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MBOとは?上場企業を非公開化する「経営陣買収」をわかりやすく解説

《この記事でわかること》
  • MBO(経営陣による自社買収)の基本的な仕組みと目的
  • MBOのメリット・デメリットと企業価値最大化への影響
  • MBO実施の4ステップと資金調達方法
  • 大正製薬やベネッセなど実際のMBO事例から学ぶポイント
  • 人事評価制度のMBO(目標管理制度)との違いと混同を避けるコツ

企業の経営陣による自社買収であるMBOとは何か、疑問や不安を抱える方も多いでしょう。この記事では、MBOとはどのような仕組みか、メリットやリスク、成功のポイントまでわかりやすく解説します。

MBOの基礎知識を身につけることで、企業価値の最大化や経営の自由度向上に役立つ情報を得られます。初心者でも理解しやすい内容で、MBOとは何かを知りたい方に最適な記事です。

MBO(Management Buyout)の基礎知識

MBOは企業買収の一形態として注目されており、経営陣が主体となって行う特徴的な手法です。ここでは、MBOの基本的な概念から他の買収手法との違いまでを詳しく解説します。

MBOの主要なポイントは以下の通りです。

  1. 定義と語源・歴史的背景
  2. M&A・TOB・LBOとの位置づけと違い

それぞれ解説していきます。

1. 定義と語源・歴史的背景

MBO(Management Buyout)とは、企業の経営陣が外部から資金を調達して自社の株式を買い取り、経営権を取得する手法です。日本語では「経営陣買収」と訳されますが、一般的には略称の「MBO」が使われています。

MBOは1980年代のアメリカで発展し、その後イギリスやヨーロッパ各国に広がりました。特にベンチャーキャピタル業界がMBOの発展に重要な役割を果たし、イギリス、オランダ、フランスなどの小規模案件で活用されてきました。

MBOの特徴は、買収側が企業の内部者(経営陣)であるため、企業の詳細な情報をすでに把握しているという点にあります。これにより、通常の買収と比べてデューデリジェンス(企業調査)のプロセスが限定的になる傾向が見られます。

2. M&A・TOB・LBOとの位置づけと違い

MBOは企業買収の一手法ですが、M&A、TOB、LBOとはそれぞれ異なる特徴を持っています。これらの違いを理解することで、MBOの位置づけがより明確になります。

MBOとM&Aの違い 

M&A(合併・買収)は企業の合併や買収を指す広い概念であり、MBOはその一形態です。MBOとM&Aの最大の違いは買い手と得られるメリットにあります。

M&Aでは外部の企業や投資家が買収を行うのに対し、MBOでは自社の経営陣が買収の主体となります。M&Aが新しい経営方法の導入を目的とすることが多いのに対し、MBOは経営陣が自らの経営方針を継続・強化するために行われることが多いです。

MBOとTOBの違い 

TOB(株式公開買付)は上場企業の株式を公開市場で買い付ける手法であり、MBOを実行する際の手段として使われることがあります。MBOは「誰が株式を買収するか」に焦点を当てた手法であるのに対し、TOBは「どのような方法で買収するか」に重点を置いた手法です。

上場企業がMBOを行う場合、多くはTOBを通じて株式を取得します。TOBでは買付価格や期間を公表し、投資家保護のための条件に従って公正な手続きを踏む必要が生じます。

MBOとLBOの違い 

LBO(レバレッジド・バイアウト)は買収対象企業の資産や将来のキャッシュフローを担保に資金調達を行う手法です。MBOとLBOの主な違いは買収する主体と資金調達方法にあります。

MBOは経営陣が主体となるのに対し、LBOは買収主体を限定せず、高いレバレッジ(借入比率)で資金を調達する点が特徴となります。MBOでもLBOの手法を用いることがあり、両者は併用されることも少なくありません。

MBOは企業の非公開化や経営の自由度向上、敵対的買収の防止などを目的として実施されます。経営陣自身が企業の将来に責任を持つ形で経営権を取得する手法として重要な位置を占めています。

MBOが注目される3つの背景と市場動向

近年、日本企業におけるMBO(経営陣による自社買収)の動きが活発化しています。この背景には市場環境の変化や企業価値向上への圧力など、複合的な要因が存在します。

MBOが注目される主な背景と最新の市場動向は以下の通りです。

  1. 日本における件数推移と業種別傾向
  2. PBR1倍割れ・ESG圧力などマクロ要因
  3. セブン&アイHDなど大型案件のインパクト

それぞれ解説していきます。

1. 日本における件数推移と業種別傾向

MBOは日本のM&A市場において重要な位置を占めるようになっています。2021年から2022年にかけて日本企業が関わったM&A案件は2年連続で過去最多を更新し、2022年には4,304件に達しました。

