TOB)などを経て、取引所に上場廃止を申請し、承認されれば整理銘柄指定等のプロセスを経て上場廃止となります。
企業の意思による上場廃止も、市場のダイナミズムの一環です。

上場廃止は、企業にとって必ずしも良いことばかりではありません。むしろ、様々なデメリットを伴う可能性があります。
ここでは、上場廃止が企業や株主にもたらす主な4つのマイナス面について、具体的に解説してまいります。これらのデメリットを理解することは、上場廃止という事態を正しく評価するために不可欠です。
それぞれ解説していきます。
上場廃止の大きなデメリットとして、資金調達の選択肢が大きく制限される点が挙げられます。上場企業であれば、株式市場を通じて新株発行(公募増資など)による大規模な資金調達が可能ですが、上場廃止によってこの手段が利用できなくなります。
これにより、新規事業への投資や設備投資、研究開発費といった成長に必要な資金、あるいは運転資金の確保が難しくなる可能性があります。金融機関からの借入などに頼らざるを得なくなりますが、後述する信用力の低下により、融資条件が厳しくなることも考えられるでしょう。
株式市場を通じた機動的かつ大規模な資金調達の道が閉ざされることは、企業の成長戦略にとって大きな制約となりえます。
上場廃止になると、その企業の株式は証券取引所での売買ができなくなり、株式の流動性と換金性が著しく低下します。これは、株主が保有株式を売却したいと思っても、買い手を見つけることが非常に困難になることを意味します。
仮に買い手が見つかったとしても、市場価格が存在しないため、公正な価格での取引が難しくなる可能性が高いです。結果として、株主は実質的に株式を「塩漬け」にせざるを得ない状況に陥るリスクがあります。
これは株主にとって非常に重要な、株式の売買しやすさが失われることを示します。
上場廃止は、企業の社会的な信用やブランドイメージを低下させるリスクを伴います。特に、経営不振や不祥事、法令違反などが原因で上場廃止に至った場合、「上場基準を満たせない問題のある企業」というネガティブなレッテルを貼られやすくなります。
これにより、取引先からの与信条件が悪化したり、金融機関からの融資が受けにくくなったりする可能性があります。また、消費者や就職希望者からのイメージも悪化し、売上減少や人材獲得難につながる恐れも否定できません。
上場企業というステータスを失うことで、様々なステークホルダーからの信頼が揺らぎ、事業活動全体に悪影響が及ぶ可能性があります。
上場廃止は、既存株主にとって金銭的な不利益をもたらす可能性が高いと言えます。多くの場合、上場廃止が決定または観測されると、当該企業の株価は大きく下落します。
整理銘柄期間中に売却できたとしても、購入時よりもはるかに低い価格となり、大きな損失を被ることが少なくありません。また、株式公開買付け(TOB)などを伴う自主的な上場廃止の場合でも、提示される買取価格が株主の期待を下回るケースもあります。
株式価値の大幅な下落や、保有株式を希望通りに現金化できなくなるリスクは、株主にとって最も深刻なデメリットの一つです。企業側は、上場廃止に至るプロセスにおいて、株主への十分な説明と配慮が求められます。

上場廃止はデメリットばかりが注目されがちですが、企業にとっては戦略的な選択肢となりうるメリットも存在します。特に、経営のあり方を見直したい企業にとっては、非公開化が有効な手段となる場合があります。
ここでは、上場廃止がもたらす主な4つのメリットについて、具体的に解説していきます。
それぞれ解説していきます。
上場廃止の大きなメリットとして、上場を維持するために必要だった様々なコストを削減できる点が挙げられます。上場企業は、証券取引所への年間上場料、監査法人への監査報酬、株主総会の運営費用、開示書類作成に伴う専門家への報酬や印刷費用など、多岐にわたるコストを負担しなければなりません。
これらの費用は、企業の規模によっては年間数千万円から数億円にのぼることもあります。上場廃止によってこれらのコストが不要となり、削減できた費用を事業投資や財務改善などに振り向けることが可能になります。
コスト削減は、企業の財務体質強化に直接的に貢献します。
上場廃止は、経営の自由度を高め、意思決定のスピードを向上させる効果が期待できます。上場企業は、株主全体の利益を考慮する必要があり、重要な経営判断を行う際には株主の意向を無視できません。
時には、株主からの短期的な利益要求や反対意見によって、長期的な視点に立った大胆な経営改革や戦略的な投資が阻害されることもあります。上場を廃止し株式を非公開化することで、株主からの直接的なプレッシャーが減り、経営陣はより迅速かつ柔軟に、中長期的な視点に基づいた意思決定を行うことが可能となるのです。
非公開化は、経営陣による機動的な経営判断を後押しします。
上場廃止は、敵対的な買収のリスクを大幅に低減させるメリットがあります。上場企業の株式は市場で自由に売買されるため、常に第三者によって経営権の取得を目的とした株式の買い占め、すなわち敵対的買収の脅威にさらされています。
株式を非公開化すれば、市場での自由な売買が不可能になるため、経営陣の意に沿わない相手による株式の取得が極めて困難になります。これにより、企業は外部からの予期せぬ経営介入リスクを排除し、安定した経営基盤のもとで事業に集中することができます。
経営権の安定は、長期的な戦略遂行に不可欠です。
上場廃止によって、経営陣は短期的な業績や株価変動に対する過度なプレッシャーから解放されます。上場企業は、四半期ごとの決算発表が義務付けられており、投資家からは常に短期的な利益成長を期待されます。
そのため、本来は長期的な視点で取り組むべき研究開発投資や構造改革などが、短期的な業績への影響を懸念して見送られたり、先送りされたりするケースも少なくありません。株式を非公開化することで、株価や市場の評価を常に意識する必要がなくなり、経営陣は腰を据えて長期的な企業価値向上に資する経営戦略を実行しやすくなります。
これにより、企業は本質的な価値創造に集中できるでしょう。

