上場廃止とは?メリット・デメリットや基準をわかりやすく解説
- なぜ企業は上場廃止を選ぶのか?その理由(経営戦略、やむを得ない事情)がわかります。
- 上場廃止がもたらすメリット(経営の自由度向上、コスト削減など)を理解できます。
- 上場廃止に伴うデメリット(資金調達の制約、信用の低下、株式流動性の喪失など)を知ることができます。
- 保有している株式が上場廃止になった場合、どのように扱われるか(TOB、スクイーズアウト、保有継続など)がわかります。
- 一度上場廃止した企業が、再び上場(再上場)できるのか、その可能性と条件について理解できます。
上場廃止は、企業や株主にとって大きな影響を及ぼす重要なテーマです。 「保有株はどうなるの?」「会社にどんな影響があるの?」といったメリット・デメリットに関する疑問や不安をお持ちではないでしょうか。
この記事では、上場廃止の定義や理由から、具体的な手続きの流れ、株主・従業員への影響、さらには再上場の可能性まで、網羅的に解説します。 上場廃止に関する正しい知識を身につけ、もしもの時に適切な判断ができるよう、ぜひご一読ください。
上場廃止とは?基本的な意味と廃止に至るパターン

上場廃止とは、企業が発行する株式が証券取引所での売買対象から外れることを指します。 上場状態では、投資家が証券取引所を通じて株式を自由に売買できます。 しかし、上場廃止になると、その市場での取引は不可能になり、株式が流動性を失います。
例えば東証に上場していた企業が上場廃止になると、投資家は東証システムを通じて売買できなくなります。 これにより、流動性の低下、資金調達方法の変化、企業信用度への影響などが生じる可能性があります。
上場廃止の種類:大きく分けて2つのパターン
上場廃止は大きく以下の2つのパターンに分類されます。
1. 企業が自主的に申請する場合
経営戦略上の判断に基づき、企業が自らの意思で上場廃止を選択するケース
2. 証券取引所が定める上場廃止基準に抵触する場合
業績不振や法令違反などにより、証券取引所の基準を満たせなくなったケース
それぞれのパターンで背景や意味合いは大きく異なります。 自主的申請はM&AやMBOなどの戦略的判断、基準抵触は財務基準未達や不祥事などが原因となります。
企業が自主的に申請するケース
企業が自主的に上場廃止を申請するケースは、経営戦略上の判断に基づいて行われることが多いです。 上場維持には株主対応、情報開示、株価配慮など様々なコストや制約が伴います。 非公開化により、これらの負担から解放され、より自由で機動的な経営判断が可能になります。
主な動機として、M&Aによる完全子会社化、経営陣によるMBO(マネジメント・バイアウト)があります。 また、短期的市場評価に左右されず、中長期的視点での経営改革を断行したいという理由もあります。
証券取引所の上場廃止基準に抵触するケース
証券取引所が定める上場廃止基準に抵触した場合、企業は意図せずとも上場廃止に至ることがあります。 証券取引所は投資家保護や市場信頼性維持の観点から、上場企業に一定基準を設けています。
主な上場廃止基準には以下があります。
基準分類 | 具体的内容 |
市場性基準 | 株主数、流通株式比率、時価総額 |
財務基準 | 債務超過、破産手続き開始 |
コンプライアンス | 有価証券報告書の提出遅延・虚偽記載、重大な法令違反、反社会的勢力との関与 |
このような基準への抵触は、企業の経営状況やガバナンス体制に深刻な問題があることを示す場合が多いです。
なぜ企業は上場廃止を選ぶのか?主な理由をパターン別に解説

企業が上場廃止という選択をする背景には、様々な理由が存在します。 大きく分けると、以下の2つのパターンがあります
- 経営戦略としての積極的な選択
- やむを得ない事情・ネガティブな理由
それぞれ解説していきます。
1. 経営戦略としての積極的な選択
経営の自由度を高め、中長期的な成長を目指すために上場廃止を選択するケースです。 上場企業は株主への説明責任、短期的業績向上へのプレッシャー、情報開示義務、株主総会運営など様々な制約やコストを負っています。 非公開化により、これらの負担から解放され、経営資源を本業に集中させることが可能になります。
競合他社に知られたくない機密性の高い経営戦略の実行、株価変動を気にせず大胆な事業再編や投資の実施などが利点となります。
(1) M&Aによる完全子会社化
M&Aの一環として、企業が他の上場企業の株式をすべて取得し、完全子会社化する場合、子会社となった企業は上場廃止となるのが一般的です。 親会社が子会社の経営権を完全に掌握し、グループ全体の経営戦略を迅速かつ効率的に実行することを目的としています。
親会社からのメリットとして、意思決定のスピード向上、グループ内での資源配分の最適化、経営の機密保持があります。 子会社化された企業の株主には、通常、株式公開買付(TOB)などを通じて市場価格にプレミアムが加算された価格で買い取りの機会が提供されます。
(2) 経営陣による自社買収(MBO:Management Buyout)
MBOは、経営陣が投資ファンドなどと協力し、既存の株主から自社の株式を買い取ることで、上場廃止を行う手法です。 この目的は、外部の株主の影響力を排除し、経営陣が安定した経営権を確保することにあります。