この中でMBO案件も増加傾向にあり、2025年に入ってからも活発な動きが続いています。業種別に見ると、IT・通信分野の企業が積極的にMBOを実施する傾向があります。

特にデジタル技術の進化を背景に、AIやIoT関連の企業を対象としたMBOが増加しています。また、医薬品や資産運用事業など専門性の高い分野でも取引が多く見られます。

さらに、2025年4月のM&A件数は102件と前年同月比で7件増加し、2008年の集計開始以来初めて4月単独で100件を超えました。この中にはMBO案件も含まれており、M&A市場全体の活況がMBOの増加にも影響を与えています。

2. PBR1倍割れ・ESG圧力などマクロ要因

MBO増加の背景には、企業価値評価や市場からの圧力といったマクロ要因があります。東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業に対して改善を要請していることが、MBOを含むM&A増加の主な要因となっています。

2023年3月から始まった東証の市場改革では、プライム市場およびスタンダード市場の全上場企業に対し「資本コストや株価を意識した経営の実現」が要請されました。特にPBR1倍割れの企業は十分な市場評価を得られていないとされ、より積極的な対応が求められています。

また、ESG(環境・社会・ガバナンス)への圧力も高まっており、2025年4月以降は東証プライム市場上場会社に対して決算情報や適時開示情報の英文開示が義務付けられるなど、上場維持コストが増大しています。これらの要因が、企業にMBOによる非公開化を検討させる背景となっていると考えられます。

3. セブン&アイHDなど大型案件のインパクト

大型MBO案件は市場に大きなインパクトを与え、MBOへの注目度を高めています。セブン&アイHDは2024年、カナダのコンビニ大手「アリマンタシオン・クシュタール」から約7兆円の買収提案を受け、対抗策としてMBOによる非公開化を検討しました。

この計画では、伊藤忠商事と創業家である伊藤家が3兆円を出資し、6兆円のMBOローンを組み合わせることで、合計9兆円規模の株式非公開化を目指すという、日本国内のMBO案件としては過去最大規模の内容でした。最終的に2025年2月に資金調達のめどが立たず計画は断念されましたが、この事例はMBOの可能性と課題を浮き彫りにしました。

日本の企業買収市場は2025年以降も拡大が予想され、特に業界再編型の経営統合が増加する見込みです。MBOはその中でも重要な手法として、今後も注目され続けるでしょう。

MBOの5つのメリット

MBO(経営陣による自社買収)には、経営の自由度向上から従業員エンゲージメント強化まで、多様なメリットがあります。企業が直面する課題解決や成長戦略実現のために、MBOが選択される理由を5つの観点から解説します。

MBOの主なメリットは以下の通りです。

  1. 経営自由度と迅速な意思決定
  2. 敵対的買収防衛と株主構成最適化
  3. 事業承継・後継者問題の解決
  4. 上場維持コスト・IR負担の削減
  5. 従業員エンゲージメントと中長期投資の促進

それぞれ解説していきます。

1. 経営自由度と迅速な意思決定

MBOを実施すると、経営陣が主要株主となることで経営判断の自由度が大幅に向上します。経営権が集中することで、外部の影響を受けずに迅速かつ自由な意思決定が可能になります。

企業を取り巻く環境は、IT技術の急速な発展や予測不能な経済変動など、劇的に変化しています。複数の株主が存在する場合、重要な経営判断には株主総会の開催・決議などの手続きが必要となり、最終決定までに時間がかかることもあります。

MBOによって経営陣が株式を保有することで、変化の激しい市場環境において競争力を維持し、ビジネスチャンスを迅速に捉えることが可能となるでしょう。

2. 敵対的買収防衛と株主構成最適化

MBOは望まない買収からの防衛策として有効です。MBOによって経営陣が自社株を保有すれば、敵対的TOB(株式公開買付)への対抗策になります。

非上場株式の場合、株式の譲渡には株主の同意が必要とされるケースが一般的です。MBOを実施して非上場企業となれば、敵対的買収による会社の乗っ取りや、意図しない人物に株式を取得されるリスクを回避できる可能性があります。