近年、上場廃止が増加している背景には、企業の経営戦略や市場環境の変化が大きく関係しています。特にM&Aや経営改革を目的とした自主的な非公開化の動きや、新興市場の基準見直しが注目されています。
これらの動向を理解することで、上場廃止基準とは何かをより深く把握できます。
M&Aや経営戦略の一環として、株式の非公開化を進める企業が増加中です。特に親子上場の解消は、経営の効率化や資本関係の明確化を目的としており、例えば親会社が子会社の株式を全て取得し、完全子会社化することで上場廃止となります。
このような自主的な上場廃止は、企業の成長戦略やガバナンス強化の観点から行われることが多く、必ずしもネガティブな要因だけではありません。親子上場の解消は、経営の透明性向上や意思決定の迅速化につながる重要なトレンドです。
企業の戦略的な判断による上場廃止が目立っています。
近年、親会社と子会社が同じ市場に上場する「親子上場」を解消する動きが活発化しています。親会社が子会社の株式を買い増し、完全子会社化することで、子会社の上場を廃止するケースが増えています。
これにより、経営資源の集中やグループ全体のガバナンス強化が期待され、企業グループの効率的な運営を促進する効果があります。親子上場の解消は、コーポレートガバナンス改革の流れとも連動した動きと言えるでしょう。
グループ経営の最適化を目指す動きが背景にあります。
非公開化は、経営改革を加速させる手段として注目されています。上場企業は株主の意向や市場の短期的な評価に左右されやすいですが、非公開化することで経営の自由度が高まります。
これにより、長期的な視点での事業再編や投資が可能となり、大胆な経営改革が推進されるケースが見られます。非公開化は、企業が外部環境の変化に迅速に対応し、持続的な成長を目指すうえで重要な選択肢の一つとなっているのです。
経営の自由度確保が、改革断行を後押しします。
特にグロース市場など新興市場では、上場維持基準の厳格化が進んでいます。時価総額や業績に関する基準が強化され、基準未達成企業の上場廃止リスクが高まっているのが現状です。
これにより、市場の質を向上させ、投資家保護を強化する狙いがあります。新興市場の基準見直しは、上場企業に対して継続的な成長と企業価値向上への努力を促し、成長企業の健全な発展を促すための重要な施策です。
市場の質の維持と投資家保護が目的とされています。
旧JASDAQ市場の流れを汲む市場を中心に、継続的な赤字や営業キャッシュフローのマイナスが上場廃止基準に含まれています。これらの基準は、企業の財務健全性を確保し、投資家が過度なリスクを負うことを避けるために設けられています。
赤字が続く企業や、本業でのキャッシュ創出力が低い企業は改善計画の提出が求められ、基準未達成が続く場合は上場廃止となる可能性があります。財務状況の悪化は新興市場における重大な上場廃止リスク要因であり、企業の持続可能性が問われます。
財務の健全性は、新興市場においても厳しく評価されます。
旧マザーズ市場の流れを汲む市場では、一定期間にわたる低株価水準が上場廃止の対象となる基準が存在します。株価が基準を下回り続ける状態は、投資家の信頼を損ね、市場の活力が低下する要因となり得ます。
東証はこれを防ぐため、株価に関する基準を設け、基準未達成企業に対しては改善措置や、改善が見られない場合には上場廃止を検討します。株価水準の維持は、その企業が市場から一定の評価を得ている証左であり、新興市場の健全な運営に不可欠な要素です。
市場からの評価も、上場維持の重要な指標となります。
上場廃止後も、経営改善や財務再建を果たし、条件を満たせば再上場は可能です。過去には大王製紙やソフトバンク(現在のソフトバンクグループとは別)、スカイマークなどが上場廃止後に再上場を果たしています。
再上場は、経営改善や財務再建の成果を市場に示す機会となり、企業価値の回復に繋がる可能性があります。ただし、再上場の審査は新規上場よりも厳しく、経営の透明性や持続可能性が厳格に評価されることを理解しておく必要があります。
再上場は企業の再生と成長の象徴であり、投資家にとっても重要な判断材料となります。

上場企業であり続けるためには、経営者や担当者が日頃から留意し、取り組むべき重要な点がいくつかあります。ここでは、以下の3つのポイントに絞って解説します。
それぞれ解説します。
上場企業は、自社が属する市場区分の上場維持基準を継続的にモニタリングし、基準に抵触するリスクがないか常に把握しておくことが極めて重要です。なぜなら、上場維持基準への不適合は猶予期間後の上場廃止に直結するからです。
基準は株主数、流通株式比率、時価総額、売買高、純資産など多岐にわたります。定期的に自社の状況をチェックし、基準を下回る兆候が見られた場合には、早期に原因を分析し、改善計画を策定・実行する必要があります。
上場維持基準の充足状況を常に把握し、予防的な対策を講じる体制を整えることが、安定した上場維持の鍵となります。
財務健全性の確保は、上場維持基準を満たす上で不可欠な取り組みであり、企業の土台となる財務の安定性は最も基本的な要素の一つです。特に、純資産の額が正であることは、プライム・スタンダード・グロース全ての市場区分で求められる共通の基準であり、債務超過の状態は上場廃止に直結する重大なリスクとなります。
したがって、企業は安定的な収益を生み出す事業基盤を構築するとともに、適切なコスト管理や財務戦略を通じて、純資産を着実に積み上げていく必要があります。継続的な収益力の強化と適切な財務管理により、純資産を安定的に維持・向上させることが求められます。
安定した財務基盤が、企業の信頼性を支えます。
流通株式比率や流通株式時価総額などの基準を維持・向上させるためには、戦略的な資本政策と積極的なIR(インベスター・リレーションズ)活動が不可欠です。資本政策としては、業績向上による企業価値そのものの向上はもちろん、必要に応じて自己株式の市場への放出や、大株主や政策保有株主に対する保有株売却の働きかけなどが考えられます。
また、IR戦略としては、自社の魅力や成長戦略を投資家に積極的に伝え、理解と評価を得ることで、株価の安定・向上、ひいては時価総額の維持を目指すことが重要です。財務戦略と連動した資本政策と、投資家との対話を重視するIR戦略の両輪で、市場基準の達成を図ることが求められます。
市場からの評価を高める努力が、上場維持に繋がります。
健全な内部管理体制の構築・運用と、コンプライアンス(法令遵守)の徹底は、上場維持の基盤となる非常に重要な要素です。内部管理体制に不備があると、特設注意市場銘柄に指定されたり、最悪の場合、上場契約違反として上場廃止につながるリスクがあります。
役職員一人ひとりのコンプライアンス意識の向上を図るための教育・研修の実施、内部監査部門によるチェック機能の強化、リスク管理体制の整備などが不可欠です。
特に、反社会的勢力との関係遮断は、取引所が厳しく要求する項目であり、実効性のある内部管理体制と高いコンプライアンス意識を持つ企業文化を醸成することが、投資家や社会からの信頼を得て上場を維持するために欠かせません。
強固な内部統制が、企業の信頼を守る砦となります。
投資家が適切な投資判断を行えるよう、企業情報を適時かつ適切に開示する体制を構築し、維持することは、上場企業としての基本的な責務です。有価証券報告書等の法定開示書類の提出遅延や、内容に虚偽記載がある場合は、市場の信頼を著しく損ない、上場廃止基準に該当する可能性があります。
開示情報の正確性・網羅性を担保するための社内チェック体制の整備、決算・監査スケジュールの厳格な管理、開示担当部門の専門性向上などが求められます。透明性の高い情報開示を継続的に行うことが、市場からの信頼を得て、長期的に上場を維持するための基礎となるのです。
情報開示の質が、企業の透明性を示します。

