上場廃止するとどうなる?株・会社・社員への影響と取るべき行動を徹底解説
- 上場廃止の定義:そもそも上場廃止とは何か、基本的な意味を正確に把握できます。
- 上場廃止の理由:なぜ企業が上場廃止になるのか、強制的な理由と自主的な経営戦略としての理由の両面から理解できます。
- 決定から実施までの流れ:監理銘柄や整理銘柄への指定を経て、実際に上場が廃止されるまでの具体的なステップがわかります。
- 株主・会社・従業員への影響:保有株の価値や売買方法、株主権利の行方、会社経営のメリット・デメリット、従業員の雇用や待遇の変化など、それぞれの立場での影響を詳しく知ることができます。
- 上場廃止後の選択肢と可能性:企業がその後どのような道を歩むのか(事業継続、M&A、清算など)、そして再上場の可能性があるのかどうかについて理解を深められます。
「自分の持っている株が『上場廃止』になるってどういうこと?価値はなくなるの?」「勤めている会社が上場廃止になったら、社員の雇用や給料はどうなるの?」突然の知らせに、そんな疑問や不安を感じていませんか。
この記事では、「上場廃止」の基本的な意味から、株・会社・社員それぞれへの具体的な影響、上場廃止までの流れ、そしてその後の企業の行方まで、取るべき行動を交えながら分かりやすく徹底解説します。
この記事を読めば、上場廃止に直面した際の正しい知識と冷静な判断材料が得られ、適切な対応をとるための一歩を踏み出せるはずです。
上場廃止とは?基本的な意味を理解する

上場廃止とは、企業が証券取引所での株式の売買が停止されることを指します。
ここでは、上場廃止の基本的な意味を理解するために、上場廃止の定義と、上場企業と非上場企業の違いについてあらためて確認しましょう。
上場廃止の定義:証券取引所での売買停止
上場廃止とは、企業が発行する株式が、証券取引所での売買対象から除外されることを意味します。
この措置が決定されると、投資家はその企業の株式を証券取引所を通じて売買できなくなります。
ただし、重要な点として、上場廃止は、必ずしも会社の解散や株主の権利そのものが消滅することを意味するわけではありません。
上場廃止に至る背景には、以下のような様々な理由が存在します。
- 経営破綻
- 業績不振(例:上場維持基準を満たせない)
- 企業の自主的な判断(例:MBOによる非公開化)
このように、上場廃止は企業の状況を示す重要な出来事であり、その定義を正しく理解しておく必要があります。
上場廃止の定義を正確に把握することは、株式投資や企業経営において重要です。
上場と非上場の違い
上場企業と非上場企業の最も根本的な違いは、その企業の株式が証券取引所で公開され、不特定多数の投資家によって自由に売買できるか否かという点にあります。
日本の企業の多く(約99%とも言われる)は非上場企業です。
両者の主な違いを以下の表にまとめます。
比較項目 | 上場企業 | 非上場企業 |
---|---|---|
株式公開 | あり(証券取引所で売買可能) | なし(証券取引所での売買は不可) |
主な株主 | 不特定多数の投資家 | 経営者一族、役員、従業員、取引先、特定の投資家など |
資金調達 | 市場からの広範な資金調達が可能(株式発行など) | 銀行借入や特定の投資家からの出資が中心 |
情報開示 | 投資家保護のため、経営状況に関する厳格な情報開示義務あり | 情報開示義務は限定的 |
経営の自由度・意思決定 | 株主の意向を尊重する必要があり、意思決定に時間がかかる傾向 | 経営の自由度が高く、迅速な意思決定が可能 |
社会的信用度 | 一般的に高いとされる | 上場企業に比べると相対的に低い場合がある |
このように、上場企業は資金調達の選択肢が広い反面、情報開示や株主への説明責任が求められます。
一方、非上場企業は資金調達手段が限られるものの、経営の自由度が高いという特徴があります。
どちらの形態が適しているかは、企業の成長段階や経営戦略によって異なります。
なぜ上場廃止になるのか?主な理由と背景

上場廃止に至る理由は様々ですが、大きく分けて証券取引所が定める基準に抵触する場合と、企業が自主的に経営戦略として選択する場合があります。ここではまず、企業の意思に関わらず、強制的に上場が廃止されてしまう主な理由とその背景について詳しく見ていきましょう。
理由1:証券取引所の上場廃止基準への抵触(強制的な廃止)
証券取引所の上場廃止基準への抵触は、企業の意思とは無関係に上場が廃止される主な理由の一つです。 証券取引所は、投資家保護や市場の信頼性維持の観点から、上場企業に対して様々な基準を設けています。