また、株主構成を最適化することで、経営方針に理解のある株主との関係を構築し、長期的な企業価値向上に集中できる環境を整えることも期待できます。

3. 事業承継・後継者問題の解決

MBOは事業承継や後継者問題の解決手段としても活用されています。親会社からの円満な独立手段としてMBOは用いられ、子会社の社長や非中核事業の事業部長などが株式を取得することで独立が可能です。

いわば「のれん分け」に近い形で、親会社としても子会社の切り離しによって経営資源を集中できるメリットがあります。中小企業においては、後継者不在の問題を解決する手段としてMBOが選択されることもあり、事業の継続性を保ちながら経営権の移転を実現できる場合があります。

4. 上場維持コスト・IR負担の削減

上場企業がMBOを実施して非公開化することで、上場維持に関わる様々なコストを削減できます。上場企業はIRなど企業情報の開示に伴う社内体制の整備が必要であり、監査法人への報酬や証券代行費用等の上場維持コストが年間一定額発生し続けます。

上場によるメリットと上場維持コストを比較して、上場のメリットがあまりない場合、MBOによる非上場化でこれらのコストを削減することが可能です。特に中小規模の上場企業にとって、上場維持コストの負担は大きく、MBOによる非公開化は財務改善につながる選択肢となり得ます。

5. 従業員エンゲージメントと中長期投資の促進

MBOは従業員のモチベーション向上と中長期的な投資促進にも寄与します。非上場化することで、株価変動に縛られた短期的な利益を求める必要がなくなり、中長期的視点で経営計画を組めるようになります。

MBOでは会社組織に変化はなく、人材を含めた経営資源がそのまま引き継がれるため、事業や従業員の雇用が継続する傾向にあります。従業員からすれば、経営陣が株主になることで会社の将来に対するコミットメントが明確になり、安心感が生まれることも考えられます。

また、短期的な業績変動に左右されず、研究開発や設備投資など中長期的な企業価値向上につながる投資判断が行いやすくなるでしょう。

MBOの4つのデメリット・リスク

MBOには多くのメリットがある一方で、実施に際して考慮すべき重要なデメリットやリスクも存在します。企業がMBOを検討する際には、以下の4つの課題を十分に理解し、対策を講じることが重要です。

MBOの主なデメリット・リスクは以下の通りです。

  1. 既存株主との対立と利益相反
  2. 財務レバレッジ増大による負担
  3. 情報開示制約と資金調達制限
  4. ステークホルダー信頼確保の課題

それぞれ解説していきます。

1. 既存株主との対立と利益相反

MBOでは経営陣と既存株主の間に利益相反が生じやすい構造があります。MBOを実施する際、経営陣はできるだけ安く株式を買い取りたい一方で、既存株主はより高い価格で売却したいと考えるため、利益相反による対立が生じる可能性があります。

この対立が激化すると、交渉の結果、MBOが不成立になるリスクも考えられます。既存株主とのトラブルを防ぐためには、中立的な立場の専門家に依頼して株式価値を算出し、適正な価格での取引を心がけることが重要です。

利益相反対策を講じなければ、株主からの反発や訴訟リスクも高まる可能性があります。

2. 財務レバレッジ増大による負担

MBOの実施には多額の資金が必要となり、財務状況に大きな影響を与えます。MBOの実施にあたって、多くの場合、金融機関や投資ファンドからの融資が必要となり、これにより会社の債務が増加し、利息の返済負担が生じます。

債務の増加は財務状況の悪化を招き、返済期間の設定によっては会社の資金繰りを圧迫する可能性があります。近年は金利が上昇傾向にあり、金利負担の部分は注意しながら金融機関や投資ファンドと交渉する重要性が高まっています。

場合によっては経営陣に個人保証を求められるケースもあり、リスクが増大することもあります。

3. 情報開示制約と資金調達制限

非公開化によって情報開示の義務が減少する一方で、資金調達面での制約も生じます。上場企業がMBOを実行すると、上場廃止になることから市場から資金調達できなくなるデメリットがあります。

主要な資金調達源を失うことで資金繰りが厳しくなる可能性があり、上場企業がMBOを実施する際は十分な検討が必要となります。また、非上場企業となることで情報開示が限定的になり、取引先や金融機関からの信用度が低下するリスクも考慮しなければなりません。