投資家にとって、投資先の企業が上場廃止になるリスクを事前に評価することは、ご自身の資産を守る上で非常に重要となります。万が一、保有する株式が上場廃止となれば、大きな損失を被る可能性があるためです。
ここでは、そのリスクを見極めるための具体的なチェックポイントや、関連情報の活用方法について解説してまいります。これらのポイントを押さえることで、より安全な投資判断に繋げることが期待できます。
上場廃止リスクを見抜くためには、企業の財務状況、ガバナンス体制、そして情報開示の姿勢を多角的にチェックすることが肝心です。なぜなら、これらの要素は上場廃止基準に直接または間接的に関わる項目であり、企業の健全性や持続可能性を示す重要な指標となるためです。
例えば、財務状況の悪化(特に債務超過の状態)や、コーポレート・ガバナンス報告書における問題点の指摘、さらには適時開示情報の提出遅延や訂正が頻繁に発生している場合などは、注意が必要なサインと考えられます。これらの情報を総合的に分析することで、リスクの高い企業を早期に発見できる可能性が高まります。
多角的な視点での企業分析が、リスク回避の第一歩です。
企業の財務諸表を定期的にご確認いただき、特に純資産の状況や収益性の変化に注意を払うことが、上場廃止リスクを判断する上で推奨されます。その理由は、純資産がマイナスとなる債務超過は、市場区分を問わず直接的な上場廃止基準に該当するためです。
また、継続的な赤字は純資産を着実に減少させ、間接的に上場廃止リスクを高める要因となります。具体的には、有価証券報告書や決算短信といった開示資料で、純資産の額が減少傾向にないか、安定したキャッシュフローを生み出せているかなどを確認することが重要です。
財務諸表は、企業の健康状態を示す診断書と言えます。
コーポレート・ガバナンス報告書を確認することで、企業の内部管理体制やコンプライアンス(法令遵守)への意識、株主との向き合い方などを把握することが可能です。内部管理体制に重大な不備があると判断された場合、特設注意市場銘柄に指定され、改善が見られない場合は上場廃止となる可能性があるため、この報告書のチェックは重要です。
報告書からは、取締役会の構成や実効性、監査役の独立性、内部統制システムの整備状況などを読み取ることができます。企業の経営がどのように監督され、管理されているかという点は、上場廃止リスクと密接に関わっているため、投資判断の参考にすべきです。
ガバナンス体制の確認は、企業のリスク耐性を見極める上で有効です。
投資家の皆様は、適時開示情報をこまめにチェックし、その内容、開示のタイミングや頻度、そして正確性に注意することが重要です。情報の提出が遅れたり、内容に虚偽があったりすることは、上場廃止基準に該当する重大な問題です。
また、頻繁な業績予想の下方修正や不祥事に関する開示が続く場合は、経営の不安定さを示すサインである可能性も考えられます。日本取引所グループ(JPX)のウェブサイトや各企業のIRページなどで、決算情報や経営に関する重要な決定事項、その他発生事実などを確認できます。
適時開示情報は、企業の最新の状況や潜在的なリスクを把握するための、最も重要な情報源の一つと言えるでしょう。
上場廃止リスクに関するランキング情報は、リスクのある企業群を大まかに把握する上で参考になる場合がありますが、これらの情報を鵜呑みにせず、必ずご自身で一次情報(企業の開示資料など)にあたって裏付けを取ることが極めて重要です。なぜなら、ランキングは特定の財務指標などに基づいて機械的に算出されていることが多く、個別の企業の特殊な事情や、将来的な改善の可能性などが十分に考慮されていない場合があるからです。
ランキング上位企業の財務状況や適時開示情報を改めて確認し、なぜリスクが高いと評価されているのかをご自身で分析することが大切です。ランキング情報はあくまで投資判断の補助的な材料と位置づけ、最終的な判断はご自身で収集・分析した情報に基づいて行うべきでしょう。
情報は多角的に検証し、慎重な判断を心がけるべきです。
投資家の皆様は、個別企業の株式に投資する際には、常に上場廃止となる可能性を念頭に置き、それを投資判断における重要な要素として考慮する必要があります。その理由は、万が一上場廃止となれば、保有株式の価値が大幅に下落したり、売却自体が困難になったりするなど、投資家にとって非常に深刻な結果をもたらす可能性が高いからです。
企業の成長性や収益性といった魅力的な側面だけでなく、財務の健全性、ガバナンス体制の有効性、情報開示の信頼性など、上場廃止リスクに直接関わる項目を総合的に評価することが求められます。リスクが高いと判断される銘柄については、投資を見送るか、あるいは投資額を抑えるといった慎重な対応が必要です。
リスク管理の徹底が、賢明な投資活動の基本となります。

ここでは、上場廃止基準に関して、皆様からよく寄せられるご質問とその回答をまとめました。より具体的な疑問点を解消するための一助となれば幸いです。
A: いいえ、必ずしもすぐに上場廃止となるわけではありません。多くの場合、企業が上場維持基準などに抵触する可能性があると、まず「監理銘柄」に指定され、投資家への注意喚起が行われます。
その後、基準適合のための改善期間(猶予期間)が設けられることが一般的です。企業はこの期間内に改善計画を策定し、実行することが求められます。
ただし、改善期間内に基準を満たせない場合や、破産手続開始の申立てなど特定の重大な事由に該当した場合は、「整理銘柄」への指定を経て上場廃止となります。猶予期間の有無や長さは、抵触した基準の内容によって異なりますので注意が必要です。
A: 企業が自らの経営戦略に基づいて上場廃止(非公開化)を選択する場合、いくつかのメリットが考えられます。主なメリットは以下の通りです。
これらのメリットにより、経営陣は中長期的な視点に立った大胆な経営改革や戦略的な投資を実行しやすくなります。
A: 保有している株式が上場廃止になると、投資家にとってはいくつかの大きな変化が生じます。まず、上場廃止が正式に決定されると、通常は約1か月間「整理銘柄」として指定され、その期間内は証券取引所で売買が可能です。
しかし、この期間が市場で売却できる最後の機会となることが多く、株価は大きく下落する傾向にあります。整理期間が終了すると、その株式は取引所での売買ができなくなり、「非公開株式」となります。
非公開株式は流動性が著しく低いため、売却したくても買い手を見つけることが非常に困難になり、実質的に換金できない状態(塩漬け)になる可能性が高いです。価値が完全にゼロになるわけではありませんが、その価値を評価することも難しくなります。
A: 投資先の企業が上場廃止になるリスクを事前に察知するための、いくつかの注意すべきサインがあります。具体的には、以下の点が挙げられます。
これらのサインは、企業の開示情報や取引所の発表を通じて確認できますので、日頃から注意深くチェックすることが重要です。
本記事では、上場廃止基準の全体像、その具体的な内容、プロセス、影響について解説しました。この基準は、株式市場の健全性を保ち、企業と投資家の双方を守るために設けられた重要なルールです。
企業経営者や担当者は、上場維持基準の継続的なモニタリング、財務健全性の確保、適切な情報開示、内部管理体制の強化などを通じて、市場の信頼を維持し、持続的な成長を目指す必要があります。
投資家の皆様にとっては、上場廃止基準を理解し、企業の財務状況や開示情報、ガバナンス体制などを注意深く確認することが、リスクを回避し、賢明な投資判断を行うための鍵となります。上場廃止リスクを適切に評価し、管理することが、ご自身の資産を守ることに繋がります。
上場廃止基準への深い理解は、健全な市場を支え、企業と投資家双方の安定した未来を守るための重要な知識です。本記事が、皆様のより良い企業経営や投資活動の一助となれば幸いです。
上場廃止は、企業や株主にとって大きな影響を及ぼす重要なテーマです。 「保有株はどうなるの?」「会社にどんな影響があるの?」といったメリット・デメリットに関する疑問や不安をお持ちではないでしょうか。
この記事では、上場廃止の定義や理由から、具体的な手続きの流れ、株主・従業員への影響、さらには再上場の可能性まで、網羅的に解説します。 上場廃止に関する正しい知識を身につけ、もしもの時に適切な判断ができるよう、ぜひご一読ください。

