上場廃止基準とは?東証の基準6つをわかりやすく解説
- 東京証券取引所が定める6つの主要な「上場廃止基準」の具体的な内容
- 上場廃止が決定されてから実行されるまでのプロセス(監理銘柄・整理銘柄)
- 上場廃止が企業や株主にもたらす4つのデメリット
- 経営戦略としての自主的な上場廃止を含む4つのメリット
- 経営者・担当者、そして投資家がそれぞれ上場廃止リスクに関して注意すべきポイント
「上場廃止基準とは具体的にどのようなものか、自社や投資先は大丈夫なのか」と気になっていませんか。上場廃止は企業や投資家にとって大きな影響を及ぼす可能性があります。
この記事では、東京証券取引所が定める6つの主要な上場廃止基準の内容、上場廃止決定から実行までのプロセス、企業や株主にとってのメリット・デメリット、そして経営者や投資家が留意すべき点まで、網羅的にわかりやすく解説します。
この記事を読むことで、上場廃止リスクを正しく理解し、適切な判断を下すための知識が身につきます。
上場廃止とは?制度の定義と目的

上場廃止は、企業や投資家にとって重要な意味を持っています。ここでは、その基本的な定義と制度の目的について、以下の2点をわかりやすく解説いたします。
- 上場廃止の基本的な意味 – 取引所での売買終了
- 上場廃止基準が存在する理由 – 投資家保護と市場の信頼性維持
それぞれ解説していきます。
1. 上場廃止の基本的な意味 – 取引所での売買終了
上場廃止とは、証券取引所での企業の株式売買が停止されることです。これは、企業が取引所の定める基準に抵触したり、あるいは自ら上場廃止を申請したりした場合に発生します。
上場廃止が決定されると、多くの場合、その株式は「整理銘柄」として指定され、一定の売買猶予期間を経た後、最終的に取引所での取引が不可能になります。つまり、公開市場での自由な株式取引ができなくなる事態を指し、投資家は該当企業の株式を市場で売買する機会を失うことになるのです。
この措置は、企業の状況変化や市場のルールに基づき行われるものです。
2. 上場廃止基準が存在する理由 – 投資家保護と市場の信頼性維持
上場廃止基準は、主に投資家を保護し、株式市場全体の信頼性を維持するために不可欠なルールです。証券取引所は、公正かつ健全な市場環境を提供する責務を負っており、上場企業には一定の財務状態や情報開示の質が求められます。
基準を満たさない企業が上場し続けると、投資家が不利益を被るリスクが高まり、市場全体への不信感にも繋がりかねません。そのため、上場廃止基準は、市場の質を一定水準に保ち、投資家が安心して取引できる環境を守るための重要な役割を担っています。
この制度があることで、市場の透明性と公正性が担保されるのです。
東京証券取引所が定める上場廃止基準 – 6つの主要カテゴリー
東京証券取引所(東証)では、市場の健全性を保つため、複数の観点から上場廃止基準を定めています。 主要な6つのカテゴリーは以下のとおりです。
- 上場維持基準への不適合 – 市場の質を保つための形式基準
- 有価証券報告書等の提出遅延 – 適時開示義務違反
- 虚偽記載又は不適正意見等 – 開示情報の信頼性毀損
- 特設注意市場銘柄等(旧:監理銘柄(審査中)) – 内部管理体制の不備
- 上場契約違反等 – 取引所との約束違反
- その他 – 企業の継続性や健全性に関わる重大事由
それぞれ解説していきます。
1. 上場維持基準への不適合 – 市場の質を保つための形式基準
上場維持基準への不適合とは、企業が各市場区分(プライム、スタンダード、グロース)で定められた形式的な要件を満たせなくなる状態を指します。 これらの基準には、株主数、流通株式の数や時価総額、売買代金、純資産額などが含まれます。
プライム市場では流通株式時価総額100億円以上などが求められます。 基準に抵触すると改善期間が与えられ、期間内に回復できなければ上場廃止の手続きが進められます。 市場の質を保つための最低ラインであり、企業は常にこの基準を意識する必要があります。
市場区分(プライム・スタンダード・グロース)ごとの基準値詳細(株主数、流通株式、時価総額、売買代金、純資産など)
東京証券取引所の上場維持基準は、市場区分ごとに異なり、各市場の特性に応じて設定されています。 以下に具体的な基準値を示します。
項目 | プライム市場 | スタンダード市場 | グロース市場 |
---|---|---|---|
株主数 | 800人以上 | 400人以上 | 150人以上 |
流通株式数 | 2万単位以上 | 2,000単位以上 | 1,000単位以上 |
流通株式時価総額 | 100億円以上 | 10億円以上 | 5億円以上 |
流通株式比率 | 35%以上 | 25%以上 | 25%以上 |
売買代金/売買高 | 1日平均売買代金 0.2億円以上 | 月平均売買高 10単位以上 | 月平均売買高 10単位以上 |
純資産の額 | 正であること | 正であること | 正であること |
時価総額(※) | – | – | 40億円以上(上場10年経過後) |
※ グロース市場の時価総額基準は、上場後10年を経過した企業に適用されます。
これらの基準は定期的に審査され、適合しない場合は改善期間が与えられます。 改善が見られない場合は上場廃止となるため、企業は自社が属する市場の基準を常に意識する必要があります。
基準抵触時の猶予期間と改善計画
上場維持基準に適合しなくなった場合、企業には原則として1年間の改善期間(猶予期間)が与えられます。 一部基準については6か月となります。
この期間中に企業は「改善計画書」を開示し、具体的な取り組みを進めることが求められます。 例えば、流通株式比率を高めるための施策や、時価総額向上のためのIR活動などが考えられます。
改善期間内に基準を再び満たすことができれば上場は維持されます。 達成できなければ上場廃止となるため、基準抵触後の迅速な対応が不可欠です。
継続的な赤字と上場維持基準の関係(特に純資産と債務超過リスク)
継続的な赤字自体が直接の上場廃止理由ではありませんが、財務状況の悪化を通じて間接的にリスクを高める要因となります。 特に重要なのが「純資産の額が正であること」という基準です。