上場していると、特に短期的利益を重視する株主からの要求や経営への干渉を受ける可能性があります。 MBOにより非公開化すれば、経営陣は外部の意見に左右されず、自ら信じる経営方針を迅速に実行できます。
また、敵対的買収のリスク回避も目的の一つとなることがあります。
(3) 中長期的な視点での経営改革断行のため
上場企業は四半期ごとの決算発表などで短期的な成果を示すことが求められ、株価を意識するあまり、長期的視点での投資や抜本的改革に踏み出しにくい側面があります。 上場廃止により非公開化すれば、株主からの短期的プレッシャーから解放されます。
経営陣は目先の利益にとらわれず、数年単位の経営戦略や大胆な事業構造転換を断行しやすくなります。 これにより、企業は長期的成長に向けた投資や改革を自由に推進できるようになります。
(4) アクティビスト(物言う株主)対応の回避・軽減
アクティビストと呼ばれる、企業の経営方針に対して積極的に提言や要求を行う株主への対応は、時に企業にとって多くの時間やコストを要する場合があります。 株主提案への対応、経営戦略への影響、経営陣との対立などが、経営の安定性を損なう要因となることも考えられます。
上場廃止により非公開企業となれば、このようなアクティビストからの直接的要求や経営への介入リスクを大幅に低減できます。 経営陣が外部からの干渉を受けずに経営に集中したいと考える場合、アクティビスト対応の負担軽減を目的として上場廃止を選択することがあります。
2. やむを得ない事情・ネガティブな理由
上場廃止には、企業が積極的に選択するケースだけでなく、証券取引所が定める基準を満たせなくなったり、法令違反や不祥事を起こしたりするなど、ネガティブな理由によるものもあります。 これらのケースでは、企業の経営状況や信頼性に深刻な問題が生じていることが多く、株主や取引先、従業員など、多くの関係者に不利益をもたらす可能性があります。
経営破綻が直接的な原因となるケースは近年減少傾向にあるものの、依然として注意が必要です。
(1) 上場維持基準への抵触
証券取引所は、市場の信頼性や投資家保護の観点から、上場企業に対して様々な「上場維持基準」を設けています。 これには、株主数、流通している株式の数や時価総額、売買高、純資産額などが含まれます。
企業がこれらの基準を継続して満たせなくなった場合、例えば株主数が基準値を下回った状態が一定期間続くと、改善が見込めないと判断され、上場廃止となります。 これは、市場で取引されるに足る流動性や企業規模、財務の健全性が失われたとみなされるためです。
(2) 法令違反や重大な不祥事の発覚
企業が法令に違反したり、社会的な信用を著しく損なうような重大な不祥事を起こしたりした場合、証券取引所の判断によって上場廃止となることがあります。 主な事例として、粉飾決算やインサイダー取引といった証券取引に関する不正行為、大規模な品質偽装、環境汚染、反社会的勢力との関与などがあります。
これらの行為は、市場の公正性や透明性を害し、投資家保護の観点からも極めて問題視されます。 結果として、企業信用の失墜とともに上場廃止という厳しい処分が科せられることになります。
(3) 有価証券報告書等の提出遅延や虚偽記載
上場企業は、投資家が投資判断を行うための重要な情報源である有価証券報告書や四半期報告書などを、定められた期限までに提出する義務があります。 これらの報告書の提出が大幅に遅れたり、内容に意図的な虚偽記載があったりした場合、上場廃止の対象となります。
また、報告書に添付される監査法人による監査報告書で、「意見不表明」や「不適正意見」といった極めてネガティブな評価がなされた場合も、同様に上場廃止基準に抵触する可能性があります。 適切な情報開示は投資家保護の観点から極めて重要であり、これが履行されない場合は市場からの退場を余儀なくされます。
上場廃止の4つのメリット

上場廃止は一見ネガティブに捉えられがちですが、企業にとって様々なメリットをもたらす可能性があります。 経営の自由度向上からコスト削減、リスク低減まで、その恩恵は多岐にわたります。
上場廃止による主なメリットは以下の4つです。
- 経営の自由度・機動性の向上
- 上場維持にかかるコストの削減
- 敵対的買収リスクの低減
- 情報開示義務の軽減による経営戦略上の機密保持
それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
1. 経営の自由度・機動性の向上
上場廃止によって、企業は経営の自由度と機動性を大幅に高めることができます。 上場企業は株主の利益を考慮し、特に短期的業績や株価への影響を気にするあまり、大胆な経営判断が難しくなることがあります。 非公開化により、外部株主の意向に左右されず、経営陣が迅速かつ柔軟に意思決定を行えるようになります。
これにより、市場環境の変化への素早い対応や、長期的視点に立った戦略の実行が容易になります。
(1) 株主の意向に左右されない迅速な意思決定
上場企業は重要な経営判断の際、株主総会での承認が必要となるなど、多くのステークホルダーへの配慮や手続きが求められます。 上場廃止により株主が限定されれば、経営陣は市場の動向や競合の動きに対して、よりスピーディーに対応策を打ち出すことが可能になります。
迅速な意思決定は、競争が激しい現代のビジネス環境において極めて重要な要素となります。
(2) 短期的な業績・株価にとらわれない中長期的戦略の実行