上場廃止とは、企業が発行する株式が証券取引所での売買対象から外れることを指します。 上場状態では、投資家が証券取引所を通じて株式を自由に売買できます。 しかし、上場廃止になると、その市場での取引は不可能になり、株式が流動性を失います。
例えば東証に上場していた企業が上場廃止になると、投資家は東証システムを通じて売買できなくなります。 これにより、流動性の低下、資金調達方法の変化、企業信用度への影響などが生じる可能性があります。
上場廃止は大きく以下の2つのパターンに分類されます。
経営戦略上の判断に基づき、企業が自らの意思で上場廃止を選択するケース
業績不振や法令違反などにより、証券取引所の基準を満たせなくなったケース
それぞれのパターンで背景や意味合いは大きく異なります。 自主的申請はM&AやMBOなどの戦略的判断、基準抵触は財務基準未達や不祥事などが原因となります。
企業が自主的に上場廃止を申請するケースは、経営戦略上の判断に基づいて行われることが多いです。 上場維持には株主対応、情報開示、株価配慮など様々なコストや制約が伴います。 非公開化により、これらの負担から解放され、より自由で機動的な経営判断が可能になります。
主な動機として、M&Aによる完全子会社化、経営陣によるMBO(マネジメント・バイアウト)があります。 また、短期的市場評価に左右されず、中長期的視点での経営改革を断行したいという理由もあります。
証券取引所が定める上場廃止基準に抵触した場合、企業は意図せずとも上場廃止に至ることがあります。 証券取引所は投資家保護や市場信頼性維持の観点から、上場企業に一定基準を設けています。
主な上場廃止基準には以下があります。
| 基準分類 | 具体的内容 |
| 市場性基準 | 株主数、流通株式比率、時価総額 |
| 財務基準 | 債務超過、破産手続き開始 |
| コンプライアンス | 有価証券報告書の提出遅延・虚偽記載、重大な法令違反、反社会的勢力との関与 |
このような基準への抵触は、企業の経営状況やガバナンス体制に深刻な問題があることを示す場合が多いです。

企業が上場廃止という選択をする背景には、様々な理由が存在します。 大きく分けると、以下の2つのパターンがあります
それぞれ解説していきます。
経営の自由度を高め、中長期的な成長を目指すために上場廃止を選択するケースです。 上場企業は株主への説明責任、短期的業績向上へのプレッシャー、情報開示義務、株主総会運営など様々な制約やコストを負っています。 非公開化により、これらの負担から解放され、経営資源を本業に集中させることが可能になります。
競合他社に知られたくない機密性の高い経営戦略の実行、株価変動を気にせず大胆な事業再編や投資の実施などが利点となります。
M&Aの一環として、企業が他の上場企業の株式をすべて取得し、完全子会社化する場合、子会社となった企業は上場廃止となるのが一般的です。 親会社が子会社の経営権を完全に掌握し、グループ全体の経営戦略を迅速かつ効率的に実行することを目的としています。
親会社からのメリットとして、意思決定のスピード向上、グループ内での資源配分の最適化、経営の機密保持があります。 子会社化された企業の株主には、通常、株式公開買付(TOB)などを通じて市場価格にプレミアムが加算された価格で買い取りの機会が提供されます。
MBOは、経営陣が投資ファンドなどと協力し、既存の株主から自社の株式を買い取ることで、上場廃止を行う手法です。 この目的は、外部の株主の影響力を排除し、経営陣が安定した経営権を確保することにあります。
上場していると、特に短期的利益を重視する株主からの要求や経営への干渉を受ける可能性があります。 MBOにより非公開化すれば、経営陣は外部の意見に左右されず、自ら信じる経営方針を迅速に実行できます。
また、敵対的買収のリスク回避も目的の一つとなることがあります。
上場企業は四半期ごとの決算発表などで短期的な成果を示すことが求められ、株価を意識するあまり、長期的視点での投資や抜本的改革に踏み出しにくい側面があります。 上場廃止により非公開化すれば、株主からの短期的プレッシャーから解放されます。
経営陣は目先の利益にとらわれず、数年単位の経営戦略や大胆な事業構造転換を断行しやすくなります。 これにより、企業は長期的成長に向けた投資や改革を自由に推進できるようになります。
アクティビストと呼ばれる、企業の経営方針に対して積極的に提言や要求を行う株主への対応は、時に企業にとって多くの時間やコストを要する場合があります。 株主提案への対応、経営戦略への影響、経営陣との対立などが、経営の安定性を損なう要因となることも考えられます。
上場廃止により非公開企業となれば、このようなアクティビストからの直接的要求や経営への介入リスクを大幅に低減できます。 経営陣が外部からの干渉を受けずに経営に集中したいと考える場合、アクティビスト対応の負担軽減を目的として上場廃止を選択することがあります。
上場廃止には、企業が積極的に選択するケースだけでなく、証券取引所が定める基準を満たせなくなったり、法令違反や不祥事を起こしたりするなど、ネガティブな理由によるものもあります。 これらのケースでは、企業の経営状況や信頼性に深刻な問題が生じていることが多く、株主や取引先、従業員など、多くの関係者に不利益をもたらす可能性があります。
経営破綻が直接的な原因となるケースは近年減少傾向にあるものの、依然として注意が必要です。
証券取引所は、市場の信頼性や投資家保護の観点から、上場企業に対して様々な「上場維持基準」を設けています。 これには、株主数、流通している株式の数や時価総額、売買高、純資産額などが含まれます。
企業がこれらの基準を継続して満たせなくなった場合、例えば株主数が基準値を下回った状態が一定期間続くと、改善が見込めないと判断され、上場廃止となります。 これは、市場で取引されるに足る流動性や企業規模、財務の健全性が失われたとみなされるためです。
企業が法令に違反したり、社会的な信用を著しく損なうような重大な不祥事を起こしたりした場合、証券取引所の判断によって上場廃止となることがあります。 主な事例として、粉飾決算やインサイダー取引といった証券取引に関する不正行為、大規模な品質偽装、環境汚染、反社会的勢力との関与などがあります。
これらの行為は、市場の公正性や透明性を害し、投資家保護の観点からも極めて問題視されます。 結果として、企業信用の失墜とともに上場廃止という厳しい処分が科せられることになります。
上場企業は、投資家が投資判断を行うための重要な情報源である有価証券報告書や四半期報告書などを、定められた期限までに提出する義務があります。 これらの報告書の提出が大幅に遅れたり、内容に意図的な虚偽記載があったりした場合、上場廃止の対象となります。
また、報告書に添付される監査法人による監査報告書で、「意見不表明」や「不適正意見」といった極めてネガティブな評価がなされた場合も、同様に上場廃止基準に抵触する可能性があります。 適切な情報開示は投資家保護の観点から極めて重要であり、これが履行されない場合は市場からの退場を余儀なくされます。