資金調達手段が限られることで、大規模な投資や事業拡大が難しくなる場合もあります。

4. ステークホルダー信頼確保の課題

MBO後は様々なステークホルダーとの信頼関係維持が課題となります。経営権が集中することで、逆に経営に変革が起こりにくくなるというデメリットがあります。

現経営陣の現状認識力や決断力が乏しいと、環境の変化に適応しきれず、長期的にはかえって経営が悪化するリスクが指摘されています。また、MBOを行うと、上場廃止のリスクや調達した資金の返済スケジュール管理などが必要となります。

会社の信用が低下する懸念や株主の確認がなくなることで、経営が揺らぐ可能性も想定されるため、MBO開始前にMBO後の計画を立てておくことが重要です。

MBO実行プロセスの4ステップ

MBO(経営陣による自社買収)を実施するには、明確なプロセスを踏む必要があります。ここでは、検討段階から完全子会社化までの4つの重要ステップを解説します。

MBO実行の主なプロセスは以下の通りです。

  1. 検討フェーズ―目的整理とバリュエーション
  2. スキーム設計―SPC設立と資金調達
  3. TOB実施からスクイーズアウトまでの流れ
  4. 上場廃止・完全子会社化の手続き

それぞれ解説していきます。

1. 検討フェーズ―目的整理とバリュエーション

MBO実施の初期段階では、目的の明確化と企業価値の算定が不可欠です。MBOでは、複数の方法を用いてバリュエーションを実施し、各ステークホルダーが妥当だと思える企業価値を算出するのが基本です。

バリュエーション手法としては、インカムアプローチ、コストアプローチ、マーケットアプローチなどがあります。これらの手法を組み合わせることで、より正確な企業価値を算定できると考えられています。

この段階で適切な企業価値評価を行わないと、後のプロセスでステークホルダーとの間に対立が生じる可能性があるため、慎重に進める必要があります。

2. スキーム設計―SPC設立と資金調達

MBOの実行には適切なスキーム設計と資金調達が重要です。一般的には、特別目的会社(SPC)を設立して資金調達を行います。

SPCを利用したMBOスキームは、後継者に対して円滑な事業承継を行うことに適していると言われます。SPCを設立する主な理由は、金融機関からの資金調達が容易になるためです。

SPC名義で資金調達を行うと、後継者との倒産隔離が図られるため、金融機関から大きな額の資金を調達しやすくなることがあります。最終的にはSPCと元の会社が合併を行うことで、後継者が合併後の会社の株主となり、事業承継が完了します。

3. TOB実施からスクイーズアウトまでの流れ

上場企業のMBOでは、TOB(株式公開買付)からスクイーズアウト(少数株主の排除)までの手続きが必要です。TOBは株式を公開市場で買い付ける手法で、MBOを実行する際の手段として使われます。

TOBでは買付価格や期間を公表し、投資家保護のための条件に従って公正な手続きを踏む必要があります。TOBで一定割合以上の株式を取得した後、残りの少数株主の株式を強制的に取得するスクイーズアウトを行います。

この過程では、少数株主の利益を保護するための手続きが法律で定められており、適切に対応することが求められます。

4. 上場廃止・完全子会社化の手続き

MBOの最終段階では、上場廃止と完全子会社化の手続きを行います。スクイーズアウトが完了すると、株式は上場廃止となり、企業は非公開化されます。

上場廃止後は、SPCと対象会社の合併などを通じて完全子会社化が行われます。この段階では、会社法に基づいた適切な手続きを踏む必要があります。

上場廃止によって、上場維持コストの削減や経営の自由度向上といったMBOのメリットが実現します。

資金調達・税務・会計の4大要点

MBOを成功させるためには、資金調達・税務・会計の側面からも十分な検討が必要です。ここでは、MBO実施における4つの重要なポイントを解説します。

MBO実施における資金調達・税務・会計の主な要点は以下の通りです。

  1. LBOローン・メザニンファイナンスの条件
  2. 株価算定とフェアネスオピニオン取得
  3. のれん・無形資産の会計処理
  4. 税務メリット/デメリットと繰延税金資産

それぞれ解説していきます。

1. LBOローン・メザニンファイナンスの条件

MBOの資金調達では、LBOローンやメザニンファイナンスが重要な役割を果たします。LBOファイナンスは基本的にノンリコース(非遡及)であり、返済の責任範囲を限定したうえで融資を行う手法である点が特徴的です。

LBOローンには主に、シニアローン、メザニンローン、コミットメントラインの3種類があります。シニアローンは最も返済優先度が高く、低金利で借入できる特徴を持っています。