上場企業は四半期ごとの決算発表などを通じて、常に市場から短期的な成果を求められるプレッシャーに晒されています。 そのため、一時的にコストがかさむ研究開発投資や新規事業への挑戦、大規模な設備投資といった、将来の成長に向けた取り組みが抑制されることがあります。
非公開化により、短期的な市場評価から解放されれば、経営陣は数年先を見据えた戦略を着実に実行できるようになります。
(3) 株主総会運営やIR活動の負担軽減
上場企業であることは、株主総会の運営やIR活動といった、株主対応に関する様々な業務負担を伴います。 株主総会の準備や運営、招集通知や事業報告書の作成・送付、決算説明会の開催、投資家からの問い合わせ対応など、これらの業務には多くの人員と時間、コストが必要です。
上場廃止により株主が少数に限定されれば、これらの負担は大幅に軽減され、経営陣や従業員は本来注力すべき事業活動に集中できます。
2. 上場維持にかかるコストの削減
上場を維持するためには、多額のコストが発生しますが、上場廃止によってこれらの費用を削減できる点は大きなメリットです。 企業が負担する上場関連コストは、直接的費用から間接的費用まで多岐にわたります。
費用の種類 | 具体例 |
---|---|
直接的費用 | 証券取引所への年間上場料、TDnet利用料 |
間接的費用 | 監査法人への監査報酬、開示書類作成費用、株主名簿管理人への信託報酬 |
人的・時間的コスト | 情報開示や株主対応に費やされるリソース |
これらのコスト削減は、企業の収益性改善や財務体質の強化に直接的に貢献します。
(1) 年間上場料、TDnet利用料などの直接的費用
上場企業が負担する直接的な費用として代表的なものが、証券取引所に毎年支払う年間上場料です。 この金額は企業の時価総額などに応じて変動し、規模の大きな企業ほど高額になります。 また、投資家向けの情報開示システムであるTDnetの利用料も、上場企業が負担する費用の一つです。
上場廃止により、これらの直接的な支払いが完全に不要となり、即効性のあるコスト削減効果が得られます。
(2) 監査法人への報酬、開示書類作成などの間接的費用
上場維持には、財務諸表の信頼性を担保するための監査法人による会計監査報酬が必要です。 上場企業に求められる監査の基準は厳しく、報酬も高額になる傾向があります。 また、金融商品取引法に基づく有価証券報告書や四半期報告書などの開示書類は、作成に専門的な知識と多くの工数を要します。
これらの間接的な費用も、上場廃止によって大幅に削減または不要となり、長期的なコスト負担の軽減につながります。
(3) 目に見えにくい人的・時間的コストの削減効果
経理部門や法務部門、IR担当部門などが、法定開示書類の作成や適時開示、株主総会の準備・運営、投資家からの問い合わせ対応などに多くの時間と労力を費やしています。 これらの業務は専門性が高く、担当者の負担も大きいものです。
上場廃止により業務量が大幅に削減されれば、従業員はより付加価値の高い、本来の業務に集中できるようになります。
3. 敵対的買収リスクの低減
上場廃止は、企業が望まない相手から経営権を奪われる「敵対的買収」のリスクを低減させる効果があります。 上場している企業の株式は証券取引所を通じて誰でも自由に売買できるため、特定の株主が市場で株式を買い集め、経営権の取得を目指すことが可能です。
非公開化により株式が非公開となれば、市場での自由な取引はできなくなり、買収を仕掛ける側は既存の株主と個別に交渉する必要が生じます。 これにより、買収のハードルは格段に高まり、経営の安定性を確保したいと考える企業にとって非常に大きなメリットとなります。
4. 情報開示義務の軽減による経営戦略上の機密保持
上場廃止により、企業は情報開示に関する義務から大幅に解放され、経営戦略上の機密を保持しやすくなります。 上場企業は、投資家保護の観点から、金融商品取引法などに基づき、財務状況や事業内容、リスク情報などを詳細かつタイムリーに開示することが義務付けられています。
しかし、この情報開示が時として競合他社に自社の戦略や弱みを知られるきっかけとなり、競争上不利になる可能性も否定できません。 非公開化すれば、法定開示義務は大幅に軽減されるため、重要な経営情報や開発中の新技術、M&A戦略などを外部に漏らすことなく、水面下で計画を進めることが可能になります。
上場廃止の3つのデメリット

上場廃止には企業にとって重要なデメリットが存在します。 資金調達の制約やブランドイメージの低下、株式の流動性減少など、企業活動に大きな影響を及ぼすため、これらを正しく理解することが不可欠です。
上場廃止に伴う主なデメリットは以下の3つです。
- 資金調達手段の制約と選択肢の減少
- 企業ブランドイメージ・社会的信用の低下リスク
- 株式の流動性低下と既存株主への影響
それぞれ詳しく解説します。
1. 資金調達手段の制約と選択肢の減少
資金調達手段の制約と選択肢の減少は、上場廃止の大きなデメリットの一つです。 上場企業は株式市場を通じて、公募増資などにより大規模な資金調達を行うことが可能です。 しかし、非公開化すると、この有力な手段が利用できなくなります。
新株を発行して広く投資家から資金を集めることができなくなるため、事業拡大や大型投資に必要な資金を確保する上で、選択肢が狭まることになります。
(1) 株式市場を通じた大規模な資金調達(公募増資など)が不可能に