赤字が続くと純資産が減少し、マイナス(債務超過)に陥る可能性があります。 債務超過の状態が解消されない場合、上場廃止基準に該当します。
また、純資産の減少は時価総額など他の基準にも影響を与えかねません。 企業は継続的な赤字を避け、財務健全性を保つことが重要です。
上場維持基準に関する経過措置(必要な場合)
2022年4月の東証市場区分再編の際、新しい上場維持基準を満たしていなかった企業に対し、基準適合のための「経過措置」が設けられました。 これは新基準への円滑な移行を目的とした時限的な措置です。
経過措置の適用を受けている企業は、本来の基準よりも緩和された基準が適用されていました。 しかし、この経過措置は2025年3月以降段階的に終了し、すべての企業が本来の基準を満たす必要が生じます。
対象企業は計画に基づき改善を進め、期限までに基準適合を達成しなければ上場廃止となります。 この措置は、企業にとって新基準へ対応するための準備期間と位置づけられています。
2. 有価証券報告書等の提出遅延 – 適時開示義務違反
有価証券報告書や四半期報告書などの提出遅延は、投資家保護の観点から重大な問題とされ、上場廃止につながる可能性があります。 投資家はこれらの開示情報に基づいて投資判断を行うため、情報のタイムリーな提供は市場の公正性を保つ上で不可欠です。
例えば、決算作業の遅れや監査手続きの難航など、様々な理由で提出が遅れるケースが考えられます。 しかし、どのような理由であれ、定められた期限を守ることは上場企業としての基本的な責務です。
法令等で定められた書類を期限内に正確に提出することは、上場を維持するための絶対的な条件の一つといえます。
提出義務のある書類と期限
上場企業には、金融商品取引法などに基づき、投資家保護のために様々な書類の提出が義務付けられています。 代表的なものとして以下があります。
- 有価証券報告書:事業年度終了後3か月以内に提出
- 四半期報告書:各四半期終了後45日以内に提出
- 臨時報告書:会社の運営、業務又は財産に関する重要な事実が発生した場合に提出
これらの書類は、投資家が企業の財政状態や経営成績、その他重要な情報を把握するための根幹となります。 提出期限を守ることは、適時適切な情報開示という上場企業の責務を果たす上で非常に重要です。
提出遅延が上場廃止につながる条件
提出遅延がただちに上場廃止を意味するわけではなく、一定の猶予や条件が設けられています。 具体的な上場廃止リスクが高まる条件は以下のとおりです。
- 法定提出期限から原則として1か月を経過してもなお提出されない場合
- 提出された報告書に監査法人から「意見不表明」または「不適正意見」が付され、その状態が改善されない場合
提出遅延が改善されず、投資家保護や市場の信頼性確保の観点から問題が大きいと判断された場合、監理銘柄指定を経て上場廃止に至る可能性があります。 企業は、提出遅延が重大な結果を招くことを認識すべきです。
3. 虚偽記載又は不適正意見等 – 開示情報の信頼性毀損
提出書類における虚偽記載や、監査法人による不適正意見・意見不表明は、開示情報の信頼性を著しく損なう行為であり、上場廃止基準に該当します。 投資家は企業が開示する情報を信頼して投資活動を行っており、その情報が真実でない場合、資本市場の前提が崩れてしまいます。
例えば、意図的な粉飾決算や重大な事実の隠蔽などが発覚した場合、投資家は多大な損害を被る可能性があります。 企業の開示情報に対する信頼性は資本市場の基盤であり、これを裏切る行為は市場からの退出という厳しい結果を招きます。
重大な虚偽記載とは
重大な虚偽記載とは、投資家の投資判断に著しい影響を与えるような、意図的または重大な過失による不正確な情報開示を指します。 具体例としては以下のようなものがあります。
- 売上や利益の架空計上
- 重要なリスク情報の隠蔽
- 不適切な会計処理の適用
単なる記載ミスではなく、企業の財政状態や経営成績の根幹に関わる事項について、投資家を欺くような情報開示が重大な虚偽記載と判断されます。 このような行為は、市場の公正性を根本から揺るがします。
監査法人による不適正意見・意見不表明の影響
監査法人が企業の財務諸表に対して「不適正意見」または「意見不表明」を表明することは、上場廃止に直結しうる非常に深刻な事態です。 それぞれの意味は以下のとおりです。
- 不適正意見:財務諸表全体が著しく歪められていることを意味
- 意見不表明:十分な監査証拠を得られず意見が述べられないことを意味
どちらも企業の財務情報の信頼性が確保されていないことを示すため、投資家保護の観点から極めて問題視されます。 監査法人からこれらの意見が付された有価証券報告書等が提出された場合、原則として即時に監理銘柄(審査中)に指定され、上場廃止の手続きが進められます。
4. 特設注意市場銘柄等(旧:監理銘柄(審査中)) – 内部管理体制の不備
特設注意市場銘柄(以下、特注銘柄)への指定は、企業の内部管理体制やコーポレート・ガバナンスに重大な不備があり、このままでは投資家に損害を与えるリスクが高いと証券取引所が判断した場合に行われる措置です。 これは過去の不祥事や不適切な情報開示などを受け、その再発防止策が不十分であると見なされた場合などが該当します。
特注銘柄への指定は、市場に対してその企業のリスクを周知し、企業自身に抜本的な改善を強く促すことを目的としています。 この指定は上場廃止の一歩手前の最終警告であり、企業は全社を挙げて内部管理体制の再構築に取り組む必要があります。
特設注意市場銘柄に指定されるケース
特設注意市場銘柄への指定は、主に企業の内部管理体制等に重大な問題が発覚し、改善が必要と判断された場合に行われます。 指定される主なケースは以下のとおりです。
- 過去に有価証券報告書等で虚偽記載を行ったものの、その後の改善計画が不十分な場合
- 内部統制報告書において「開示すべき重要な不備」があり、それが改善されない場合
- 反社会的勢力との関与が明らかになった場合