上場廃止は一見ネガティブに捉えられがちですが、企業にとって様々なメリットをもたらす可能性があります。 経営の自由度向上からコスト削減、リスク低減まで、その恩恵は多岐にわたります。
上場廃止による主なメリットは以下の4つです。
それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
上場廃止によって、企業は経営の自由度と機動性を大幅に高めることができます。 上場企業は株主の利益を考慮し、特に短期的業績や株価への影響を気にするあまり、大胆な経営判断が難しくなることがあります。 非公開化により、外部株主の意向に左右されず、経営陣が迅速かつ柔軟に意思決定を行えるようになります。
これにより、市場環境の変化への素早い対応や、長期的視点に立った戦略の実行が容易になります。
上場企業は重要な経営判断の際、株主総会での承認が必要となるなど、多くのステークホルダーへの配慮や手続きが求められます。 上場廃止により株主が限定されれば、経営陣は市場の動向や競合の動きに対して、よりスピーディーに対応策を打ち出すことが可能になります。
迅速な意思決定は、競争が激しい現代のビジネス環境において極めて重要な要素となります。
上場企業は四半期ごとの決算発表などを通じて、常に市場から短期的な成果を求められるプレッシャーに晒されています。 そのため、一時的にコストがかさむ研究開発投資や新規事業への挑戦、大規模な設備投資といった、将来の成長に向けた取り組みが抑制されることがあります。
非公開化により、短期的な市場評価から解放されれば、経営陣は数年先を見据えた戦略を着実に実行できるようになります。
上場企業であることは、株主総会の運営やIR活動といった、株主対応に関する様々な業務負担を伴います。 株主総会の準備や運営、招集通知や事業報告書の作成・送付、決算説明会の開催、投資家からの問い合わせ対応など、これらの業務には多くの人員と時間、コストが必要です。
上場廃止により株主が少数に限定されれば、これらの負担は大幅に軽減され、経営陣や従業員は本来注力すべき事業活動に集中できます。
上場を維持するためには、多額のコストが発生しますが、上場廃止によってこれらの費用を削減できる点は大きなメリットです。 企業が負担する上場関連コストは、直接的費用から間接的費用まで多岐にわたります。
| 費用の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 直接的費用 | 証券取引所への年間上場料、TDnet利用料 |
| 間接的費用 | 監査法人への監査報酬、開示書類作成費用、株主名簿管理人への信託報酬 |
| 人的・時間的コスト | 情報開示や株主対応に費やされるリソース |
これらのコスト削減は、企業の収益性改善や財務体質の強化に直接的に貢献します。
上場企業が負担する直接的な費用として代表的なものが、証券取引所に毎年支払う年間上場料です。 この金額は企業の時価総額などに応じて変動し、規模の大きな企業ほど高額になります。 また、投資家向けの情報開示システムであるTDnetの利用料も、上場企業が負担する費用の一つです。
上場廃止により、これらの直接的な支払いが完全に不要となり、即効性のあるコスト削減効果が得られます。
上場維持には、財務諸表の信頼性を担保するための監査法人による会計監査報酬が必要です。 上場企業に求められる監査の基準は厳しく、報酬も高額になる傾向があります。 また、金融商品取引法に基づく有価証券報告書や四半期報告書などの開示書類は、作成に専門的な知識と多くの工数を要します。
これらの間接的な費用も、上場廃止によって大幅に削減または不要となり、長期的なコスト負担の軽減につながります。
経理部門や法務部門、IR担当部門などが、法定開示書類の作成や適時開示、株主総会の準備・運営、投資家からの問い合わせ対応などに多くの時間と労力を費やしています。 これらの業務は専門性が高く、担当者の負担も大きいものです。
上場廃止により業務量が大幅に削減されれば、従業員はより付加価値の高い、本来の業務に集中できるようになります。
上場廃止は、企業が望まない相手から経営権を奪われる「敵対的買収」のリスクを低減させる効果があります。 上場している企業の株式は証券取引所を通じて誰でも自由に売買できるため、特定の株主が市場で株式を買い集め、経営権の取得を目指すことが可能です。
非公開化により株式が非公開となれば、市場での自由な取引はできなくなり、買収を仕掛ける側は既存の株主と個別に交渉する必要が生じます。 これにより、買収のハードルは格段に高まり、経営の安定性を確保したいと考える企業にとって非常に大きなメリットとなります。
上場廃止により、企業は情報開示に関する義務から大幅に解放され、経営戦略上の機密を保持しやすくなります。 上場企業は、投資家保護の観点から、金融商品取引法などに基づき、財務状況や事業内容、リスク情報などを詳細かつタイムリーに開示することが義務付けられています。
しかし、この情報開示が時として競合他社に自社の戦略や弱みを知られるきっかけとなり、競争上不利になる可能性も否定できません。 非公開化すれば、法定開示義務は大幅に軽減されるため、重要な経営情報や開発中の新技術、M&A戦略などを外部に漏らすことなく、水面下で計画を進めることが可能になります。