一方、メザニンファイナンスはLBOローンよりも弁済順位が低い劣後ローンや優先株式を指し、利率は一般に8%~10%程度と言われています。これらの資金調達手段を組み合わせることで、MBOに必要な資金を効率的に調達できる可能性があります。

2. 株価算定とフェアネスオピニオン取得

MBOでは株価算定の公正性を担保するため、フェアネスオピニオンの取得が重要です。フェアネスオピニオンとは、財務に関する専門性を有する第三者算定機関が、合意された取引価格や比率の公正性について、財務的見地から意見を表明するものです。

2019年6月に経済産業省から公表された「公正なM&Aの在り方に関する指針」では、MBOや支配株主による従属会社の買収等、構造的な利益相反関係にある取引における公正性担保措置として、フェアネスオピニオンの有用性が指摘されています。

フェアネスオピニオンを取得することで、株主に対する説明責任を果たし、MBOの透明性と公正性を高めることが期待できます。

3. のれん・無形資産の会計処理

MBO実施後の会計処理では、のれんや無形資産の扱いが重要になります。のれんとは、買収価額が被買収企業の純資産を上回る部分を指し、将来の超過収益力を表します。

会計上、のれんの資産価値が著しく低下した場合は、のれんの帳簿価額と回収可能価額の差額を「減損損失」として計上します。一方、税務上ではのれんは「資産調整勘定」として処理され、会計とは異なる扱いになることがあります。

この違いを理解し、適切に会計処理を行うことがMBO後の財務報告の正確性を確保するために重要です。

4. 税務メリット/デメリットと繰延税金資産

MBOには税務面でのメリットとデメリットがあり、特に繰延税金資産の扱いが重要です。繰延税金資産は、将来的に支払う法人税や住民税、事業税がどのぐらい変動するかを表す税効果会計に関する勘定科目です。

繰延税金資産を計上するメリットとして、利害関係者からの評価が向上し、自己資本が増え、財務諸表上は利益が確保される点が挙げられます。一方、デメリットとしては、赤字になったら税金は支払わないため意味がなくなることや、計上や取り崩しの判断が業績に大きく影響する点があります。

MBOを実施する際には、これらの税務上の影響を十分に検討し、専門家のアドバイスを受けながら進めることが重要となります。

上場廃止後、株式はどうなる?株主への影響Q&A

MBO(経営陣による自社買収)によって上場廃止となった場合、株主にとって最も気になるのは保有株式の行方です。ここでは、MBO発表から上場廃止後までの株式の扱いと株主への影響について解説します。

株主への主な影響に関するQ&Aは以下の通りです。

  • MBO発表~上場廃止までの株価推移
  • 買取価格決定メカニズムと少数株主保護
  • 上場廃止後の株式管理と再上場の可能性

それぞれ解説していきます。

MBO発表~上場廃止までの株価推移

MBO発表後の株価は通常、買収プレミアムの影響で上昇する傾向があります。MBO発表後は、一般的に既存の株主に買収プレミアムを上乗せした買い取り価格が設定されるため株価が上昇します。

例えば大正製薬ホールディングスの場合、2023年11月24日のMBO発表後、TOB(株式公開買付)価格は市場価格に対して相当のプレミアムが付きました。上場廃止が決定してから実際に上場廃止されるまでの期間は、投資家が市場で株式を売買できる最後の機会となります。

この期間中にできるだけ早く売却することが推奨されています。

買取価格決定メカニズムと少数株主保護

MBOにおける買取価格は、公正性と透明性を確保するための仕組みが整えられています。買取価格の決定には、第三者機関による株価算定やフェアネスオピニオンの取得など、少数株主の利益を保護するための措置が講じられます。

大正製薬ホールディングスのMBOでは、1株に対して8620円のTOB価格が設定されましたが、複数の投資ファンドから「安すぎる」との批判が出ました。このように、買取価格をめぐっては株主と経営陣の間で対立が生じることもあります。

東京証券取引所は、こうした問題に対応するため、MBOに関する行動規範の厳格化を進めています。

上場廃止後の株式管理と再上場の可能性

上場廃止後の株式管理は、証券保管振替機構(機構)での取扱いによって異なります。上場廃止になっただけでは株式の価値や株主としての権利は失われず、その後は発行会社の株主名簿で管理されます。