これらのケースはいずれも企業の信頼性や持続可能性に疑問符が付く状況であり、投資家保護の観点から市場への注意喚起が必要とされます。
改善が見られない場合の上場廃止リスク
特設注意市場銘柄に指定された企業は、原則として1年ごとに内部管理体制等の改善状況に関する報告書の提出が義務付けられます。 取引所はこの報告書を審査し、改善が認められないと判断した場合には、上場廃止の手続きを進めます。
改善が見られないということは、問題の再発リスクが高いままであり、投資家保護の観点から市場に留めておくことが不適切と判断されるためです。 指定から原則として1年6か月(状況により延長も可能)以内に改善が確認できなければ、監理銘柄(審査中)を経て上場廃止となる可能性が非常に高くなります。
5. 上場契約違反等 – 取引所との約束違反
上場契約違反等は、企業が上場時に証券取引所と締結した契約や宣誓事項に違反した場合に適用される上場廃止基準です。 これは企業が上場企業として守るべき基本的なルールを破る行為であり、取引所との信頼関係を損なうため問題視されます。
例えば、適時開示に関する規定や、法令遵守に関する事項などが契約には含まれます。 これらの約束を軽視する姿勢は、市場全体の秩序を乱す可能性もあるため、取引所との契約内容を誠実に履行することは、上場を維持するための大前提といえます。
上場契約・宣誓事項の内容
上場契約や宣誓事項には、投資家保護と市場の公正性・信頼性を確保するための重要なルールが盛り込まれています。 主な内容は以下のとおりです。
- 会社情報の適時・適切な開示
- 法令や諸規則の遵守
- コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の整備・向上
- 反社会的勢力との関係遮断
これらの項目は、企業が社会的な責任を果たし、透明性の高い経営を行うことを約束するものです。 企業が市場の一員として活動するための基盤となる重要な要素です。
違反が発覚した場合のプロセス
上場契約や宣誓事項への違反が疑われる場合、証券取引所はまず事実関係の調査を行います。 違反が確認された場合のプロセスは以下のとおりです。
- 事実関係の調査
- 違反の重大性の判断
- 改善要求や上場契約違約金の課徴
- 改善が見られない場合、監理銘柄への指定
- 最終的に上場廃止の決定
違反行為に対する処分は、その重大性や改善状況などを考慮して段階的に判断されます。 取引所は市場の秩序維持のため厳正に対処しています。
6. その他 – 企業の継続性や健全性に関わる重大事由
これまで見てきた基準以外にも、企業の存続そのものや、企業経営の健全性が著しく損なわれるような事態が発生した場合も、上場廃止の対象となります。 これらの事由は、企業がもはや事業を継続できない状態になったり、社会的な信用を失ったりするなど、上場企業としての適格性を根本から失った場合に適用されます。
投資家保護や市場の信頼性維持の観点から、そのような企業を市場に留めておくことは適切ではありません。 具体的には、経営破綻、事業活動の停止、反社会的勢力との関与などがこれに該当します。
経営破綻(破産・再生・更生手続)
企業が破産手続、民事再生手続、または会社更生手続の開始申立てを行った、あるいはこれらの手続きが開始された場合、原則として上場廃止となります。 これは企業が自力での再建や事業継続が困難な状態、すなわち経営破綻に陥ったことを意味します。
通常、これらの法的手続きが開始されると、当該企業の株式は速やかに監理銘柄・整理銘柄に指定されます。 その後、市場での売買期間を経て上場廃止に至るのが一般的です。 経営破綻は、上場企業としての活動継続が不可能になったことを示すものです。
事業活動の停止・銀行取引停止
企業の主たる事業活動が停止した場合や、手形の不渡りなどにより銀行取引停止処分を受けた場合も、上場廃止の基準に該当します。 それぞれの意味は以下のとおりです。
- 事業活動の停止:企業がその存在意義を失い、投資対象としての価値がなくなることを意味
- 銀行取引停止:企業の信用が完全に失われ、資金繰りが破綻した状態を示し、事実上の倒産状態とみなされる
経営破綻には至らなくても、実質的に事業が続けられなくなった場合は、上場企業としての適格性を失うことになります。
完全子会社化(M&A、MBOなど自主的な廃止)
合併、株式交換、株式公開買付け(TOB)などの手法により、ある上場企業が他の会社の完全子会社(100%子会社)になる場合、当該上場企業は自主的に上場廃止となります。 これは完全子会社になると一般の株主が存在しなくなり、株式を公開市場で流通させる必要がなくなるためです。
具体例としては以下のようなケースがあります。
- 親会社による子会社の完全子会社化(親子上場の解消)
- 経営陣が自社の株式を買い集めて非公開化するMBO(マネジメント・バイアウト)
このような自主的な上場廃止は経営戦略上の判断であり、必ずしもネガティブな理由ばかりではありません。
反社会的勢力との関与
企業やその役員などが、暴力団をはじめとする反社会的勢力と何らかの関与(資金提供、取引、役員としての受け入れ等)を行っていることが判明した場合、上場廃止の対象となります。 これは以下の理由によるものです。
- 反社会的勢力との関与が企業のコンプライアンス体制の欠如を示す
- 企業の社会的信用を著しく失墜させる
- 健全な資本市場の発展を阻害する
証券取引所は反社会的勢力との関係排除を非常に重視しており、関与が認められた企業は市場から厳しく排除されます。
株主の権利の不当な制限
企業が、株主総会における議決権の行使や、株主提案権、帳簿閲覧権など、株主が法律や定款で認められている基本的な権利を不当に制限したり、侵害したりする行為を行った場合、上場廃止基準に該当する可能性があります。 これは株式会社制度の根幹である株主の権利を保護し、公正な市場運営を確保するためです。
企業による株主権利の不当な侵害は、コーポレート・ガバナンス上の重大な問題とみなされます。 株式会社の所有者である株主の権利が企業によって不当に扱われた場合は、その企業の市場における信頼性が問われます。