上場企業にとって株式市場は、大規模な資金調達を実現するための重要なプラットフォームです。 特に公募増資は、広く一般の投資家から多額の資金を比較的迅速に集めることができる有効な手段となります。 しかし、上場廃止により非公開企業となると、この株式市場を通じた資金調達の道が閉ざされてしまいます。
これにより、将来の成長に向けた大規模な研究開発投資や、M&Aに必要な資金の確保が難しくなるケースが考えられます。
(2) 銀行借入や私募債など、資金調達方法が限定される可能性
非公開企業になると、資金調達の方法は主に銀行からの借入や、特定の投資家を対象とする私募債の発行などに限定される傾向があります。 株式市場を通じた資金調達ができないため、これらの間接金融への依存度が高まります。
しかし、銀行借入には返済義務が伴い、金利負担も発生します。 また、私募債は発行できる相手が限られるため、常に希望通りの条件や金額で資金を調達できるとは限りません。
2. 企業ブランドイメージ・社会的信用の低下リスク
企業ブランドイメージや社会的信用の低下リスクも、上場廃止に伴う無視できないデメリットです。 一般的に「上場企業」であることは、厳しい審査基準をクリアし、情報開示を行っている証として、社会的な信頼性の高さを象徴するものと受け止められています。
そのため、上場廃止によってこのステータスを失うことは、金融機関や取引先、顧客や就職希望者からの評価に影響を与える可能性があります。 融資条件が厳しくなったり、新規取引のハードルが上がったり、優秀な人材の確保が難しくなったりする事態が考えられます。
(1) 「上場企業」というステータスの喪失による影響
「上場企業」という肩書きは、一定の企業規模や経営の透明性、コンプライアンス体制などを備えていることの証として、社会的な信用力を高める効果を持っています。 多くの投資家や金融機関、取引先は、上場企業であることを前提に評価や取引条件を判断しています。
そのため、上場廃止によってこのステータスを失うと、これまでの信用が揺らぎ、ビジネス上の不利益につながる可能性があります。
(2) 金融機関や取引先からの評価の変化
金融機関や取引先は、企業の信用力を評価する上で、上場企業であるかどうかを重要な判断材料の一つとしています。 上場企業は財務情報などの企業情報を定期的に開示する義務があるため、経営の透明性が高く、比較的評価しやすい対象です。
しかし、非公開化により情報開示の頻度や詳細度が低下すると、外部からは企業の経営実態が見えにくくなります。 その結果、金融機関はリスクをより高く見積もり、融資の審査を厳格化したり、金利を引き上げたりする可能性があります。
(3) 人材採用における競争力への影響
一般的に、上場企業は知名度が高く、経営の安定性や将来性に対する期待感から、就職希望者にとって魅力的な選択肢となりやすい傾向があります。 福利厚生が充実しているイメージを持つ人もいるでしょう。
しかし、上場廃止となると、こうしたイメージが薄れ、「非上場企業」というだけで選択肢から外されたり、他の上場企業との比較で不利になったりする可能性があります。 特に、新卒採用や若手の中途採用において、その影響が現れやすいと考えられます。
3. 株式の流動性低下と既存株主への影響
株式の流動性低下と、それに伴う既存株主への影響も、上場廃止における重要なデメリットです。 上場株式は証券取引所という公的な市場で、不特定多数の投資家によって日々活発に売買されており、高い流動性(換金性)を持っています。
しかし、上場廃止となると、この市場での取引ができなくなるため、株主は保有する株式を自由に売却することが困難になります。 売却したい場合は、買い手を見つけて相対で取引するなどの限られた方法しかなくなり、換金性が著しく低下します。
(1) 市場での自由な売買が不可能になり、換金性が著しく低下
上場廃止の最も直接的な影響は、証券取引所での株式売買ができなくなることです。 これにより、株主は保有する株式を売りたいと思った時に、市場を通じて簡単かつ迅速に現金化することができなくなります。
非公開株式の売買は基本的に当事者間の相対取引となるため、買い手を見つけること自体が困難になります。 また、買い手が見つかったとしても、公正な価格で取引できる保証はありません。
(2) 上場廃止決定後の株価下落リスク
一般的に、上場廃止が決定されると、その企業の株式に対する投資家の関心は薄れ、株価は下落する傾向があります。 特に、整理銘柄に指定されると、取引最終日に向けて売り注文が増加し、株価が大きく下落するリスクが高まります。
これは、市場での売買機会が失われることへの懸念や、企業の将来性に対する不安感などが反映されるためです。 TOB(株式公開買付)が行われる場合は、市場価格よりも高い価格で買い取られることもありますが、必ずしも全てのケースでそうなるとは限りません。
(3) 保有し続ける場合の権利と注意点
上場廃止後も株式を保有し続けることを選択した場合、株主としての基本的な権利(配当を受け取る権利や株主総会での議決権など)は原則として維持されます。 しかし、前述の通り、株式の売却は非常に困難になります。
また、非公開企業となると、上場企業に比べて情報開示の義務が軽減されるため、企業の経営状況を詳細に把握することも難しくなる可能性があります。 配当や株主優待の継続有無も、企業の判断次第となります。
(4) いわゆる「紙切れ」になるケースとは?