MBOを実施して非上場企業となった場合、株主は経営陣や投資ファンドなどに限定されるのが一般的です。一般株主の株式は買い取られ、現金化されることになります。また、MBOによって非公開化された企業が再上場するケースもあります。例えばワールドは2005年に上場廃止となりましたが、2018年に再上場を果たしています。

3つの成功・失敗事例に学ぶMBOのポイント

MBOの実施には様々な背景や目的があり、その成否は企業の将来に大きな影響を与えます。ここでは、近年注目を集めた3つのMBO事例から、成功のポイントと避けるべき落とし穴を学びます。

注目すべきMBO事例は以下の通りです。

  1. 大正製薬ホールディングスのケーススタディ
  2. ベネッセホールディングスのケーススタディ
  3. スノーピークのケーススタディ

それぞれ解説していきます。

1. 大正製薬ホールディングスのケーススタディ

大正製薬ホールディングスは2023年11月にMBOを発表し、日本企業では過去最大規模のMBOとして注目を集めました。大正製薬ホールディングスは主力の医薬事業が薬価制度改革や医療の個別化にともなう開発難易度の上昇など厳しい状況にあり、今後はネット販売や海外事業を強化する予定です。

このMBOでは、創業家主導で株式取得を目的に設立された大手門株式会社がTOBを実施し、総額約7100億円という巨額の買収となりました。2024年3月の臨時株主総会を経て、東京証券取引所から上場廃止となる見通しです。

一方で、TOB価格が安すぎるとして投資ファンドから批判を受けるなど、少数株主との利益相反という課題も浮き彫りになりました。

2. ベネッセホールディングスのケーススタディ

ベネッセホールディングスは2023年11月10日、MBOを実施すると発表しました。「事業変革をスピードと質をもって実現できる」と小林仁社長が説明したように、経営の自由度を高め、長期的な視点での事業改革を目指しています。

ベネッセ創業家とスウェーデンの投資ファンドであるEQTグループが組み、TOB価格は1株2600円で、11月9日の終値に45%超のプレミアムをつけました。TOB総額は最大2079億円と、当時の国内MBOで過去最大規模でした。

TOB成立後、ベネッセは東証プライム市場から上場廃止となり、株式非公開化後は創業家、現経営陣、EQTによる「トロイカ体制」で経営を進める計画です。

3. スノーピークのケーススタディ

スノーピークは2024年にMBOによる株式非公開化を正式発表しました。上場廃止で経営の自由度を高め、短期的な収益よりも長期的なビジョンの実現に軸足を移す決断をしました。

スノーピークはコロナ禍のキャンプ特需によって売上高が4年間で2.5倍に跳ね上がりましたが、直近の2023年12月期は最終利益が99.9%減と急激に業績が悪化しました。キャンプブームの終焉を背景に在庫過多に陥り、経営の立て直しが急務となっていました。

山井太社長がMBOを検討し始めたのは約1年前からで、短期的には利益水準の低下やキャッシュフローの悪化を招くことが避けられない中、機動的かつ柔軟な意思決定を可能にするため非公開化を選択しました。

これらの事例から、MBOを成功させるためには、明確な経営ビジョンと実行計画、適切な株価設定、そして株主を含むステークホルダーとの丁寧なコミュニケーションが重要であることがわかります。

MBO成功のための4つのチェックポイント

MBO(経営陣による自社買収)を成功させるためには、計画段階から実行後まで様々な要素を考慮する必要があります。ここでは、MBOを成功に導くための4つの重要なチェックポイントを解説します。

MBO成功のための主なチェックポイントは以下の通りです。

  1. ガバナンスと利益相反管理
  2. 独立委員会設置と情報開示の徹底
  3. アフターMBO経営計画とKPI設定
  4. 専門家チーム(FA・弁護士・会計士)の活用

それぞれ解説していきます。

1. ガバナンスと利益相反管理

MBOでは経営陣と既存株主の間に利益相反が生じやすいため、適切なガバナンス体制の構築が不可欠です。既存株主とのトラブルを防ぐためには、中立的な立場の専門家に依頼して株式価値を算出し、適正な価格での取引を心がけることが重要です。

利益相反とは、経営陣はできるだけ安く株式を取得したい一方で、既存株主はより高い価格で売却したいと考えるような、二者以上の利害が対立する状況を指します。この対立を放置すると、株主からの反発や訴訟リスクも高まるため、利益相反対策を講じることがMBO成功の鍵となります。