不適当な合併等
合併、会社分割、株式交換といった組織再編行為が、実質的に上場基準を満たさない非上場企業を存続させるための手段(いわゆる「裏口上場」)として利用されるなど、取引所が不適当と認める方法で行われた場合、上場廃止となることがあります。 これは本来の上場審査プロセスを回避し、市場の質を低下させるような行為を防ぐためです。
取引所は、形式だけでなく実質的な内容を審査し、制度の趣旨に反する組織再編に対しては上場廃止を含む厳しい措置をとります。 企業の組織再編が制度の趣旨に反する形で行われた場合も問題視されるのです。
上場廃止決定から実行までのプロセス

上場廃止が決定されてから実際に市場での取引が停止されるまでには、いくつかの段階があります。投資家や企業関係者にとって、このプロセスを理解しておくことは非常に重要です。
ここでは、以下の流れを順に解説します。
- 監理銘柄への指定
- 整理銘柄への指定
- 上場廃止後の株式の扱い
- 自主的な上場廃止の流れ
監理銘柄への指定 – 上場廃止の「注意喚起」期間
監理銘柄への指定は、上場企業が上場廃止基準に該当する可能性がある場合に、証券取引所が投資家に対して注意を促すために行う措置です。これは、例えば、有価証券報告書の提出遅延や、上場維持基準への抵触懸念、あるいは不祥事の発覚など、上場廃止につながる可能性のある事実が発生した際に指定されます。
指定されることで、市場参加者はその銘柄にリスクがあることを認識できます。企業側には、多くの場合、問題解決のための改善期間が与えられますが、その間に状況が改善されなければ、次の段階へ進むことになります。
監理銘柄への指定は、いわば上場廃止に向けた「黄信号」であり、投資家にとっては警戒が必要なサインです。
整理銘柄への指定 – 上場廃止前の最終売買期間
整理銘柄への指定は、上場廃止が確定した銘柄について、投資家が保有株式を売却する機会を設けるために行われます。上場廃止が決定すると、証券取引所での売買が完全に停止される前に、通常1か月程度の期間、整理銘柄として取引が継続されることになります。
この期間は、株主が市場で株式を売却するための最後のチャンスとなりますが、株価は大きく下落する傾向にあります。投資家は、この期間内に売却するか、非公開株式として保有し続けるかの判断を迫られるでしょう。
整理銘柄の期間は、上場廃止という最終的な措置の前に設けられた、投資家のための整理売買期間といえます。
上場廃止後の株式の取り扱い – 非公開株式化とその影響
上場廃止後の株式は、証券取引所での売買ができなくなり、一般的に「非公開株式」となります。これは、株式の流動性が著しく低下することを意味し、株主にとっては保有株式を売却したくても買い手を見つけることが非常に困難になります。
価格も市場で形成されなくなるため、その価値を客観的に評価することも難しくなるでしょう。また、企業側も市場からの資金調達ができなくなるなど、経営上の制約が生じます。
上場廃止による非公開化は、株主にとっては換金の機会を失い、企業にとっては資金調達や信用力に大きな影響を与える可能性があります。
自主的な上場廃止(完全子会社化など)の手続きの流れ
自主的な上場廃止は、経営戦略上の判断から、企業が自ら上場を廃止することを選択する場合に行われます。代表的な例としては、親会社による完全子会社化(M&Aの一環)や、経営陣が自社の株式を買い集めるMBO(マネジメント・バイアウト)などが挙げられます。
これらのケースでは、株式の公開性を維持する必要性がなくなる、あるいは経営の自由度を高めたいといった理由から、上場廃止が選択されるのです。手続きとしては、株主総会での承認や株式公開買付け(TOB)などを経て、取引所に上場廃止を申請し、承認されれば整理銘柄指定等のプロセスを経て上場廃止となります。
企業の意思による上場廃止も、市場のダイナミズムの一環です。
上場廃止の4つのデメリット

上場廃止は、企業にとって必ずしも良いことばかりではありません。むしろ、様々なデメリットを伴う可能性があります。
ここでは、上場廃止が企業や株主にもたらす主な4つのマイナス面について、具体的に解説してまいります。これらのデメリットを理解することは、上場廃止という事態を正しく評価するために不可欠です。
- 資金調達手段の制約
- 株式の流動性・換金性の著しい低下
- 社会的信用・ブランドイメージの低下リスク
- 既存株主の不利益
それぞれ解説していきます。
1. 資金調達手段の制約
上場廃止の大きなデメリットとして、資金調達の選択肢が大きく制限される点が挙げられます。上場企業であれば、株式市場を通じて新株発行(公募増資など)による大規模な資金調達が可能ですが、上場廃止によってこの手段が利用できなくなります。
これにより、新規事業への投資や設備投資、研究開発費といった成長に必要な資金、あるいは運転資金の確保が難しくなる可能性があります。金融機関からの借入などに頼らざるを得なくなりますが、後述する信用力の低下により、融資条件が厳しくなることも考えられるでしょう。
株式市場を通じた機動的かつ大規模な資金調達の道が閉ざされることは、企業の成長戦略にとって大きな制約となりえます。
2. 株式の流動性・換金性の著しい低下
上場廃止になると、その企業の株式は証券取引所での売買ができなくなり、株式の流動性と換金性が著しく低下します。これは、株主が保有株式を売却したいと思っても、買い手を見つけることが非常に困難になることを意味します。
仮に買い手が見つかったとしても、市場価格が存在しないため、公正な価格での取引が難しくなる可能性が高いです。結果として、株主は実質的に株式を「塩漬け」にせざるを得ない状況に陥るリスクがあります。
これは株主にとって非常に重要な、株式の売買しやすさが失われることを示します。
3. 社会的信用・ブランドイメージの低下リスク
上場廃止は、企業の社会的な信用やブランドイメージを低下させるリスクを伴います。特に、経営不振や不祥事、法令違反などが原因で上場廃止に至った場合、「上場基準を満たせない問題のある企業」というネガティブなレッテルを貼られやすくなります。