上場廃止そのものが、直ちに株式の価値をゼロにするわけではありません。 しかし、上場廃止の原因が経営不振や債務超過であり、その後、会社が倒産したり、法的な清算手続きに入ったりした場合には、株式の価値は実質的になくなってしまいます。
特に、会社の財産を処分してもなお負債を返済しきれない場合は、株主への分配は行われず、株式は無価値となります。 株主にとって最も避けたい事態は、保有する株式の価値がゼロ、つまり「紙切れ」になってしまうことです。
上場廃止が決定したら?手続きの流れと保有株式の行方

もし、保有している株式や関わりのある企業が上場廃止となると決定された場合、どのような手続きが進み、自分の持っている株式はどうなるのか、不安に感じる方もいらっしゃるでしょう。
ここでは、上場廃止が決定されてから実際に廃止されるまでのプロセスと、その後の株式の扱いについて解説します。
上場廃止決定から最終売買日までのプロセス
上場廃止が決定されると、証券取引所はその事実を公表し、投資家への周知と売買機会の提供のため、一定期間を経て最終売買日を迎えるという段階的なプロセスを踏みます。 これは、突然取引ができなくなることによる投資家の混乱を防ぎ、市場の秩序を維持するために設けられた手順です。
具体的には、以下のステップで進みます。
- 証券取引所による上場廃止の決定・公表
- 整理銘柄への指定
- 最終売買日の到来
証券取引所による上場廃止決定と公表
上場廃止は、最終的に証券取引所が決定し、その情報を広く一般に公表することで正式な手続きが開始されます。 企業が自主的に上場廃止を申請する場合でも、上場維持基準への抵触などにより取引所の判断で廃止が決まる場合でも、必ず取引所による決定と公表というステップを踏みます。
公表は、通常、証券取引所のウェブサイトなどで行われます。 投資家や市場関係者に対して、どの企業の株式が、いつ、どのような理由で上場廃止になるのかを明確に伝えます。
整理銘柄への指定期間は通常1ヶ月間
上場廃止が決定されると、その株式は通常「整理銘柄」に指定され、投資家への周知と最終的な売買機会を提供するための期間が設けられます。 この整理銘柄としての指定期間は、原則として上場廃止が決定した日から上場廃止日までの1ヶ月間です。
この期間中、投資家はまだ証券取引所を通じて株式を売買することが可能です。 ただし、上場廃止が近い銘柄であるため、買い手が少なくなり、希望する価格で売却できない、あるいは全く売買が成立しないリスクも伴います。
最終売買日の到来と上場廃止
整理銘柄の指定期間が終了すると、その最終日が「最終売買日」となります。 そして、最終売買日の翌営業日付で、その株式は正式に上場廃止となります。
この日以降、当該株式は証券取引所の売買システムから取り除かれ、市場を通じて取引することは一切できなくなります。 つまり、株主にとっては、証券会社を通じて自由に株式を売買する機会が失われることを意味します。
上場廃止後の株式の主な取り扱い方法
市場での売買ができなくなるため、主な取り扱い方法として以下の3つが存在します:
- TOB(株式公開買付)による買い取り
- スクイーズアウト
- 非公開株式として保有継続
それぞれの方法について順にご説明いたします。
TOB(株式公開買付)による買い取り
TOBとは、特定の企業(買付者)が、期間、株数、価格を公開して、不特定多数の株主から市場外で株式を買い付ける制度のことです。 M&Aによる完全子会社化やMBO(経営陣による自社買収)などを目的として上場廃止を行う際に、このTOBが実施されることが多くあります。
買付者は対象企業の経営権を取得するため、株主に対して株式の売却を促します。 通常、TOB価格は、発表前の市場株価に一定のプレミアム(上乗せ価格)が加算されることが一般的です。
スクイーズアウト
スクイーズアウトとは、大株主(多くの場合、親会社やMBOを実施する経営陣など)が、少数株主からその保有株式を強制的に買い取る手続きのことです。 これは会社法で認められている手法で、例えば、大株主が議決権の90%以上を保有している場合などに、残りの少数株主に対して金銭を対価として交付し、その株式を取得することができます。
少数株主にとっては、自身の意思に関わらず強制的に株式を手放すことになりますが、通常は公正な価格が算定されて支払われます。 スクイーズアウトは、企業が完全子会社化などを実現し、経営の意思決定を迅速化するために行われる法的な手段です。
非公開株式として保有継続