2. 独立委員会設置と情報開示の徹底

MBOの公正性を担保するためには、独立委員会の設置と情報開示の徹底が重要です。2025年に施行されたMBO新ルールでは、特別委員会からの答申書が適時開示書類の添付書類とされたことから、少なくとも添付書類として答申書の全文が開示されることになりました。

MBO新ルールでは、少数株主への影響に関する意見の入手先が特別委員会に限定され、意見の内容も「一般株主にとって公正であること」に変更されました。また、DCF法による株式価値算定に関して、財務予測の前提となる考え方や割引率などの項目について追加的な開示が必要になるなど、情報開示の拡充が図られています。

3. アフターMBO経営計画とKPI設定

MBO実施後の経営計画とKPI(重要業績評価指標)設定は、長期的な成功の鍵となります。MBOがゴールではなく、MBO達成後のビジョンを明確にしておくことが重要です。

KPI設定では、KGI(重要目標達成指標)を分解する方法と、KSF(重要成功要因)を考えて指標化する方法があります。KPIツリーを作成し、利益、売上、新規顧客売上などの指標を階層的に分解することで、効果的な経営管理が可能になります。

MBO実施後は、上場廃止のリスクや調達資金の返済スケジュール管理なども必要になるため、事前に計画を立てておくことが肝要です。

4. 専門家チーム(FA・弁護士・会計士)の活用

MBOの複雑なプロセスを円滑に進めるためには、専門家チームの活用が不可欠です。ファイナンシャルアドバイザー(FA)、弁護士、会計士などの専門家は、MBOの各段階で重要な役割を果たします。特に株価算定やデューデリジェンス(企業調査)、法的手続きなどの専門的な分野では、経験豊富な専門家のサポートが成功の鍵となります。専門家チームを早期から関与させることで、潜在的なリスクを特定し、適切な対策を講じることが期待できます。

【人事用語のMBO】目標管理制度との違い

MBOという略語は、経営陣による自社買収(Management Buyout)と目標管理制度(Management By Objectives)の両方を指すため、混同されやすい用語です。ここでは、人事領域におけるMBOの概要と、経営陣買収MBOとの違いを解説します。

人事用語のMBOと経営陣買収MBOの違いに関するポイントは以下の通りです。

  • HR領域のMBO(Management By Objectives)の概要
  • 経営陣買収MBOとの混同を避けるポイント
  • 評価制度MBOの導入メリット・デメリット

それぞれ解説していきます。

HR領域のMBO(Management By Objectives)の概要

人事領域におけるMBOは、従業員が自ら目標を設定し、達成までの道のりを自ら管理する人材マネジメント手法です。MBOは「Management by Objectives」の略称で、「目標管理制度」と訳され、1954年に経営学者のピーター・ドラッカーにより提唱されました。

MBOの大きな特徴は、社員が自ら目標を設定し、達成までの道のりを自ら管理することです。上司からの指示ではなく、企業目標の達成に貢献できるような目標を自分で設定するため、自主性を養ったり、モチベーションの向上につながったりするメリットがあります。

人事評価では、目標の達成状況により評価が行われます。

経営陣買収MBOとの混同を避けるポイント

経営陣買収MBOと目標管理制度MBOは全く異なる概念ですが、同じ略語を使用するため混同されやすいです。経営陣買収MBOは企業の株式を経営陣が買い取る手法であるのに対し、目標管理制度MBOは人材マネジメントの手法です。

ビジネスにおける目標管理制度MBOは、企業のビジョンや戦略に基づいて、従業員が自己がらみで目標を設定し、達成していくのを支援する手法と言えます。一方、経営陣買収MBOは企業買収の一形態で、経営陣が外部から資金を調達して自社の株式を買い取り、経営権を取得する手法となります。

文脈によってどちらのMBOを指しているのか注意する必要があります。

評価制度MBOの導入メリット・デメリット

目標管理制度MBOには、導入するメリットとデメリットがあります。

メリットとしては、以下の点が挙げられます。

  • 従業員の意欲向上
  • タスクの優先順位設定
  • 進捗把握の容易さ
  • 業績向上

一方、デメリットとしては、以下の点が考えられます。

  • 目標の達成度合いが人事評価に影響を与えるため、従業員によっては低い目標を設定する可能性
  • 個人の目標のみに執着するとチームの協調性低下を招く可能性
  • 評価における負担とプレッシャーが増えるといった課題