これにより、取引先からの与信条件が悪化したり、金融機関からの融資が受けにくくなったりする可能性があります。また、消費者や就職希望者からのイメージも悪化し、売上減少や人材獲得難につながる恐れも否定できません。
上場企業というステータスを失うことで、様々なステークホルダーからの信頼が揺らぎ、事業活動全体に悪影響が及ぶ可能性があります。
4. 既存株主の不利益
上場廃止は、既存株主にとって金銭的な不利益をもたらす可能性が高いと言えます。多くの場合、上場廃止が決定または観測されると、当該企業の株価は大きく下落します。
整理銘柄期間中に売却できたとしても、購入時よりもはるかに低い価格となり、大きな損失を被ることが少なくありません。また、株式公開買付け(TOB)などを伴う自主的な上場廃止の場合でも、提示される買取価格が株主の期待を下回るケースもあります。
株式価値の大幅な下落や、保有株式を希望通りに現金化できなくなるリスクは、株主にとって最も深刻なデメリットの一つです。企業側は、上場廃止に至るプロセスにおいて、株主への十分な説明と配慮が求められます。
上場廃止の4つのメリット

上場廃止はデメリットばかりが注目されがちですが、企業にとっては戦略的な選択肢となりうるメリットも存在します。特に、経営のあり方を見直したい企業にとっては、非公開化が有効な手段となる場合があります。
ここでは、上場廃止がもたらす主な4つのメリットについて、具体的に解説していきます。
- 上場維持コストの削減
- 経営の自由度・意思決定スピードの向上
- 敵対的買収リスクの低減
- 短期的な業績プレッシャーからの解放
それぞれ解説していきます。
1. 上場維持コストの削減
上場廃止の大きなメリットとして、上場を維持するために必要だった様々なコストを削減できる点が挙げられます。上場企業は、証券取引所への年間上場料、監査法人への監査報酬、株主総会の運営費用、開示書類作成に伴う専門家への報酬や印刷費用など、多岐にわたるコストを負担しなければなりません。
これらの費用は、企業の規模によっては年間数千万円から数億円にのぼることもあります。上場廃止によってこれらのコストが不要となり、削減できた費用を事業投資や財務改善などに振り向けることが可能になります。
コスト削減は、企業の財務体質強化に直接的に貢献します。
2. 経営の自由度・意思決定スピードの向上
上場廃止は、経営の自由度を高め、意思決定のスピードを向上させる効果が期待できます。上場企業は、株主全体の利益を考慮する必要があり、重要な経営判断を行う際には株主の意向を無視できません。
時には、株主からの短期的な利益要求や反対意見によって、長期的な視点に立った大胆な経営改革や戦略的な投資が阻害されることもあります。上場を廃止し株式を非公開化することで、株主からの直接的なプレッシャーが減り、経営陣はより迅速かつ柔軟に、中長期的な視点に基づいた意思決定を行うことが可能となるのです。
非公開化は、経営陣による機動的な経営判断を後押しします。
3. 敵対的買収リスクの低減
上場廃止は、敵対的な買収のリスクを大幅に低減させるメリットがあります。上場企業の株式は市場で自由に売買されるため、常に第三者によって経営権の取得を目的とした株式の買い占め、すなわち敵対的買収の脅威にさらされています。
株式を非公開化すれば、市場での自由な売買が不可能になるため、経営陣の意に沿わない相手による株式の取得が極めて困難になります。これにより、企業は外部からの予期せぬ経営介入リスクを排除し、安定した経営基盤のもとで事業に集中することができます。
経営権の安定は、長期的な戦略遂行に不可欠です。
4. 短期的な業績プレッシャーからの解放
上場廃止によって、経営陣は短期的な業績や株価変動に対する過度なプレッシャーから解放されます。上場企業は、四半期ごとの決算発表が義務付けられており、投資家からは常に短期的な利益成長を期待されます。
そのため、本来は長期的な視点で取り組むべき研究開発投資や構造改革などが、短期的な業績への影響を懸念して見送られたり、先送りされたりするケースも少なくありません。株式を非公開化することで、株価や市場の評価を常に意識する必要がなくなり、経営陣は腰を据えて長期的な企業価値向上に資する経営戦略を実行しやすくなります。
これにより、企業は本質的な価値創造に集中できるでしょう。
近年の上場廃止の動向と背景

近年、上場廃止が増加している背景には、企業の経営戦略や市場環境の変化が大きく関係しています。特にM&Aや経営改革を目的とした自主的な非公開化の動きや、新興市場の基準見直しが注目されています。
これらの動向を理解することで、上場廃止基準とは何かをより深く把握できます。
M&Aや経営戦略に伴う自主的な上場廃止の増加
M&Aや経営戦略の一環として、株式の非公開化を進める企業が増加中です。特に親子上場の解消は、経営の効率化や資本関係の明確化を目的としており、例えば親会社が子会社の株式を全て取得し、完全子会社化することで上場廃止となります。
このような自主的な上場廃止は、企業の成長戦略やガバナンス強化の観点から行われることが多く、必ずしもネガティブな要因だけではありません。親子上場の解消は、経営の透明性向上や意思決定の迅速化につながる重要なトレンドです。
企業の戦略的な判断による上場廃止が目立っています。
親子上場の解消トレンド
近年、親会社と子会社が同じ市場に上場する「親子上場」を解消する動きが活発化しています。親会社が子会社の株式を買い増し、完全子会社化することで、子会社の上場を廃止するケースが増えています。
これにより、経営資源の集中やグループ全体のガバナンス強化が期待され、企業グループの効率的な運営を促進する効果があります。親子上場の解消は、コーポレートガバナンス改革の流れとも連動した動きと言えるでしょう。
グループ経営の最適化を目指す動きが背景にあります。
非公開化による経営改革の推進
非公開化は、経営改革を加速させる手段として注目されています。上場企業は株主の意向や市場の短期的な評価に左右されやすいですが、非公開化することで経営の自由度が高まります。