上場廃止後も、株主は引き続きその企業の株主としての権利(剰余金の配当を受け取る権利や株主総会での議決権など)を保有し続けることができます。 ただし、この場合、株式は非公開株式(未公開株式、譲渡制限株式)となり、証券取引所での売買はできなくなります。
そのため、株式の流動性は著しく低下し、売却したいと思っても買い手を見つけることが非常に困難になります。 また、非公開企業となると、上場企業に比べて情報開示義務が軽減されるため、企業の詳細な経営状況を把握することも難しくなる可能性があります。
上場廃止は誰にどう影響する?株主・従業員への影響

上場廃止という企業の大きな変化は、その企業の株式を保有する株主や、そこで働く従業員など、様々な関係者に影響を及ぼします。
特に株主にとっては、保有資産の価値や権利に直接関わる重大な出来事です。 ここでは、まず株主に対してどのような具体的なメリットやデメリットが生じるのかを再整理し、詳しく解説していきます。
株主への影響:メリット・デメリットの再整理
上場廃止が株主にもたらす影響は一様ではありません。 メリットとなる側面とデメリットとなる側面があり、その状況は上場廃止の理由やその後の対応によって大きく異なります。
主な影響として以下が挙げられます。
影響の種類 | 具体的な内容 |
---|---|
デメリット | ・市場での自由な売買ができなくなり、株式の換金性が著しく低下する ・企業の経営状況によっては、株価が下落したり、価値がゼロになったりするリスクがある |
メリット | ・M&AやMBOに伴う場合、TOBにより市場価格よりも有利な条件で売却できる可能性がある |
その他 | ・配当や株主優待の扱いが変わる可能性がある |
換金機会の喪失と価値変動リスク
株主にとって、保有株式を市場で自由に売買できなくなることは、大きなデメリットです。 上場株式であれば、証券取引所を通じていつでも時価で売却し、現金化することが可能です。
しかし、上場廃止後はその市場がなくなるため、株式を売りたいと思っても、買い手を見つけること自体が困難になります。 加えて、上場廃止に至る経緯(特に業績不振や不祥事など)によっては、企業の信用が低下し、株式の価値そのものが大きく下落するリスクも伴います。
TOB価格が市場価格より高い場合のメリット
M&Aによる完全子会社化やMBOを目的とした上場廃止の場合、そのプロセスの一環としてTOBが実施されることが一般的です。 TOBでは、買付者(親会社や経営陣など)が、既存の株主から株式を買い取るために価格を提示します。
この際、買付価格は、TOB発表前の市場株価に対して、一定のプレミアム(上乗せ額)が付けられることが多くあります。 株主にとっては、市場で売却するよりも有利な価格で保有株式を現金化できる、またとない機会となる可能性があります。
配当や株主優待の継続・変更・廃止の可能性
上場廃止後も、企業が存続する限り、株主は配当を受け取る権利や、企業が任意で設けている株主優待制度の対象となる権利を基本的には持ち続けます。 しかし、実際に配当が支払われるか、株主優待が継続されるかは、非公開化された後の企業の方針次第となります。
経営の自由度が高まる反面、株主への利益還元策が見直され、配当金額が変更されたり、株主優待制度が変更または廃止されたりする可能性も十分に考えられます。 特に、株主数が大幅に減少する場合は、制度維持のメリットが薄れると判断されることもあります。
従業員への影響:何が変わる可能性があるのか?
上場廃止が従業員に与える主な影響や変化の可能性として、以下の点が考えられます。
- 雇用契約への直接的な影響は少ない傾向
- ストックオプションの権利や価値への影響が大きい
- 経営方針の変化に伴う企業文化や待遇への間接的な影響
雇用契約への直接的な影響は少ないケースが多い
上場廃止は、あくまで株式が取引される市場が変わる(もしくはなくなる)ということであり、会社自体が即座に消滅したり、事業内容が根本から変わったりするわけではありません。 そのため、従業員と企業との間で結ばれている雇用契約(労働条件、給与、勤務地など)は、原則としてそのまま維持されます。
会社が上場廃止を理由に、一方的に従業員にとって不利益な条件変更を行うことは、労働関連法規によって制限されています。 ただし、M&Aに伴う組織再編や、経営不振が背景にある場合など、上場廃止の「原因」によっては、結果的に人員整理や配置転換が行われる可能性は残ります。
ストックオプションの権利はどうなるか?