これらの基準を満たせなくなった場合や、重大なルール違反があった場合には、強制的に上場廃止となります。具体的には、以下のようなケースが挙げられます。
- 上場維持基準への不適合
- 有価証券報告書等の提出遅延・不記載
- 虚偽記載
- 監査法人の不適正意見等
- 特設注意市場銘柄等からの改善見込みなし
- 上場契約違反・その他(反社会的勢力との関与など)
- 経営破綻
上場維持基準への不適合(純資産、株主数、売買高など)
上場維持基準への不適合は、強制的な上場廃止につながる代表的な理由です。 証券取引所は、市場区分ごとに以下のような具体的な維持基準を定めています。
- 株主数
- 流通株式数
- 流通株式時価総額
- 売買代金(または売買高)など
たとえば、東京証券取引所のプライム市場では株主数800人以上、流通株式時価総額100億円以上といった基準があります。これらの基準を一定期間(原則として1年、売買高基準の場合は6か月)満たせない状態が続くと、改善期間が設けられた後、最終的に上場廃止となります。
有価証券報告書等の提出遅延・不記載
有価証券報告書や半期報告書といった法定開示書類の提出遅延や不記載も、上場廃止の理由となります。 これらの書類は、投資家が企業の財務状況や経営成績を理解し、投資判断を行う上で極めて重要な情報源です。
そのため、提出が大幅に遅れたり、記載すべき重要な情報が含まれていなかったりすると、投資家は適切な判断材料を欠くことになってしまいます。具体的には、法定の提出期限から原則1か月以内に監査報告書を添付した有価証券報告書などを提出できない場合、上場廃止基準に抵触します。
虚偽記載・不適正意見等
有価証券報告書などに事実と異なる重大な記載(虚偽記載)があった場合や、監査法人から「不適正意見」または「意見不表明」といった監査意見が出された場合も、上場廃止の対象となります。 虚偽記載は、投資家を意図的に欺く行為であり、資本市場の公正性を根底から揺るがしかねません。
また、不適正意見は財務諸表全体に重大な誤りがあること、意見不表明は監査に必要な証拠が十分に得られないことを示しています。たとえば、実際には存在しない売上を計上して財務諸表を作成する行為などが虚偽記載にあたります。
特設注意市場銘柄等からの改善見込みなし
特設注意市場銘柄(いわゆる特注銘柄)などに指定され、定められた期間内に内部管理体制の改善が認められない場合、上場廃止となります。 特注銘柄は、有価証券報告書等における虚偽記載などにより、本来であれば上場廃止基準に抵触する可能性があったものの、改善の機会が与えられた企業に対して指定されます。
取引所は指定企業に内部管理体制の改善を求め、指定から原則として1年経過後の審査で改善が認められない場合、上場廃止となります。
上場契約違反・その他(反社会的勢力との関与など)
上場時に証券取引所と結んだ上場契約に重大な違反があった場合や、反社会的勢力との関与が判明した場合なども、上場廃止の理由となり得ます。 上場契約は、上場企業が遵守すべき基本的なルールを定めたものです。
例えば、以下のようなケースが考えられます。
- 上場申請時に提出した書類の記載内容に重大な違反が見つかった場合
- 企業が反社会的勢力に対して資金提供を行っていた事実などが発覚した場合
経営破綻・倒産
経営破綻や倒産(破産手続、民事再生手続、会社更生手続の開始申立てなど)も、上場廃止の理由の一つです。 経営破綻に陥った企業は、事業の継続自体が困難となり、株主が保有する株式の価値も大幅に失われる可能性が高い状態にあります。
このような状況にある企業の株式を、引き続き証券取引所で取引させることは、投資家保護の観点から適切ではありません。ただし、統計的に見ると、経営破綻そのものを直接的な理由とする上場廃止の件数は比較的少ない傾向にあります。
理由2:企業による自主的な上場廃止申請(経営戦略としての選択)
近年では、企業が自らの意思で、経営戦略の一環として上場廃止を積極的に選択するケースも増えています。上場廃止は、必ずしもネガティブな理由ばかりではありません。ここでは、その代表的な理由を見ていきましょう。
MBOによる非公開化
MBO(マネジメント・バイアウト)とは、企業の経営陣が株主から自社の株式を買い取り、非公開化する手法を指します。 この選択がなされる主な理由は、外部の株主の意向に左右されることなく、経営の自由度を高め、中長期的な視点に基づいた経営改革や事業再構築を迅速に実行するためです。