これにより、長期的な視点での事業再編や投資が可能となり、大胆な経営改革が推進されるケースが見られます。非公開化は、企業が外部環境の変化に迅速に対応し、持続的な成長を目指すうえで重要な選択肢の一つとなっているのです。
経営の自由度確保が、改革断行を後押しします。
新興市場(グロース市場など)における上場廃止基準の見直し動向
特にグロース市場など新興市場では、上場維持基準の厳格化が進んでいます。時価総額や業績に関する基準が強化され、基準未達成企業の上場廃止リスクが高まっているのが現状です。
これにより、市場の質を向上させ、投資家保護を強化する狙いがあります。新興市場の基準見直しは、上場企業に対して継続的な成長と企業価値向上への努力を促し、成長企業の健全な発展を促すための重要な施策です。
市場の質の維持と投資家保護が目的とされています。
継続的な赤字や営業キャッシュフローに関する基準(旧JASDAQなど)
旧JASDAQ市場の流れを汲む市場を中心に、継続的な赤字や営業キャッシュフローのマイナスが上場廃止基準に含まれています。これらの基準は、企業の財務健全性を確保し、投資家が過度なリスクを負うことを避けるために設けられています。
赤字が続く企業や、本業でのキャッシュ創出力が低い企業は改善計画の提出が求められ、基準未達成が続く場合は上場廃止となる可能性があります。財務状況の悪化は新興市場における重大な上場廃止リスク要因であり、企業の持続可能性が問われます。
財務の健全性は、新興市場においても厳しく評価されます。
株価水準に関する基準(旧マザーズなど)
旧マザーズ市場の流れを汲む市場では、一定期間にわたる低株価水準が上場廃止の対象となる基準が存在します。株価が基準を下回り続ける状態は、投資家の信頼を損ね、市場の活力が低下する要因となり得ます。
東証はこれを防ぐため、株価に関する基準を設け、基準未達成企業に対しては改善措置や、改善が見られない場合には上場廃止を検討します。株価水準の維持は、その企業が市場から一定の評価を得ている証左であり、新興市場の健全な運営に不可欠な要素です。
市場からの評価も、上場維持の重要な指標となります。
上場廃止からの再上場事例とその意義
上場廃止後も、経営改善や財務再建を果たし、条件を満たせば再上場は可能です。過去には大王製紙やソフトバンク(現在のソフトバンクグループとは別)、スカイマークなどが上場廃止後に再上場を果たしています。
再上場は、経営改善や財務再建の成果を市場に示す機会となり、企業価値の回復に繋がる可能性があります。ただし、再上場の審査は新規上場よりも厳しく、経営の透明性や持続可能性が厳格に評価されることを理解しておく必要があります。
再上場は企業の再生と成長の象徴であり、投資家にとっても重要な判断材料となります。
経営者・担当者が留意すべき点

上場企業であり続けるためには、経営者や担当者が日頃から留意し、取り組むべき重要な点がいくつかあります。ここでは、以下の3つのポイントに絞って解説します。
- 上場維持基準の継続的なモニタリングと対策
- 内部管理体制の強化とコンプライアンス遵守
- 適時・適切な情報開示体制の構築と維持
それぞれ解説します。
上場維持基準の継続的なモニタリングと対策
上場企業は、自社が属する市場区分の上場維持基準を継続的にモニタリングし、基準に抵触するリスクがないか常に把握しておくことが極めて重要です。なぜなら、上場維持基準への不適合は猶予期間後の上場廃止に直結するからです。
基準は株主数、流通株式比率、時価総額、売買高、純資産など多岐にわたります。定期的に自社の状況をチェックし、基準を下回る兆候が見られた場合には、早期に原因を分析し、改善計画を策定・実行する必要があります。
上場維持基準の充足状況を常に把握し、予防的な対策を講じる体制を整えることが、安定した上場維持の鍵となります。
財務健全性の確保
財務健全性の確保は、上場維持基準を満たす上で不可欠な取り組みであり、企業の土台となる財務の安定性は最も基本的な要素の一つです。特に、純資産の額が正であることは、プライム・スタンダード・グロース全ての市場区分で求められる共通の基準であり、債務超過の状態は上場廃止に直結する重大なリスクとなります。
したがって、企業は安定的な収益を生み出す事業基盤を構築するとともに、適切なコスト管理や財務戦略を通じて、純資産を着実に積み上げていく必要があります。継続的な収益力の強化と適切な財務管理により、純資産を安定的に維持・向上させることが求められます。
安定した財務基盤が、企業の信頼性を支えます。
流通株式比率・時価総額維持のための資本政策・IR戦略
流通株式比率や流通株式時価総額などの基準を維持・向上させるためには、戦略的な資本政策と積極的なIR(インベスター・リレーションズ)活動が不可欠です。資本政策としては、業績向上による企業価値そのものの向上はもちろん、必要に応じて自己株式の市場への放出や、大株主や政策保有株主に対する保有株売却の働きかけなどが考えられます。
また、IR戦略としては、自社の魅力や成長戦略を投資家に積極的に伝え、理解と評価を得ることで、株価の安定・向上、ひいては時価総額の維持を目指すことが重要です。財務戦略と連動した資本政策と、投資家との対話を重視するIR戦略の両輪で、市場基準の達成を図ることが求められます。
市場からの評価を高める努力が、上場維持に繋がります。
内部管理体制の強化とコンプライアンス遵守
健全な内部管理体制の構築・運用と、コンプライアンス(法令遵守)の徹底は、上場維持の基盤となる非常に重要な要素です。内部管理体制に不備があると、特設注意市場銘柄に指定されたり、最悪の場合、上場契約違反として上場廃止につながるリスクがあります。
役職員一人ひとりのコンプライアンス意識の向上を図るための教育・研修の実施、内部監査部門によるチェック機能の強化、リスク管理体制の整備などが不可欠です。
特に、反社会的勢力との関係遮断は、取引所が厳しく要求する項目であり、実効性のある内部管理体制と高いコンプライアンス意識を持つ企業文化を醸成することが、投資家や社会からの信頼を得て上場を維持するために欠かせません。
強固な内部統制が、企業の信頼を守る砦となります。