従業員に付与されているストックオプションの権利は、上場廃止によってその価値や権利行使の可否、条件などが大きく変わる可能性があります。 上場廃止となると株式は市場で取引されなくなり、客観的な株価が存在しなくなります。
そのため、権利を行使して株式を取得したとしても、その株式を市場で売却して利益を得ることができなくなります。 ストックオプションを保有している従業員は、上場廃止が決定した場合、自身の権利がどのように扱われるのか(例:権利失効、条件変更、金銭補償など)を、契約内容や会社からの説明で必ず確認する必要があります。
経営方針の変化に伴う企業文化や待遇への間接的な影響
上場廃止によって、企業は短期的な株価や業績へのプレッシャーから解放され、より中長期的な視点での経営判断や、大胆な改革を行いやすくなります。 例えば、M&Aによって親会社ができた場合は、親会社の企業文化や人事制度、給与体系などが導入される可能性があります。
MBOの場合は、経営陣のリーダーシップのもと、事業の選択と集中が進められ、組織風土や評価制度が変わることも考えられます。 こうした経営方針の転換は、必ずしも悪いことばかりではなく、従業員の成長機会の創出や、より働きがいのある環境整備につながる可能性もあります。
【事例紹介】上場廃止を選択した有名企業のケーススタディ

上場廃止は理論だけでなく、実際の企業がどのような背景で決断し、その後どうなったかを知ることで、より深く理解できます。
ここでは、MBO、M&A、そして特に注目を集めた有名企業の事例をいくつかご紹介し、その背景や動向を探ります。
MBOによる非公開化事例とその背景
まず、経営陣が自ら非公開化を選択するMBO(マネジメント・バイアウト)の事例を見ていきましょう。
近年、経営陣が投資ファンドなどと協力して自社の株式を買い取り、非公開化を目指すMBOの事例が増加傾向にあります。 この背景には、短期的な株主の意向に左右されず、中長期的な視点での経営改革を断行したいという経営陣の考えがあります。
また、上場維持にかかるコストの削減や、アクティビスト(物言う株主)への対応負担軽減、敵対的買収リスクの回避といった目的も挙げられます。 具体的な事例としては、以下のような知名度の高い企業がMBOによる上場廃止を選択しています。
- 大正製薬ホールディングス(「リポビタン」シリーズ)
- ベネッセホールディングス(通信教育)
- キリン堂ホールディングス(ドラッグストア)
- ニチイ学館(介護サービス)
- 幻冬舎(出版社、ファンドによる株式買い占めへの対抗策としてMBOを実施し、その後デジタル分野への注力で成長を遂げました)
MBOは、経営陣が主体的に経営環境を整え、企業の持続的な成長を目指すための戦略的な選択肢として活用されています。
M&Aによる完全子会社化の事例
次に、他の企業グループの一員となるM&A(合併・買収)によって上場廃止となった企業の事例をご紹介します。
M&Aの結果、ある企業が他の企業の完全子会社となることで上場廃止に至るケースも、非常に多く見られます。 これは、親会社となる企業が、グループ全体の経営効率を高めたり、事業間のシナジー(相乗効果)を最大化したり、意思決定を迅速化したりすることを目的として行われます。
近年では、経営不振に陥った企業が、大手企業の傘下に入る形で経営再建を目指す事例も見受けられます。 例えば、以下のような事例があります。
- イオンによるイオンモールの完全子会社化
- ゼンショーホールディングスによるマルヤ(スーパーマーケット)の完全子会社化
- 村田製作所による東光(電子部品メーカー)の完全子会社化
- ヤマダホールディングスによる大塚家具の完全子会社化(経営不振)
- NIPPON EXPRESSホールディングスによる日本通運の完全子会社化(持株会社制移行)
M&Aによる完全子会社化は、企業グループ全体の競争力強化を目指す動きの中で多く見られます。
注目された上場廃止事例とその後の動向分析
最後に、その経緯や規模から社会的な関心を集めた上場廃止事例と、その後の動きについて触れたいと思います。
企業の規模や知名度、上場廃止に至った背景などから、社会的に大きな注目を集める事例も存在します。 その代表格と言えるのが東芝の事例です。
同社は、2015年に発覚した不正会計問題や、アメリカの原子力事業における巨額損失により深刻な経営危機に陥りました。 その後、経営再建を目指す中で海外ファンドなどの「物言う株主」との対立も経験し、最終的には2023年に国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)を中心とする企業連合によるTOB(株式公開買付)を受け入れ、上場廃止となりました。
現在は、非公開企業の立場で経営の安定化と再建を進めている段階です。 また、天然調味料メーカーの焼津水産化学工業の事例では、複数の企業によるTOB合戦が繰り広げられ、株価が大きく上昇したことで話題となりました。
上場廃止後に再上場することは可能か?