上場している状態では株主からの短期的な業績向上へのプレッシャーが強く、大胆なリストラクチャリングや将来に向けた大規模な投資に踏み切りにくい場合があります。MBOによって非公開化することで、経営陣は株主の目を気にすることなく、より柔軟かつ迅速な意思決定が可能となります。
完全子会社化(親会社による吸収合併など)
完全子会社化とは、親会社が上場している子会社の発行済株式のすべてを取得し、その子会社を非公開化する手法です。 この目的は、主にグループ全体の経営効率を高めること、意思決定のスピードを上げること、そして親会社と子会社の間のシナジー効果を最大化することにあります。
親会社は、株式交換や株式公開買付(TOB)といった方法を用いて子会社の株式を100%取得します。これにより、子会社は上場廃止となり、親会社の経営戦略のもとでより一体的な運営が可能となります。
上場維持コストの削減目的
企業が自主的に上場廃止を選択する理由の一つに、上場維持にかかるコストの削減があります。 上場企業であるためには、以下のような多岐にわたるコストが発生し続けます。
- 監査法人に支払う監査報酬
- 株主総会の開催・運営費用
- 投資家向け広報(IR)活動にかかる費用
- 証券印刷費用
- 証券取引所に納める年間上場料など
これらの費用は、企業の規模や市場区分によって異なりますが、年間で数千万円から場合によっては数億円規模に達することもあります。企業の業績が伸び悩んでいる場合や、株式市場からの資金調達の必要性が低下している場合、上場していることのメリットよりも維持コストの負担の方が大きいと判断されることがあります。
経営の自由度向上・迅速な意思決定のため
経営の自由度を高め、よりスピーディーな意思決定を実現することも、企業が自主的に上場廃止を選ぶ重要な動機となります。 上場企業は、常に株主からの短期的な業績向上に対する期待やプレッシャーにさらされています。
そのため、長期的な視点での大胆な経営判断や、一時的に業績が悪化する可能性のある構造改革などを実行することが難しい場面も少なくありません。非公開化することにより、経営陣は外部株主の意向を過度に気にする必要がなくなり、長期的な視野に立った戦略をより柔軟かつ迅速に実行することが可能になります。
上場廃止までの流れ:決定から実施まで

企業が上場廃止に至るまでには、いくつかの段階的な手続きが存在します。 投資家保護の観点から、その過程は市場に周知されながら進められます。
ここでは、上場廃止が決定し、実際に市場での取引が停止されるまでの具体的な流れを解説します。
監理銘柄への指定:上場廃止の「可能性」を周知
監理銘柄への指定は、投資家に対して当該銘柄が上場廃止となる可能性があることを周知し、注意を促すための重要なステップです。 証券取引所は、企業が上場廃止基準に抵触するおそれがある場合などに、その銘柄を「監理銘柄(審査中)」または「監理銘柄(確認中)」に指定します。
具体的には、以下のようなケースが該当します。
- 時価総額や株主数が上場維持基準を下回った場合
- MBO(経営陣による買収)や完全子会社化の実施が公表された場合
この指定期間中に、証券取引所は上場廃止基準に該当するかどうかの審査や確認を行います。 監理銘柄に指定された段階では、まだ上場廃止が確定したわけではありませんが、投資家は今後の動向を注意深く見守る必要があります。
整理銘柄への指定:上場廃止「決定後」の最終売買期間
整理銘柄への指定は、上場廃止が確定したことを意味し、投資家にとっては市場で株式を売却できる最後の機会となります。 証券取引所が監理銘柄の審査の結果、上場廃止を正式に決定した場合、その銘柄は「整理銘柄」に指定されます。
整理銘柄に指定されると、株価は大きく変動する傾向があり、通常は下落することが多いですが、TOB(株式公開買付)価格に近づくなどの動きを見せることもあります。 投資家は、この期間中に保有株式をどうするか、慎重に判断しなければなりません。
整理銘柄の期間は通常1ヶ月程度
整理銘柄として指定される期間は、証券取引所の規則により原則として1ヶ月間と定められています。 この期間は、株主が上場廃止という事実を受け止め、情報を収集し、保有している株式を市場で売却するかどうかを検討・実行するための時間として設けられています。
ただし、これはあくまで原則であり、個別の事案によっては期間が調整される可能性もあります。 例えば、株式の併合など特別な手続きが伴う場合には、売買整理期間が通常よりも短くなることも考えられます。
この期間に何をすべきか?