適時・適切な情報開示体制の構築と維持
投資家が適切な投資判断を行えるよう、企業情報を適時かつ適切に開示する体制を構築し、維持することは、上場企業としての基本的な責務です。有価証券報告書等の法定開示書類の提出遅延や、内容に虚偽記載がある場合は、市場の信頼を著しく損ない、上場廃止基準に該当する可能性があります。
開示情報の正確性・網羅性を担保するための社内チェック体制の整備、決算・監査スケジュールの厳格な管理、開示担当部門の専門性向上などが求められます。透明性の高い情報開示を継続的に行うことが、市場からの信頼を得て、長期的に上場を維持するための基礎となるのです。
情報開示の質が、企業の透明性を示します。
投資家が上場廃止リスクを評価する際のポイント

投資家にとって、投資先の企業が上場廃止になるリスクを事前に評価することは、ご自身の資産を守る上で非常に重要となります。万が一、保有する株式が上場廃止となれば、大きな損失を被る可能性があるためです。
ここでは、そのリスクを見極めるための具体的なチェックポイントや、関連情報の活用方法について解説してまいります。これらのポイントを押さえることで、より安全な投資判断に繋げることが期待できます。
上場廃止基準に抵触する可能性のある企業の見分け方
上場廃止リスクを見抜くためには、企業の財務状況、ガバナンス体制、そして情報開示の姿勢を多角的にチェックすることが肝心です。なぜなら、これらの要素は上場廃止基準に直接または間接的に関わる項目であり、企業の健全性や持続可能性を示す重要な指標となるためです。
例えば、財務状況の悪化(特に債務超過の状態)や、コーポレート・ガバナンス報告書における問題点の指摘、さらには適時開示情報の提出遅延や訂正が頻繁に発生している場合などは、注意が必要なサインと考えられます。これらの情報を総合的に分析することで、リスクの高い企業を早期に発見できる可能性が高まります。
多角的な視点での企業分析が、リスク回避の第一歩です。
財務状況のチェック
企業の財務諸表を定期的にご確認いただき、特に純資産の状況や収益性の変化に注意を払うことが、上場廃止リスクを判断する上で推奨されます。その理由は、純資産がマイナスとなる債務超過は、市場区分を問わず直接的な上場廃止基準に該当するためです。
また、継続的な赤字は純資産を着実に減少させ、間接的に上場廃止リスクを高める要因となります。具体的には、有価証券報告書や決算短信といった開示資料で、純資産の額が減少傾向にないか、安定したキャッシュフローを生み出せているかなどを確認することが重要です。
財務諸表は、企業の健康状態を示す診断書と言えます。
コーポレート・ガバナンス報告書の確認
コーポレート・ガバナンス報告書を確認することで、企業の内部管理体制やコンプライアンス(法令遵守)への意識、株主との向き合い方などを把握することが可能です。内部管理体制に重大な不備があると判断された場合、特設注意市場銘柄に指定され、改善が見られない場合は上場廃止となる可能性があるため、この報告書のチェックは重要です。
報告書からは、取締役会の構成や実効性、監査役の独立性、内部統制システムの整備状況などを読み取ることができます。企業の経営がどのように監督され、管理されているかという点は、上場廃止リスクと密接に関わっているため、投資判断の参考にすべきです。
ガバナンス体制の確認は、企業のリスク耐性を見極める上で有効です。
適時開示情報の確認
投資家の皆様は、適時開示情報をこまめにチェックし、その内容、開示のタイミングや頻度、そして正確性に注意することが重要です。情報の提出が遅れたり、内容に虚偽があったりすることは、上場廃止基準に該当する重大な問題です。
また、頻繁な業績予想の下方修正や不祥事に関する開示が続く場合は、経営の不安定さを示すサインである可能性も考えられます。日本取引所グループ(JPX)のウェブサイトや各企業のIRページなどで、決算情報や経営に関する重要な決定事項、その他発生事実などを確認できます。
適時開示情報は、企業の最新の状況や潜在的なリスクを把握するための、最も重要な情報源の一つと言えるでしょう。
「上場廃止危険度ランキング」等の情報の活用と注意点
上場廃止リスクに関するランキング情報は、リスクのある企業群を大まかに把握する上で参考になる場合がありますが、これらの情報を鵜呑みにせず、必ずご自身で一次情報(企業の開示資料など)にあたって裏付けを取ることが極めて重要です。なぜなら、ランキングは特定の財務指標などに基づいて機械的に算出されていることが多く、個別の企業の特殊な事情や、将来的な改善の可能性などが十分に考慮されていない場合があるからです。
ランキング上位企業の財務状況や適時開示情報を改めて確認し、なぜリスクが高いと評価されているのかをご自身で分析することが大切です。ランキング情報はあくまで投資判断の補助的な材料と位置づけ、最終的な判断はご自身で収集・分析した情報に基づいて行うべきでしょう。
情報は多角的に検証し、慎重な判断を心がけるべきです。
上場廃止リスクを踏まえた投資判断の重要性
投資家の皆様は、個別企業の株式に投資する際には、常に上場廃止となる可能性を念頭に置き、それを投資判断における重要な要素として考慮する必要があります。その理由は、万が一上場廃止となれば、保有株式の価値が大幅に下落したり、売却自体が困難になったりするなど、投資家にとって非常に深刻な結果をもたらす可能性が高いからです。
企業の成長性や収益性といった魅力的な側面だけでなく、財務の健全性、ガバナンス体制の有効性、情報開示の信頼性など、上場廃止リスクに直接関わる項目を総合的に評価することが求められます。リスクが高いと判断される銘柄については、投資を見送るか、あるいは投資額を抑えるといった慎重な対応が必要です。
リスク管理の徹底が、賢明な投資活動の基本となります。
上場廃止基準についてのよくある質問(Q&A)

ここでは、上場廃止基準に関して、皆様からよく寄せられるご質問とその回答をまとめました。より具体的な疑問点を解消するための一助となれば幸いです。
Q1: 上場廃止基準に抵触したら、すぐに上場廃止になるのですか?