上場廃止には企業にとって重要なデメリットが存在します。 資金調達の制約やブランドイメージの低下、株式の流動性減少など、企業活動に大きな影響を及ぼすため、これらを正しく理解することが不可欠です。
上場廃止に伴う主なデメリットは以下の3つです。
それぞれ詳しく解説します。
資金調達手段の制約と選択肢の減少は、上場廃止の大きなデメリットの一つです。 上場企業は株式市場を通じて、公募増資などにより大規模な資金調達を行うことが可能です。 しかし、非公開化すると、この有力な手段が利用できなくなります。
新株を発行して広く投資家から資金を集めることができなくなるため、事業拡大や大型投資に必要な資金を確保する上で、選択肢が狭まることになります。
上場企業にとって株式市場は、大規模な資金調達を実現するための重要なプラットフォームです。 特に公募増資は、広く一般の投資家から多額の資金を比較的迅速に集めることができる有効な手段となります。 しかし、上場廃止により非公開企業となると、この株式市場を通じた資金調達の道が閉ざされてしまいます。
これにより、将来の成長に向けた大規模な研究開発投資や、M&Aに必要な資金の確保が難しくなるケースが考えられます。
非公開企業になると、資金調達の方法は主に銀行からの借入や、特定の投資家を対象とする私募債の発行などに限定される傾向があります。 株式市場を通じた資金調達ができないため、これらの間接金融への依存度が高まります。
しかし、銀行借入には返済義務が伴い、金利負担も発生します。 また、私募債は発行できる相手が限られるため、常に希望通りの条件や金額で資金を調達できるとは限りません。
企業ブランドイメージや社会的信用の低下リスクも、上場廃止に伴う無視できないデメリットです。 一般的に「上場企業」であることは、厳しい審査基準をクリアし、情報開示を行っている証として、社会的な信頼性の高さを象徴するものと受け止められています。
そのため、上場廃止によってこのステータスを失うことは、金融機関や取引先、顧客や就職希望者からの評価に影響を与える可能性があります。 融資条件が厳しくなったり、新規取引のハードルが上がったり、優秀な人材の確保が難しくなったりする事態が考えられます。
「上場企業」という肩書きは、一定の企業規模や経営の透明性、コンプライアンス体制などを備えていることの証として、社会的な信用力を高める効果を持っています。 多くの投資家や金融機関、取引先は、上場企業であることを前提に評価や取引条件を判断しています。
そのため、上場廃止によってこのステータスを失うと、これまでの信用が揺らぎ、ビジネス上の不利益につながる可能性があります。
金融機関や取引先は、企業の信用力を評価する上で、上場企業であるかどうかを重要な判断材料の一つとしています。 上場企業は財務情報などの企業情報を定期的に開示する義務があるため、経営の透明性が高く、比較的評価しやすい対象です。
しかし、非公開化により情報開示の頻度や詳細度が低下すると、外部からは企業の経営実態が見えにくくなります。 その結果、金融機関はリスクをより高く見積もり、融資の審査を厳格化したり、金利を引き上げたりする可能性があります。
一般的に、上場企業は知名度が高く、経営の安定性や将来性に対する期待感から、就職希望者にとって魅力的な選択肢となりやすい傾向があります。 福利厚生が充実しているイメージを持つ人もいるでしょう。
しかし、上場廃止となると、こうしたイメージが薄れ、「非上場企業」というだけで選択肢から外されたり、他の上場企業との比較で不利になったりする可能性があります。 特に、新卒採用や若手の中途採用において、その影響が現れやすいと考えられます。
株式の流動性低下と、それに伴う既存株主への影響も、上場廃止における重要なデメリットです。 上場株式は証券取引所という公的な市場で、不特定多数の投資家によって日々活発に売買されており、高い流動性(換金性)を持っています。
しかし、上場廃止となると、この市場での取引ができなくなるため、株主は保有する株式を自由に売却することが困難になります。 売却したい場合は、買い手を見つけて相対で取引するなどの限られた方法しかなくなり、換金性が著しく低下します。
上場廃止の最も直接的な影響は、証券取引所での株式売買ができなくなることです。 これにより、株主は保有する株式を売りたいと思った時に、市場を通じて簡単かつ迅速に現金化することができなくなります。
非公開株式の売買は基本的に当事者間の相対取引となるため、買い手を見つけること自体が困難になります。 また、買い手が見つかったとしても、公正な価格で取引できる保証はありません。
一般的に、上場廃止が決定されると、その企業の株式に対する投資家の関心は薄れ、株価は下落する傾向があります。 特に、整理銘柄に指定されると、取引最終日に向けて売り注文が増加し、株価が大きく下落するリスクが高まります。
これは、市場での売買機会が失われることへの懸念や、企業の将来性に対する不安感などが反映されるためです。 TOB(株式公開買付)が行われる場合は、市場価格よりも高い価格で買い取られることもありますが、必ずしも全てのケースでそうなるとは限りません。
上場廃止後も株式を保有し続けることを選択した場合、株主としての基本的な権利(配当を受け取る権利や株主総会での議決権など)は原則として維持されます。 しかし、前述の通り、株式の売却は非常に困難になります。
また、非公開企業となると、上場企業に比べて情報開示の義務が軽減されるため、企業の経営状況を詳細に把握することも難しくなる可能性があります。 配当や株主優待の継続有無も、企業の判断次第となります。
上場廃止そのものが、直ちに株式の価値をゼロにするわけではありません。 しかし、上場廃止の原因が経営不振や債務超過であり、その後、会社が倒産したり、法的な清算手続きに入ったりした場合には、株式の価値は実質的になくなってしまいます。
特に、会社の財産を処分してもなお負債を返済しきれない場合は、株主への分配は行われず、株式は無価値となります。 株主にとって最も避けたい事態は、保有する株式の価値がゼロ、つまり「紙切れ」になってしまうことです。

もし、保有している株式や関わりのある企業が上場廃止となると決定された場合、どのような手続きが進み、自分の持っている株式はどうなるのか、不安に感じる方もいらっしゃるでしょう。
ここでは、上場廃止が決定されてから実際に廃止されるまでのプロセスと、その後の株式の扱いについて解説します。
上場廃止が決定されると、証券取引所はその事実を公表し、投資家への周知と売買機会の提供のため、一定期間を経て最終売買日を迎えるという段階的なプロセスを踏みます。 これは、突然取引ができなくなることによる投資家の混乱を防ぎ、市場の秩序を維持するために設けられた手順です。
具体的には、以下のステップで進みます。
上場廃止は、最終的に証券取引所が決定し、その情報を広く一般に公表することで正式な手続きが開始されます。 企業が自主的に上場廃止を申請する場合でも、上場維持基準への抵触などにより取引所の判断で廃止が決まる場合でも、必ず取引所による決定と公表というステップを踏みます。
公表は、通常、証券取引所のウェブサイトなどで行われます。 投資家や市場関係者に対して、どの企業の株式が、いつ、どのような理由で上場廃止になるのかを明確に伝えます。
上場廃止が決定されると、その株式は通常「整理銘柄」に指定され、投資家への周知と最終的な売買機会を提供するための期間が設けられます。 この整理銘柄としての指定期間は、原則として上場廃止が決定した日から上場廃止日までの1ヶ月間です。
この期間中、投資家はまだ証券取引所を通じて株式を売買することが可能です。 ただし、上場廃止が近い銘柄であるため、買い手が少なくなり、希望する価格で売却できない、あるいは全く売買が成立しないリスクも伴います。
整理銘柄の指定期間が終了すると、その最終日が「最終売買日」となります。 そして、最終売買日の翌営業日付で、その株式は正式に上場廃止となります。
この日以降、当該株式は証券取引所の売買システムから取り除かれ、市場を通じて取引することは一切できなくなります。 つまり、株主にとっては、証券会社を通じて自由に株式を売買する機会が失われることを意味します。
市場での売買ができなくなるため、主な取り扱い方法として以下の3つが存在します:
それぞれの方法について順にご説明いたします。
TOBとは、特定の企業(買付者)が、期間、株数、価格を公開して、不特定多数の株主から市場外で株式を買い付ける制度のことです。 M&Aによる完全子会社化やMBO(経営陣による自社買収)などを目的として上場廃止を行う際に、このTOBが実施されることが多くあります。
買付者は対象企業の経営権を取得するため、株主に対して株式の売却を促します。 通常、TOB価格は、発表前の市場株価に一定のプレミアム(上乗せ価格)が加算されることが一般的です。
スクイーズアウトとは、大株主(多くの場合、親会社やMBOを実施する経営陣など)が、少数株主からその保有株式を強制的に買い取る手続きのことです。 これは会社法で認められている手法で、例えば、大株主が議決権の90%以上を保有している場合などに、残りの少数株主に対して金銭を対価として交付し、その株式を取得することができます。
少数株主にとっては、自身の意思に関わらず強制的に株式を手放すことになりますが、通常は公正な価格が算定されて支払われます。 スクイーズアウトは、企業が完全子会社化などを実現し、経営の意思決定を迅速化するために行われる法的な手段です。
上場廃止後も、株主は引き続きその企業の株主としての権利(剰余金の配当を受け取る権利や株主総会での議決権など)を保有し続けることができます。 ただし、この場合、株式は非公開株式(未公開株式、譲渡制限株式)となり、証券取引所での売買はできなくなります。
そのため、株式の流動性は著しく低下し、売却したいと思っても買い手を見つけることが非常に困難になります。 また、非公開企業となると、上場企業に比べて情報開示義務が軽減されるため、企業の詳細な経営状況を把握することも難しくなる可能性があります。