株主は、この整理銘柄の期間中に、保有する株式をどうするか最終的な判断を下す必要があります。 主な選択肢は以下の通りです:
- 市場で売却する
- 証券会社を通じて売却注文を出すことが可能
- 株価は不安定になりやすく、希望価格での売却が困難な場合も
- TOBに応募する(MBOや完全子会社化が理由の場合)
- 公表されたTOB価格で買い取ってもらう
- 非公開株式として持ち続ける
- 換金性が著しく低下するリスクを理解する必要
上場廃止日:取引所での売買最終日
上場廃止日は、その株式が公開市場で取引される最後の日であり、この日をもって証券取引所での売買は完全に停止されます。 通常、整理銘柄の指定期間が満了した日の翌営業日が、上場廃止日となります。
この日を過ぎると、証券会社の取引システムからも当該銘柄の情報は削除され、投資家は証券取引所を通じてその株式を売買することが一切できなくなります。 上場廃止日以降、株式の価値が完全になくなるわけではありませんが、換金する手段は極めて限定的になることを理解しておく必要があります。
【株主への影響】保有している株はどうなる?

株の価値:「紙切れ」になるわけではないが市場での売買は不可に
上場廃止によって、保有株式が即座に「紙切れ」になるわけではありません。 株式は会社が存続する限り、依然として会社の所有権の一部を表します。
ただし、証券取引所という公的な市場での売買ができなくなるため、株式の流動性は著しく低下します。売りたい時にすぐに希望の価格で売却することが非常に困難になる点が大きな問題です。したがって、上場廃止は株式の換金性を大きく損なわせる出来事といえます。
非公開株式としての権利(配当請求権、議決権など)は存続する?
上場廃止後も株主としての基本的な権利は原則として存続します。 株式を保有している限り、株主は会社の所有者の一員であることに変わりないためです。
具体的には、以下のような権利が維持されます:
- 配当請求権:会社が利益を上げて配当を実施する場合に配当金を受け取る権利
- 議決権:株主総会に出席して議案に対して投票する権利
ただし、会社が経営破綻した場合などは、これらの権利が実質的に行使できなくなる可能性があります。上場廃止となっても、法律上定められた株主の権利は、会社が清算されない限り原則として保護されます。
売買の機会:いつ、どうやって売る?