目標管理制度MBOを効果的に運用するためには、目標の明確化、意欲の向上、堅実な意思決定、チームの規則性確立などのポイントを押さえることが重要です。また、OKR(Objectives and Key Results)など他の目標管理手法との違いを理解し、自社に適した方法を選択することも大切になります。

MBOに関するよくある質問

MBO(経営陣による自社買収)について、投資家や経営者からよく寄せられる疑問にお答えします。株式の行方から相談先まで、実務的な観点から重要なポイントを解説します。

MBOに関する主な質問と回答は以下の通りです。

  • MBOで株はどうなるのか
  • 上場廃止後の株主の対応
  • MBOと人事評価制度の関係
  • MBOを検討する際の相談先

それぞれ解説していきます。

MBOで株はどうなるのか

MBOが実施されると、経営陣が株式を買い取るため、一般株主の保有株式は現金化されます。MBO発表後は、一般的に既存の株主に買収プレミアムを上乗せした買い取り価格が設定されるため株価が上昇します。

上場企業のMBOでは、通常TOB(株式公開買付)が実施され、株主は提示された価格で株式を売却するかどうかを選択できます。TOBに応じない場合でも、経営陣側が一定以上の株式を取得すると、スクイーズアウト(少数株主の排除)により、残りの株式も強制的に買い取られることがあります。

この過程では、少数株主の利益を保護するための手続きが法律で定められています。

上場廃止後の株主の対応

MBOによって上場廃止となった場合、株主はどのような対応が必要でしょうか。上場廃止になっただけでは株式の価値や株主としての権利は失われず、その後は発行会社の株主名簿で管理されます。

ただし、MBOを実施して非上場企業となった場合、株主は経営陣や投資ファンドなどに限定されるのが一般的です。一般株主の株式は買い取られ、現金化されることになります。

上場廃止が決定してから実際に上場廃止されるまでの期間は、投資家が市場で株式を売買できる最後の機会となるため、できるだけ早く売却することが推奨されています。

MBOと人事評価制度の関係

MBOという略語は、経営陣による自社買収と目標管理制度の両方を指すため、混同されやすい用語です。人事評価制度のMBOは「Management by Objectives」の略称で、「目標管理制度」と訳され、1954年に経営学者のピーター・ドラッカーにより提唱されました。

人事評価制度のMBOでは、従業員が自ら目標を設定し、達成までの道のりを自ら管理します。上司からの指示ではなく、企業目標の達成に貢献できるような目標を自分で設定するため、自主性を養ったり、モチベーションの向上につながったりするメリットがあります。

経営陣買収のMBOとは全く異なる概念であるため、文脈によって使い分ける必要があります。

MBOを検討する際の相談先

MBOを検討する際は、専門家への相談が不可欠です。MBOも買収や売却を行うM&Aの一種であるため、メリットだけでなくデメリットについても、把握しておかなければなりません。

具体的な相談先としては、M&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザー(FA)、弁護士、会計士などが挙げられます。これらの専門家は、企業価値評価、スキーム設計、資金調達、法的手続きなど、MBOの各段階で重要な役割を果たします。

特に株価算定やデューデリジェンス(企業調査)、利益相反対策などの専門的な分野では、経験豊富な専門家のサポートが成功の鍵となるでしょう。

まとめ―MBOで企業価値を最大化するために覚えておくべきこと

MBOは経営陣が自社の株式を買い取って経営権を取得する手法であり、適切に実施すれば企業価値の最大化につながる可能性があります。将来のビジョンを明確にし、株主との対立を避ける工夫をし、専門家へ相談することがMBO成功の3つの重要なポイントです。

MBOのメリットとしては、経営の自由度向上、迅速な意思決定、敵対的買収の防止、上場維持コストの削減などが挙げられます。一方、デメリットとしては、既存株主との利益相反、財務レバレッジの増大、資金調達の制限などがあります。

MBOを成功させるためには、ガバナンスと利益相反管理、独立委員会設置と情報開示の徹底、アフターMBO経営計画とKPI設定、専門家チームの活用が重要となります。特に、MBO後の経営計画を事前に立てておくことが、長期的な成功につながると言えるでしょう。

中小企業のMBOは事業承継が目的で行われることが多いですが、相手のことを考えて自身に不利なMBOを行うと、今後の経営が困難になる可能性も指摘されています。MBOはゴールではなく、MBO達成後のビジョンを明確にし、企業価値の最大化を目指すことが重要です。

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