上場廃止という企業の大きな変化は、その企業の株式を保有する株主や、そこで働く従業員など、様々な関係者に影響を及ぼします。
特に株主にとっては、保有資産の価値や権利に直接関わる重大な出来事です。 ここでは、まず株主に対してどのような具体的なメリットやデメリットが生じるのかを再整理し、詳しく解説していきます。
上場廃止が株主にもたらす影響は一様ではありません。 メリットとなる側面とデメリットとなる側面があり、その状況は上場廃止の理由やその後の対応によって大きく異なります。
主な影響として以下が挙げられます。
| 影響の種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| デメリット | ・市場での自由な売買ができなくなり、株式の換金性が著しく低下する ・企業の経営状況によっては、株価が下落したり、価値がゼロになったりするリスクがある |
| メリット | ・M&AやMBOに伴う場合、TOBにより市場価格よりも有利な条件で売却できる可能性がある |
| その他 | ・配当や株主優待の扱いが変わる可能性がある |
株主にとって、保有株式を市場で自由に売買できなくなることは、大きなデメリットです。 上場株式であれば、証券取引所を通じていつでも時価で売却し、現金化することが可能です。
しかし、上場廃止後はその市場がなくなるため、株式を売りたいと思っても、買い手を見つけること自体が困難になります。 加えて、上場廃止に至る経緯(特に業績不振や不祥事など)によっては、企業の信用が低下し、株式の価値そのものが大きく下落するリスクも伴います。
M&Aによる完全子会社化やMBOを目的とした上場廃止の場合、そのプロセスの一環としてTOBが実施されることが一般的です。 TOBでは、買付者(親会社や経営陣など)が、既存の株主から株式を買い取るために価格を提示します。
この際、買付価格は、TOB発表前の市場株価に対して、一定のプレミアム(上乗せ額)が付けられることが多くあります。 株主にとっては、市場で売却するよりも有利な価格で保有株式を現金化できる、またとない機会となる可能性があります。
上場廃止後も、企業が存続する限り、株主は配当を受け取る権利や、企業が任意で設けている株主優待制度の対象となる権利を基本的には持ち続けます。 しかし、実際に配当が支払われるか、株主優待が継続されるかは、非公開化された後の企業の方針次第となります。
経営の自由度が高まる反面、株主への利益還元策が見直され、配当金額が変更されたり、株主優待制度が変更または廃止されたりする可能性も十分に考えられます。 特に、株主数が大幅に減少する場合は、制度維持のメリットが薄れると判断されることもあります。
上場廃止が従業員に与える主な影響や変化の可能性として、以下の点が考えられます。
上場廃止は、あくまで株式が取引される市場が変わる(もしくはなくなる)ということであり、会社自体が即座に消滅したり、事業内容が根本から変わったりするわけではありません。 そのため、従業員と企業との間で結ばれている雇用契約(労働条件、給与、勤務地など)は、原則としてそのまま維持されます。
会社が上場廃止を理由に、一方的に従業員にとって不利益な条件変更を行うことは、労働関連法規によって制限されています。 ただし、M&Aに伴う組織再編や、経営不振が背景にある場合など、上場廃止の「原因」によっては、結果的に人員整理や配置転換が行われる可能性は残ります。
従業員に付与されているストックオプションの権利は、上場廃止によってその価値や権利行使の可否、条件などが大きく変わる可能性があります。 上場廃止となると株式は市場で取引されなくなり、客観的な株価が存在しなくなります。
そのため、権利を行使して株式を取得したとしても、その株式を市場で売却して利益を得ることができなくなります。 ストックオプションを保有している従業員は、上場廃止が決定した場合、自身の権利がどのように扱われるのか(例:権利失効、条件変更、金銭補償など)を、契約内容や会社からの説明で必ず確認する必要があります。
上場廃止によって、企業は短期的な株価や業績へのプレッシャーから解放され、より中長期的な視点での経営判断や、大胆な改革を行いやすくなります。 例えば、M&Aによって親会社ができた場合は、親会社の企業文化や人事制度、給与体系などが導入される可能性があります。
MBOの場合は、経営陣のリーダーシップのもと、事業の選択と集中が進められ、組織風土や評価制度が変わることも考えられます。 こうした経営方針の転換は、必ずしも悪いことばかりではなく、従業員の成長機会の創出や、より働きがいのある環境整備につながる可能性もあります。

上場廃止は理論だけでなく、実際の企業がどのような背景で決断し、その後どうなったかを知ることで、より深く理解できます。
ここでは、MBO、M&A、そして特に注目を集めた有名企業の事例をいくつかご紹介し、その背景や動向を探ります。
まず、経営陣が自ら非公開化を選択するMBO(マネジメント・バイアウト)の事例を見ていきましょう。
近年、経営陣が投資ファンドなどと協力して自社の株式を買い取り、非公開化を目指すMBOの事例が増加傾向にあります。 この背景には、短期的な株主の意向に左右されず、中長期的な視点での経営改革を断行したいという経営陣の考えがあります。
また、上場維持にかかるコストの削減や、アクティビスト(物言う株主)への対応負担軽減、敵対的買収リスクの回避といった目的も挙げられます。 具体的な事例としては、以下のような知名度の高い企業がMBOによる上場廃止を選択しています。
MBOは、経営陣が主体的に経営環境を整え、企業の持続的な成長を目指すための戦略的な選択肢として活用されています。
次に、他の企業グループの一員となるM&A(合併・買収)によって上場廃止となった企業の事例をご紹介します。
M&Aの結果、ある企業が他の企業の完全子会社となることで上場廃止に至るケースも、非常に多く見られます。 これは、親会社となる企業が、グループ全体の経営効率を高めたり、事業間のシナジー(相乗効果)を最大化したり、意思決定を迅速化したりすることを目的として行われます。
近年では、経営不振に陥った企業が、大手企業の傘下に入る形で経営再建を目指す事例も見受けられます。 例えば、以下のような事例があります。
M&Aによる完全子会社化は、企業グループ全体の競争力強化を目指す動きの中で多く見られます。
最後に、その経緯や規模から社会的な関心を集めた上場廃止事例と、その後の動きについて触れたいと思います。
企業の規模や知名度、上場廃止に至った背景などから、社会的に大きな注目を集める事例も存在します。 その代表格と言えるのが東芝の事例です。
同社は、2015年に発覚した不正会計問題や、アメリカの原子力事業における巨額損失により深刻な経営危機に陥りました。 その後、経営再建を目指す中で海外ファンドなどの「物言う株主」との対立も経験し、最終的には2023年に国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)を中心とする企業連合によるTOB(株式公開買付)を受け入れ、上場廃止となりました。
現在は、非公開企業の立場で経営の安定化と再建を進めている段階です。 また、天然調味料メーカーの焼津水産化学工業の事例では、複数の企業によるTOB合戦が繰り広げられ、株価が大きく上昇したことで話題となりました。