上場廃止決定後も、株主が株式を売却する機会はいくつか存在します。 投資家保護の観点や、MBO・完全子会社化といった非公開化の手続きに伴い、売却の機会が設けられるためです。
主な売却方法は以下の通りです。
- 整理銘柄期間中の市場売却
- TOB(株式公開買付)への応募(MBOや完全子会社化の場合)
- 上場廃止後の相対取引や会社への買取請求(限定的)
どの方法を選択するかは、上場廃止の理由やご自身の状況によって慎重に判断する必要があります。
整理銘柄期間中の市場売却が最後のチャンス
整理銘柄期間は、証券取引所の市場を通じて株式を売却できる最後の機会です。 この期間を過ぎると、証券取引所での売買は完全に停止されます。
整理銘柄に指定されると、通常1ヶ月程度の売買期間が設けられます。この期間内であれば、通常通り証券会社を通じて売却注文を出すことが可能です。ただし、株価は不安定になりやすく、特に経営不振が理由の場合は大きく値下がりするリスクがあります。
TOB(株式公開買付)に応じる(MBOや完全子会社化の場合)
MBOや完全子会社化を目的とした上場廃止の場合、TOBに応じることが一般的な売却方法です。 MBO実施者や親会社は、非公開化を達成するために市場の株主から株式を買い集める必要があるためです。
TOBでは、通常市場価格に一定のプレミアム(上乗せ価格)を付けた価格で株式の買い付けが行われます。株主は、提示されたTOB価格や条件を確認し、期間内に証券会社を通じて応募手続きを行います。TOBは、株主にとって市場価格よりも有利な条件で株式を売却できる可能性があるため、重要な選択肢となります。
上場廃止後の相対取引や買取請求(限定的)
上場廃止後に株式を売却する方法は、相対取引や会社に対する株式買取請求などが考えられますが、その機会は限定的です。 非公開株式の買い手を見つけることは容易ではなく、買取請求権の行使には特定の条件が必要となる場合があるためです。
相対取引とは、買い手と売り手が直接交渉して価格や条件を決める取引ですが、非公開株式の買い手を探すのは困難です。株式買取請求権は、株主総会の特定の決議に反対した場合などに認められることがありますが、常に利用できるわけではありません。
上場廃止後に株式を換金することは非常に難しくなるため、原則として整理銘柄期間中やTOB期間中に売却を検討することをおすすめます。
株を持ち続ける選択肢とリスク・期待
上場廃止となった後でも、株主がその株式を持ち続けるという選択肢は存在します。 しかし、その判断には将来への期待と同時に、無視できないリスクが伴います。
ここでは、非公開株式を持ち続けることのメリット・デメリット、そしてしばしば期待される再上場の可能性について詳しく見ていきましょう。
持ち続けるメリット・デメリット
非公開となった株式を持ち続けることには、良い面と注意すべき面の両方があります。
メリット:
- 将来、企業が経営再建や再上場を果たした場合に、大きな利益を得られる可能性がある点
- 特に、経営陣に明確な再建計画があり、事業改善が見込める場合
デメリット:
- 株式の流動性が著しく低下し、売却が非常に困難になる点
- 企業の経営状況が悪化した場合、株式価値がさらに下落するリスクがある点
株式を持ち続けるという選択は、企業の将来性に対する強い確信と、長期的な視点、そしてリスクを受け入れる覚悟が求められます。
再上場への期待は?
再上場への期待は、持ち続ける株主にとっての大きなモチベーションの一つです。 しかし、再上場を実現するためには、企業はまず財務状況を健全化し、しっかりとした内部管理体制を再構築する必要があります。
さらに、証券取引所が定める厳しい上場審査基準をすべてクリアしなければなりません。過去には、一度上場廃止となった企業が経営努力によって再上場を果たした事例も存在しますが、それには多くの時間とコストがかかりますし、すべての企業が成功するわけではありません。
したがって、再上場を期待して株式を持ち続ける場合は、その企業の具体的な再建計画の内容や進捗状況、そして市場全体の環境などを冷静かつ慎重に見極めることが不可欠です。
株価はどう動く?
上場廃止が発表されたり、その可能性が報じられたりすると、株価はどのように変動するのでしょうか。 多くの場合、株価は大きく動きますが、その方向性や度合いは、上場廃止に至る理由によって大きく異なります。
ここでは、廃止理由が株価に与える典型的な影響と、まことしやかに語られる「上場廃止で儲かる」という話の真偽について解説します。
廃止理由による株価への影響
株価が上場廃止に関連してどのように動くかは、その背景にある理由によって全く異なります。
- MBOや完全子会社化(経営戦略)の場合:
- TOB(株式公開買付)が実施されることが一般的
- TOB価格は通常プレミアムが付けられ、株価はTOB価格に近づき上昇する傾向
- 業績不振、経営破綻などの場合:
- 企業の先行き不安から売り注文が殺到
- 株価は急落することが多い
このように、株価の動きを予測するには、なぜ上場廃止に至るのか、その根本的な理由を正確に把握することが極めて重要です。上場廃止の理由が株価の動きを左右する最も大きな要因となります。
「上場廃止で儲かる」は本当か?