A: いいえ、必ずしもすぐに上場廃止となるわけではありません。多くの場合、企業が上場維持基準などに抵触する可能性があると、まず「監理銘柄」に指定され、投資家への注意喚起が行われます。
その後、基準適合のための改善期間(猶予期間)が設けられることが一般的です。企業はこの期間内に改善計画を策定し、実行することが求められます。
ただし、改善期間内に基準を満たせない場合や、破産手続開始の申立てなど特定の重大な事由に該当した場合は、「整理銘柄」への指定を経て上場廃止となります。猶予期間の有無や長さは、抵触した基準の内容によって異なりますので注意が必要です。
Q2: 自主的に上場廃止するメリットは何ですか?
A: 企業が自らの経営戦略に基づいて上場廃止(非公開化)を選択する場合、いくつかのメリットが考えられます。主なメリットは以下の通りです。
- コスト削減: 上場維持コスト(年間上場料、監査報酬、株主総会運営費、開示書類作成費用など)を削減できます。
- 経営の自由度向上: 株主からの短期的な業績へのプレッシャーや株価変動への過度な意識から解放され、経営の自由度が増します。
- 意思決定の迅速化: 経営判断における意思決定のスピード向上が期待できます。
- 敵対的買収リスク低減: 市場での株式売買がなくなるため、敵対的買収のリスクを低減できます。
これらのメリットにより、経営陣は中長期的な視点に立った大胆な経営改革や戦略的な投資を実行しやすくなります。
Q3: 上場廃止になったら、持っている株はどうなりますか?
A: 保有している株式が上場廃止になると、投資家にとってはいくつかの大きな変化が生じます。まず、上場廃止が正式に決定されると、通常は約1か月間「整理銘柄」として指定され、その期間内は証券取引所で売買が可能です。
しかし、この期間が市場で売却できる最後の機会となることが多く、株価は大きく下落する傾向にあります。整理期間が終了すると、その株式は取引所での売買ができなくなり、「非公開株式」となります。
非公開株式は流動性が著しく低いため、売却したくても買い手を見つけることが非常に困難になり、実質的に換金できない状態(塩漬け)になる可能性が高いです。価値が完全にゼロになるわけではありませんが、その価値を評価することも難しくなります。
Q4: 投資先が上場廃止になりそうな危険なサインはありますか?
A: 投資先の企業が上場廃止になるリスクを事前に察知するための、いくつかの注意すべきサインがあります。具体的には、以下の点が挙げられます。
- 財務状況の悪化: 継続的な赤字経営や純資産の大幅な減少、特に債務超過の状態に陥っている。
- 監査意見の問題: 監査法人から財務諸表に対して「継続企業の前提に関する注記(ゴーイングコンサーン注記)」が付されたり、「意見不表明」や「不適正意見」が表明されたりする。
- 開示書類の問題: 有価証券報告書などの重要な開示書類の提出が遅延する、または頻繁に訂正報告書が提出される。
- 取引所からの指定: 証券取引所から「監理銘柄」や「特設注意市場銘柄」に指定される。
- 株価の低迷: 株価が長期間にわたって著しく低迷している。
これらのサインは、企業の開示情報や取引所の発表を通じて確認できますので、日頃から注意深くチェックすることが重要です。
まとめ – 上場廃止基準の理解が企業と投資家を守る
本記事では、上場廃止基準の全体像、その具体的な内容、プロセス、影響について解説しました。この基準は、株式市場の健全性を保ち、企業と投資家の双方を守るために設けられた重要なルールです。
企業経営者や担当者は、上場維持基準の継続的なモニタリング、財務健全性の確保、適切な情報開示、内部管理体制の強化などを通じて、市場の信頼を維持し、持続的な成長を目指す必要があります。
投資家の皆様にとっては、上場廃止基準を理解し、企業の財務状況や開示情報、ガバナンス体制などを注意深く確認することが、リスクを回避し、賢明な投資判断を行うための鍵となります。上場廃止リスクを適切に評価し、管理することが、ご自身の資産を守ることに繋がります。
上場廃止基準への深い理解は、健全な市場を支え、企業と投資家双方の安定した未来を守るための重要な知識です。本記事が、皆様のより良い企業経営や投資活動の一助となれば幸いです。