一度上場廃止となった企業が、再び証券取引所に上場することはできるのでしょうか。
非公開化を選択した企業や、やむを得ず上場廃止となった企業が、将来的に再び株式市場への復帰を目指すケースについて、その可能性や条件、動機、そして乗り越えるべきハードルについて解説します。
再上場の可能性と基本的な条件
まず、上場廃止後に再び上場を目指すことは可能なのか、そしてそのためにはどのような条件が必要となるのかについてご説明します。
結論として、上場廃止後に再上場することは可能です。 しかし、それは簡単な道のりではなく、証券取引所が定める厳しい条件をクリアする必要があります。
再上場するためには、まず上場廃止に至った原因(例えば経営不振や不祥事など)が解消され、財務状況が健全化していることが大前提となります。 加えて、適切な内部管理体制(ガバナンス体制)が構築・運用されており、投資家保護の観点から十分な情報開示体制が整備されていることも求められます。
再上場を目指す企業の動機・目的
では、一度非公開化の道を選んだ企業や、上場廃止を経験した企業が、なぜ再び上場を目指すのでしょうか。
その背景にある動機や目的を見ていきます。 企業が再上場を目指す主な動機には、事業成長のための資金調達手段の再確保、企業イメージや社会的信用の向上、そして経営の透明性を高めることなどが挙げられます。
また、再上場は経営の健全性や透明性が回復したことの証となり、顧客や取引先、従業員からの信頼回復にも繋がります。 再上場は、企業が新たな成長ステージに進むための戦略的なステップと位置づけられることが多いのです。
再上場のハードルと審査のポイント
再上場を実現するためには、多くの課題を克服し、証券取引所による厳格な審査を通過しなければなりません。
再上場に向けたハードルは高く、新規上場(IPO)と同様、あるいはそれ以上に厳しい審査が行われると考えられます。 証券取引所は、投資家保護を最重要視するため、企業のあらゆる側面を精査します。
特に重要視されるのは、以下の点です。
- 財務諸表の信頼性と安定性
- 過去に上場廃止の原因となった問題(不祥事や法令違反など)が完全に解決され、再発防止策が講じられているか
- 実効性のある内部統制システムが構築・運用されているか
- 経営陣が上場企業を運営するにふさわしい適格性を有しているか
- 投資家に対して適切な情報開示を行う体制が整っているか
特に、過去に問題を起こした企業の場合、その原因究明と再発防止策の有効性が厳しく問われることになります。
上場廃止のメリット・デメリットに関するよくある質問(Q&A)

上場廃止について、メリットやデメリットに関して疑問をお持ちの方も多いかと思います。
ここでは、よく寄せられるご質問とその回答をQ&A形式でまとめました。
Q1. 上場廃止の主なメリットは何ですか?
A. 主なメリットは3つ挙げられます。
1つ目は、株主の意向に左右されず、経営陣が迅速かつ柔軟な意思決定を行えるようになることです。 2つ目は、年間上場料や監査費用、IR活動費など、上場を維持するために必要な様々なコストを削減できる点です。
3つ目は、株式が市場で自由に売買されなくなるため、望まない相手からの敵対的な買収リスクを低減できることです。
Q2. 上場廃止にはどんなデメリットがありますか?
A. デメリットも主に3点考えられます。
まず、株式市場を通じた公募増資などができなくなり、資金調達の手段が銀行借入などに限定される可能性があります。 次に、「上場企業」というステータスを失うことで、社会的な信用やブランドイメージが低下し、取引や採用活動に影響が出る恐れがあります。
最後に、株主にとっては市場での株式売却が困難になり、換金性が著しく低下する点が挙げられます。
Q3. 上場廃止になると、持っている株はどうなりますか?
A. 上場廃止が決定されると、通常1ヶ月程度の「整理銘柄」指定期間を経て、市場での売買ができなくなります。
多くの場合、M&AやMBOに伴う上場廃止では、TOB(株式公開買付)により市場価格より高い価格で買い取られる機会があります。 TOBに応じない場合やTOBがない場合、スクイーズアウト(強制買取)の対象となるか、非公開株式として保有し続けることになりますが、換金は非常に困難になります。
Q4. 上場廃止は従業員の給料や待遇に影響しますか?
A. 上場廃止自体が、直ちに雇用契約の変更や給与・待遇の悪化に繋がるわけではありません。
ただし、経営方針の変更に伴い、将来的に給与体系や福利厚生が見直される可能性はあります。 また、ストックオプションを保有している場合、上場廃止により権利行使の条件が変わったり、価値が変動したりする可能性があるため、会社からの説明を確認することが重要です。
Q5. なぜ経営戦略として上場廃止を選ぶ企業があるのですか?
A. 企業が経営戦略として上場廃止を選ぶ主な理由は、経営の自由度と機動性を高めるためです。
非公開化することで、短期的な株価や業績に捉われず、中長期的な視点での経営改革や大規模な投資を実行しやすくなります。 また、株主総会の運営やIR活動にかかる負担、アクティビスト(物言う株主)への対応コストを軽減する目的や、敵対的買収を防ぐ目的もあります。
まとめ:上場廃止のメリット・デメリットを正しく理解して行動しよう
上場廃止は経営の自由度向上やコスト削減といったメリットがある一方、資金調達の制約や信用低下、株式の流動性喪失といったデメリットも存在します。 上場廃止という事象に直面した際には、その背景にある理由(戦略的な選択なのか、やむを得ない事情なのか)をまず理解することが重要です。
そして、ご自身が株主なのか、従業員なのか、あるいは取引先なのかという立場に応じて、どのような影響が考えられるのか、どのような対応をとるべきなのかを冷静に判断する必要があります。 特に株主の方は、TOBやスクイーズアウトの条件、保有継続のリスクなどを正確に把握し、ご自身の資産を守るための適切な行動をとってください。
不確実な情報に流されず、正しい知識に基づいて判断することが、最善の結果につながるでしょう。