結論から言うと、「上場廃止で儲かる」というのは、非常に限定的な状況でのみ起こり得る話であり、一般的に当てはまるものではありません。
確かに、先述したMBOや完全子会社化に伴うTOBのケースでは、TOB価格が市場価格よりも高く設定されるため、その差額分の利益を得られる可能性があります。また、極めて稀なケースですが、経営不振で上場廃止になった企業が、その後の再建期待から非公開市場で株価が評価されることも考えられなくはありません。
しかし、多くの上場廃止、特に経営悪化が理由の場合、株価は大幅に下落します。さらに、整理銘柄期間を過ぎると市場での売買ができなくなり、換金自体が困難になるリスクが非常に高いです。
【会社への影響】経営はどう変わる?

上場廃止は、企業経営のあり方に大きな変化をもたらします。
特に、これまで享受してきた上場のメリットを失うことによるデメリットは無視できません。
資金調達の方法から社会的な評価に至るまで、様々な側面で制約や課題が生じることが一般的です。
ここでは、上場廃止が会社にもたらす主なデメリット、つまり「失うもの」に焦点を当てて詳しく見ていきましょう。
3つのデメリット
上場廃止により企業が失うものは以下の通りです。
- 資金調達手段の制限(市場からのエクイティファイナンス不可)
- 社会的信用・ブランドイメージの低下リスク
- 金融機関からの借入条件への影響
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.資金調達手段の制限(市場からのエクイティファイナンス不可)
証券取引所を通じた株式発行による資金調達が不可能になります。 新株発行による大規模な資金調達ができなくなり、銀行借入などへの依存度が高まります。
その結果、資金調達コストの上昇や財務状況へのプレッシャーが増大するリスクに直面することとなります。
2.社会的信用・ブランドイメージの低下リスク
「上場企業」という肩書きが持つ信頼性や知名度が失われます。 取引先や顧客、金融機関からの見方が変化し、信頼関係に影響が出る可能性があります。
場合によっては、取引条件の見直しを求められたり、新規取引開始が難しくなったりすることも考えられます。
3.金融機関からの借入条件への影響
上場廃止は金融機関から見て信用力の低下要因となり、借入条件が悪化する可能性があります。 具体的には以下のような事態が考えられます。
- 適用金利の引き上げ
- 追加担保の要求
- 融資枠の縮小
財務状況の健全性維持と、金融機関との良好な関係維持にこれまで以上に努める必要があります。
4つのメリット
上場廃止により以下のようなメリットが得られます。
- 経営の自由度向上と迅速な意思決定
- 上場維持コストの大幅削減
- 敵対的買収リスクの低減
- 長期的な視点での経営戦略実行
それぞれ解説していきます。
1.経営の自由度向上と迅速な意思決定
外部株主からの経営プレッシャーから解放され、経営の自由度が格段に向上します。 長期的な成長に必要な投資や事業改革に迅速に取り組めるようになります。
株主総会の開催や複雑な情報開示手続きも不要となり、経営資源を本業に集中できます。
2.上場維持コストの大幅削減
年間数千万円から億単位の上場維持コストが削減できます。 削減対象となる主なコストは以下の通りです。
- 監査法人への監査報酬
- 株主総会運営費用
- IR活動費用
- 証券取引所への上場料
削減されたコストは、研究開発や人材育成など企業成長に直接つながる分野へ振り向けられます。
3.敵対的買収リスクの低減
市場での株式流通がなくなり、敵対的買収のリスクが大幅に低減します。 買収者が株式を買い集めること自体が極めて困難になります。
これにより、経営陣は買収の脅威に煩わされることなく、安定した経営基盤のもとで事業運営に集中できます。
4.長期的な視点での経営戦略実行
短期的な業績や株価変動に左右されず、長期的視点の経営戦略を実行できます。 四半期決算発表などによる市場からの短期的圧力から解放されます。
研究開発や新規事業投資など、将来の成長に不可欠だが時間がかかる取り組みに着実に投資できるようになります。
【従業員への影響】雇用や待遇、キャリアはどうなる?

上場廃止は、株主や会社経営だけでなく、そこで働く従業員の雇用環境やキャリアにも少なからず影響を及ぼします。
雇用契約は守られるのか、給与や福利厚生はどう変わるのか、ストックオプションの価値、さらには社会的信用や仕事への意欲、転職活動に至るまで、従業員が直面する可能性のある変化について、様々な側面から理解を深めていきましょう。
雇用契約:リストラはあるのか?