一度上場廃止となった企業が、再び証券取引所に上場することはできるのでしょうか。
非公開化を選択した企業や、やむを得ず上場廃止となった企業が、将来的に再び株式市場への復帰を目指すケースについて、その可能性や条件、動機、そして乗り越えるべきハードルについて解説します。
まず、上場廃止後に再び上場を目指すことは可能なのか、そしてそのためにはどのような条件が必要となるのかについてご説明します。
結論として、上場廃止後に再上場することは可能です。 しかし、それは簡単な道のりではなく、証券取引所が定める厳しい条件をクリアする必要があります。
再上場するためには、まず上場廃止に至った原因(例えば経営不振や不祥事など)が解消され、財務状況が健全化していることが大前提となります。 加えて、適切な内部管理体制(ガバナンス体制)が構築・運用されており、投資家保護の観点から十分な情報開示体制が整備されていることも求められます。
では、一度非公開化の道を選んだ企業や、上場廃止を経験した企業が、なぜ再び上場を目指すのでしょうか。
その背景にある動機や目的を見ていきます。 企業が再上場を目指す主な動機には、事業成長のための資金調達手段の再確保、企業イメージや社会的信用の向上、そして経営の透明性を高めることなどが挙げられます。
また、再上場は経営の健全性や透明性が回復したことの証となり、顧客や取引先、従業員からの信頼回復にも繋がります。 再上場は、企業が新たな成長ステージに進むための戦略的なステップと位置づけられることが多いのです。
再上場を実現するためには、多くの課題を克服し、証券取引所による厳格な審査を通過しなければなりません。
再上場に向けたハードルは高く、新規上場(IPO)と同様、あるいはそれ以上に厳しい審査が行われると考えられます。 証券取引所は、投資家保護を最重要視するため、企業のあらゆる側面を精査します。
特に重要視されるのは、以下の点です。
特に、過去に問題を起こした企業の場合、その原因究明と再発防止策の有効性が厳しく問われることになります。

上場廃止について、メリットやデメリットに関して疑問をお持ちの方も多いかと思います。
ここでは、よく寄せられるご質問とその回答をQ&A形式でまとめました。
A. 主なメリットは3つ挙げられます。
1つ目は、株主の意向に左右されず、経営陣が迅速かつ柔軟な意思決定を行えるようになることです。 2つ目は、年間上場料や監査費用、IR活動費など、上場を維持するために必要な様々なコストを削減できる点です。
3つ目は、株式が市場で自由に売買されなくなるため、望まない相手からの敵対的な買収リスクを低減できることです。
A. デメリットも主に3点考えられます。
まず、株式市場を通じた公募増資などができなくなり、資金調達の手段が銀行借入などに限定される可能性があります。 次に、「上場企業」というステータスを失うことで、社会的な信用やブランドイメージが低下し、取引や採用活動に影響が出る恐れがあります。
最後に、株主にとっては市場での株式売却が困難になり、換金性が著しく低下する点が挙げられます。
A. 上場廃止が決定されると、通常1ヶ月程度の「整理銘柄」指定期間を経て、市場での売買ができなくなります。
多くの場合、M&AやMBOに伴う上場廃止では、TOB(株式公開買付)により市場価格より高い価格で買い取られる機会があります。 TOBに応じない場合やTOBがない場合、スクイーズアウト(強制買取)の対象となるか、非公開株式として保有し続けることになりますが、換金は非常に困難になります。
A. 上場廃止自体が、直ちに雇用契約の変更や給与・待遇の悪化に繋がるわけではありません。
ただし、経営方針の変更に伴い、将来的に給与体系や福利厚生が見直される可能性はあります。 また、ストックオプションを保有している場合、上場廃止により権利行使の条件が変わったり、価値が変動したりする可能性があるため、会社からの説明を確認することが重要です。
A. 企業が経営戦略として上場廃止を選ぶ主な理由は、経営の自由度と機動性を高めるためです。
非公開化することで、短期的な株価や業績に捉われず、中長期的な視点での経営改革や大規模な投資を実行しやすくなります。 また、株主総会の運営やIR活動にかかる負担、アクティビスト(物言う株主)への対応コストを軽減する目的や、敵対的買収を防ぐ目的もあります。
上場廃止は経営の自由度向上やコスト削減といったメリットがある一方、資金調達の制約や信用低下、株式の流動性喪失といったデメリットも存在します。 上場廃止という事象に直面した際には、その背景にある理由(戦略的な選択なのか、やむを得ない事情なのか)をまず理解することが重要です。
そして、ご自身が株主なのか、従業員なのか、あるいは取引先なのかという立場に応じて、どのような影響が考えられるのか、どのような対応をとるべきなのかを冷静に判断する必要があります。 特に株主の方は、TOBやスクイーズアウトの条件、保有継続のリスクなどを正確に把握し、ご自身の資産を守るための適切な行動をとってください。
不確実な情報に流されず、正しい知識に基づいて判断することが、最善の結果につながるでしょう。
Q1サジェスト対策はどのくらいで効果が出ますか?
キーワードにもよりますが、早くて2日程度で効果が出ます。
ただし、表示させたくないサイトがSEO対策を実施している場合、対策が長期に及ぶおそれもあります。
Q2一度見えなくなったネガティブなサジェストやサイトが再浮上することはありますか?
再浮上の可能性はあります。
ただ、弊社ではご依頼のキーワードやサイトの動向を毎日チェックしており、
再浮上の前兆がみられた段階で対策を強化し、特定のサジェストやサイトが上位表示されることを防ぎます。
Q3風評被害対策により検索エンジンからペナルティを受ける可能性はありませんか?
弊社の風評被害対策は、検索エンジンのポリシーに則った手法で実施するため、ペナルティの心配はありません。
業者によっては違法な手段で対策をおこなう場合があるため、ご注意ください。
Q4掲示板やSNSのネガティブな投稿を削除依頼しても受理されないのですが、対応可能ですか?
対応可能です。
弁護士との連携により法的な削除要請が可能なほか、投稿者の特定や訴訟もおこなえます。
Q5依頼内容が漏れないか心配です。
秘密保持契約を締結したうえで、ご依頼に関する秘密を厳守いたします。
Q6他社に依頼していたのですが、乗り換えは可能ですか?
可能です。
ご依頼の際は他社さまとどのようなご契約、対応がなされたのかをすべてお伝えください。
Q7セキュリティ事故発生時にはすぐ対応していただけますか?
はい。緊急時には最短即日でフォレンジックを実施いたします。