上場廃止そのものが直接的な理由でリストラが行われることはありません。 企業は法的に雇用契約を尊重する義務があり、上場廃止だけで一方的な解雇はできません。
ただし、廃止の背景に経営不振がある場合は、経営上の判断で人員整理が検討される可能性もあります。 会社の状況を注視することが重要となります。
給与・賞与・福利厚生:待遇の変化
企業の経営状況や新方針により、給与体系や福利厚生の見直しが行われる可能性があります。 コスト削減策として、福利厚生制度の縮小などが検討されることもあります。
ただし、全ての企業で待遇悪化が起きるわけではありません。 経営が安定していれば待遇に変更はない、もしくは改善される場合もあります。
ストックオプションの扱い
株式の非公開化により、ストックオプションの価値や行使条件に大きく影響します。 市場での売買ができなくなり、権利行使後の株式現金化が非常に難しくなります。
MBOの場合はTOB価格による金銭交付もありますが、権利失効のケースもあるため要注意です。 会社発表の詳細確認が重要となります。
社会的信用の変化(ローン審査など)
勤務先の上場廃止は、従業員個人の信用力にも影響する可能性があります。 以下のようなローン審査で影響が出ることがあります。
- 住宅ローン
- 自動車ローン
- クレジットカード
勤務先の安定性が評価項目となるため、上場廃止がマイナス要因となることもあります。 事前の情報収集が望ましいでしょう。
働くモチベーションへの影響
上場廃止は従業員の不安を招き、モチベーション低下につながることがあります。 経営不振が理由の場合や、情報開示が不十分な場合は動揺が広がりやすくなります。
一方、経営陣が明確なビジョンを示せば、一体感が高まりモチベーション向上につながるケースもあります。 経営陣による丁寧な説明と透明性のある情報共有が不可欠です。
転職活動への影響は?
上場廃止は転職活動に一定の影響を与える可能性があります。 企業の知名度や評価は、転職市場での応募者評価にも影響するからです。
ただし、最終的に重視されるのは個人のスキルと実績です。 具体的な能力と成果をアピールできれば、会社の状況に関係なく有利に転職活動を進められます。
上場廃止後の企業の行方と再上場の可能性

上場廃止は企業の終わりを意味するわけではありません。 非公開となった後、企業は様々な道を歩むことになります。
事業継続、M&A、再上場など、企業の将来を決める選択肢と、実際の事例について詳しく見ていきましょう。
事業継続、M&A、事業譲渡、清算など
上場廃止後の企業は、様々な選択肢から進むべき道を選択します。 主な選択肢は以下の通りです。
- 非公開のまま事業を継続
- M&Aで他企業グループに加わる
- 特定事業のみ譲渡(事業譲渡)
- 会社清算
どの道を選ぶかは廃止理由、財務状況、株主構成、経営陣の意向等により異なります。 MBOによる非公開化の場合は、経営陣主導で事業継続・再建が選択されることが多いでしょう。
M&Aや事業譲渡は事業価値維持に有効ですが、清算は資産価値が低く評価されるリスクもあり、慎重な判断が求められます。
再上場を目指すケースとその条件
上場廃止となった企業でも、再上場は可能です。 非公開期間中の経営改善や事業再構築を経て、資金調達や信用力向上を目指します。
MBO企業の中には、当初から企業価値向上後の投資回収戦略として再上場を予定するケースもあります。 ただし、再上場には新規上場同様またはそれ以上に厳しい審査が待っています。
主な審査基準
- 株主数
- 流通株式時価総額
- 財務状況
- コーポレート・ガバナンス体制
MBO後の再上場では、合理性や投資家保護の観点から、通常より詳細な追加審査が行われます。
過去の上場廃止事例から学ぶ(成功例・失敗例)
上場廃止後の企業の行方は様々で、成功事例も失敗事例も存在します。 代表的な事例を見てみましょう。
戦略的な非公開化事例
- 東芝:経営の安定化と迅速な意思決定を目指し、国内連合による TOBを受け入れて非公開化
期待通りに進まなかった事例
- ニッセン:セブン&アイHDによる完全子会社化後も経営不振が継続
- ブラジルビール事業:キリンHDによる買収後、業績不振により売却
TOB不成立事例
- ブルドックソース:買収防衛策により米国ファンドの敵対的TOBが失敗
- ぺんてる:経営陣の反発によりコクヨのTOBが撤退
これらの事例から、上場廃止や非公開化はゴールではなく、その後の戦略実行力と環境変化への対応力が企業の将来を左右することがわかります。
上場廃止したらどうなるかについてのよくある質問(Q&A)

上場廃止に関して、多くの方が疑問に思う点について、Q&A形式でお答えします。
Q. 上場廃止になった株は、証券会社の口座からどうなりますか?
A. 上場廃止が決定すると、その株式は証券取引所での売買ができなくなります。
証券保管振替機構(ほふり)での取り扱いも終了するため、原則として証券会社の口座からはお預かり残高が抹消され、出庫扱いとなります。
その後、株主の情報は発行会社の株主名簿で直接管理されることになります。
特定管理口座での管理が可能な場合もありますが、限定的です。
詳しくは、ご利用の証券会社や発行会社にご確認ください。
Q. 上場廃止後も、株主としての権利(配当や議決権)は残りますか?
A. 会社が倒産や100%減資などによって株主権そのものが失われるケースを除き、会社が存続する場合は、株主としての基本的な権利(配当を受け取る権利や株主総会での議決権など)は原則として残ります。
ただし、株式は証券会社の口座ではなく発行会社の株主名簿で管理されるため、権利行使の方法などが変わる可能性があります。
具体的な取り扱いについては、株式の発行会社に直接お問い合わせいただく必要があります。
Q. 上場廃止になると、必ず会社は倒産するのですか?
A. いいえ、上場廃止が必ずしも会社の倒産を意味するわけではありません。
確かに、経営破綻や深刻な業績不振が理由で上場廃止基準に抵触し、廃止に至るケースもあります。
しかし、近年ではMBO(経営陣による買収)や親会社による完全子会社化といった、経営戦略の一環として自主的に上場廃止を選択する企業も増えています。
統計データを見ても、上場廃止企業のすべてが倒産しているわけではありません。
Q. 上場廃止になった株の売却益や損失は、税金の計算でどう扱われますか?
A. 上場廃止後の株式売却(スクイーズアウトによる金銭交付を含む)は、税務上「非上場株式」の譲渡として扱われます。
たとえ特定口座やNISA口座で保有していたとしても、上場廃止に伴って口座から払い出されるため、これらの制度の対象とはなりません。
税金の扱いは以下のようになります。
- 譲渡益が出た場合:
- 申告分離課税(税率20.315%)となり、原則として確定申告が必要。
- 他の上場株式との損益通算や損失の繰越控除は不可。
- 損失が出た場合:
- 他の上場株式との損益通算や損失の繰越控除は不可。
- 例外的に特定管理口座の条件を満たした場合に限り、損失計上が認められることもある(一般的ではない)。
詳しくは税務署や税理士にご相談ください。
Q. MBOや完全子会社化で上場廃止になる場合、株主は何もしなくてもお金を受け取れますか?
A. TOB(株式公開買付)に応募しなかった株主に対しても、多くの場合、最終的にはスクイーズアウトという手続きが取られます。
これは株式併合などを用いて、少数株主の保有株を1株未満の端数にし、その端数相当分の金銭を交付するものです。
交付される金額は通常、TOB価格と同額に設定されます。
金銭の受け取り方法は、以下のいずれかとなることが多いです。
- 配当金の受け取り方法として登録している口座への振込
- 送付される書類(交付金銭領収証など)を郵便局に持参して現金で受け取る
ただし、自動的に全ての手続きが完了するわけではないため、発行会社からの案内をよく確認し、必要な手続きを行うことが重要です。
受け取りには期限(時効)もあるため注意が必要です。
まとめ:上場廃止に直面した際の心構えと情報収集の重要性
「上場廃止=企業の終わり」と短絡的に考えるのではなく、まずは状況を正確に把握することが重要です。本記事で解説してきたように、上場廃止には強制的なものと自主的なものがあり、株主には整理銘柄期間やTOBといった売却機会が残され、会社や従業員にとってもデメリットだけでなく、新たな戦略実行の機会などのメリットも存在します。
不安を感じるかもしれませんが、最も大切なのは、公式発表などの信頼できる情報源から正確な情報を収集し、ご自身の状況に合わせて冷静に判断し、適切な行動をとることです。 この記事が、上場廃止という局面に直面した皆様にとって、落ち着いて未来への一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。